Q&A1152 顕微授精は危険なのでしょうか | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 「見ただけで精子の状態が悪いからという理由で顕微授精をすることは危険です」「精子の状態が良い人、言い換えればDNA構造も含めて精子機能が良い人、すなわち精子の質が良い人が、顕微授精の適応にならなくてはなりません」この発言をした医師は、顕微授精は危険だとおっしゃっています。

現在不妊治療を経て顕微授精をしてやっと授かり、今4ヶ月です。勿論、不妊治療したクリニックからは顕微授精が危険だとは言われていません。松林先生は、顕微授精は危険だとお思いですか。危険ならば、なぜ多くのクリニックがDNAレベルで精子を調べないのでしょうか。

A 未だにこのようなお考えの医師がおられるのは、ある意味悲しいことです。もちろん、1992年、顕微授精が初めて行われた当初は、長期的な予後も含めて手探り状態だったことに異論はありません。しかし、すでに24年が経過した今、顕微授精によるデメリットは報告されていません。したがって、顕微授精が必要な方には行う、必要でない方には行わない、このようなスタンスが良いと考えます。

次に、何故精子のDNAや遺伝子を調べないのかというと、調べることはある程度できますが、調べたものを使うことができないからです。精子はひとつの細胞でできているため、調べた精子は精子が破壊されるか、調べるために使用した薬剤などをくっつけた精子になってしまいます。これが真実です。たとえば検査を行って、100個の精子の5%が正常だとしましょう。20個に1個正常という確率がわかっても、実際使用する際は、通常通りの方法で選別します。これでは検査の意味が全くありません。したがって、上記の発言をされた医師は、根本的に精子や顕微授精のしくみを理解されていないように思います。