透明帯欠損症は極めて稀な疾患(異常)です。本論文は、完全透明帯欠損症の方の顕微授精による出産報告です。
Fertil Steril 2016; 105: 1232(米国)
要約:34歳、高度乏精子症、他院で6個採卵し、全ての卵子の透明帯が欠損が判明しました。しかし、顕微授精で全て受精せず、当院を受診。完全透明帯欠損症であるとの判断のもとに、卵子および胚になるべく触れないように取り扱う方針として採卵を行いました。11個の卵子/卵丘細胞の塊を採卵で回収し、3個は変性卵、8個が成熟卵でした。8個を2つに分け、4個はパスツールピペット(通常の裸化処理用の器具ではなく)で卵丘細胞を丁寧に完全に外しました(裸化処理)。残りの4個は針先で卵丘細胞を3層残した状態まで外しました。なお、培養液の交換の際には、胚を移動させるのではなく、古い培養液の90%程度を吸い取り、新しい培養液を添加する方法で行いました。各群3個ずつ受精を確認し、前者から胚盤胞と後期桑実胚ができましたが、後者の胚は全て分割停止となりました。2個を新鮮胚移植したところ、双子の妊娠が成立し、2人の赤ちゃんが誕生しました。
解説:完全透明帯欠損症は極めて稀ですが、体外受精の過程で透明帯が取れてしまうことは時にあります。たとえば、採卵や卵子のピペッティング操作によるものです。このような場合にも、受精、分割し、凍結が可能であるとの報告があります。2010年には体外受精の操作過程で生じた透明帯欠損の胚での妊娠が報告されています。本論文は、完全透明帯欠損症の方の顕微授精による初めての出産報告です。かなり慎重な胚操作が必要ですが、十分妊娠、出産が可能であることを示しています。透明帯が取れてしまった胚は廃棄されることが多いのではないかと思いますが、妊娠の可能性を持った胚であるとの認識で、大切に扱って欲しいと思います。
なお、透明体は卵や胚のプロテクターである役割と受精の際に多精子受精を防ぐ役割があります。したがって、透明帯欠損症の方では体外受精(ふりかけ法)ではなく、顕微授精が必須です。本論文の患者さんは、男性因子もありますので、そもそも顕微授精なのですが、精液所見が良い方でも顕微授精になります。透明体がなくても、胚発生は通常通りであることは、他の論文でも報告があります。透明体を脱ぎ捨てる(孵化)ようにして、胚盤胞が着床しますので、着床前には必ず透明体がない状態です。また、透明帯欠損症の方では、分割胚の段階では細胞がバラバラになりやすいため、胚盤胞まで育てて、凍結あるいは移植することが推奨されます。