本論文は、卵子凍結に適切な年齢を、成功率や費用の観点からシミュレーションにより算出したものです。このような論文が発表されると、ただ若いうちに卵子凍結をすれば安心という考えが必ずしも正しくないことがわかります。
Fertil Steril 2015; 103: 1551(米国)
要約:25~40歳の女性を卵子凍結をした場合としない場合に分け、妊娠を7年以内に目指した場合に、まず半年は一般妊娠治療を行い、その後体外受精(凍結卵子がある場合はそれを用い、凍結卵子がない場合は採卵をする)を行なうといった設定でシミュレーションしました。さらに、パターンA:結婚してから妊娠を目指す場合、パターンB:結婚せず妊娠を目指す場合(未婚の相手、ドナー精子)と2つに分けました。人口動態、婚姻関係、出産動態、不妊治療統計、流産統計など様々なデータソースを基盤にシミュレーションを行ないました。パターンAでは、35歳で卵子凍結を行なった場合に最も卵子凍結のメリットがある結果が得られましたが、出産率の差はわずかです(出産率:14.7% vs. 9.1%、コスト:12,910ドル vs. 2,111ドル、第2子以降に必要なコスト:196,032ドル)。一方、パターンBでは、37歳で卵子凍結を行なった場合に最も卵子凍結のメリットがある結果が得られました(出産率:51.6% vs. 21.9%、コスト:19,493ドル vs. 10,943ドル、第2子以降に必要なコスト:28, 759ドル)。どちらも若い程出産率は良いですが、若いうちに卵子凍結した場合は、その維持費がかかるため、費用対効果からみると、20代での卵子凍結にはメリットがあまりありません(パターンAの場合:366,824~698.722ドル)。また、妊娠を3年あるいは5年以内に目指した場合で計算すると、出産率の差はさらに少なくなりました。
解説:晩婚化と晩産化は先進国のどの国でも進んでいます。米国では、25歳以上に初めての出産をされる割合が、1970年には100人に1人だったのに対し、2006年には12人に1人となっています。2013年のASRM(米国生殖医学会)のガイドラインで、卵子凍結はもはや実験ではなく実用化したことを述べています。これを受けて、米国Apple社とFacebook社では、卵子凍結のメリットがある社員には20,000ドルを支給すると発表しました。しかし、卵子凍結後の出産率はどうか、卵子凍結によりどの程度お子さんを授かる確率が増加するのか、何歳で卵子凍結をすべきか、使わない凍結卵子の維持費用はどうか、といった問い対しその明確な根拠がありませんでした。本論文は、何歳で卵子凍結すべきかを凍結後7年以内に使用するという条件でシミュレーションにより計算したものです。
なお、本論文で用いたシミュレーションは、UNC Fertility「Egg Banking Calculator」で無料で利用できます。あくまでも、米国の費用を元に算出したものですので、日本でのものとは異なりますことをご理解ください。
米国の体外受精費用は世界一高額です。下記の記事を参照してください。
2012.12.31「☆各国の体外受精費用」
2013.1.20「米国の大学の授業料」