PFOAおよびPFHxS暴露による妊孕性低下 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

ペルフルオロオクタン(PFOA)、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)は残留性有機汚染物質(POPs)の一種です。本論文は、PFOAとPFHxS暴露による妊孕性低下を示していますが、PFOSにはそのリスクは認められていません。

Hum Reprod 2015; 30: 701(カナダ)
要約:2008~2011年にカナダの10都市で妊娠14週までに登録した2001名(MIRECスタディー)のうち、男性不妊の要因がある方を除外した1743名について、妊娠するまでの期間(TTP = time to pregnancy)を調査しました(平均年齢32.8歳)。妊孕性オッズ比(FOR)が1未満をTTP延長、1以上をTTP短縮とし、TTP>12ヶ月を不妊症と定義しました。1、6、12ヶ月の累積妊娠率は、それぞれ0.42、0.81、0.90でした。交絡因子を補正した後のPFOAとPFHxSによるFORは、1SD増加に伴いそれぞれ0.89倍0.91倍に有意に減少しました。しかし、PFOSによるFORの有意な低下を認めませんでした。同様に、PFOAとPFHxSによる不妊症リスクは、1SD増加に伴いそれぞれ1.31倍1.27倍に有意に増加しました。しかし、PFOSによる不妊症リスクの有意な増加を認めませんでした。

解説:PFOA・PFOSは、撥水撥油剤、界面活性剤として工業製品(包装紙、泡消化剤、殺虫剤、衣類、建材、絨毯、化粧品)の製造過程で使用されている化学物質です。PFOA・PFOS暴露は先進国を中心として全世界に広く認められ、食物、飲料水、ハウスダスト、大気中からも検出されます。人体に入ると長期に渡り残留する(半減期:4~5年)ことが知られており、米国では95%以上の方の血液中からPFOA・PFOSが検出されます。PFOA・PFOSは、心臓、肝臓、生殖細胞への毒性が明らかにされており、先進国での不妊症増加の一因と考えられています。本論文は、PFOAとPFHxS暴露による妊孕性低下を示しています。

PFOA・PFOSについては、これまでに下記の記事でご紹介致しました。
2012.10.11「残留性有機汚染物質の影響:女性編」女性の血中のPFOA・PFOSにより妊孕性(妊娠する力)が約2/3に低下する
2012.12.25「残留性有機汚染物質の影響:男性編」POPsにより精子形態異常が高くなる
2013.4.4「PFOSと男性不妊」PFOS濃度は男性ホルモン濃度と逆相関する
2014.2.19「母体のPFOA暴露による子どもに与える影響」妊娠中のPFOA暴露により生まれた女児の初潮が遅くなる
2014.3.30「PFOA暴露で生理不順に!」PFOA・PFOSにより、生理不順が起きる
2015.2.20「PFOA暴露による妊娠糖尿病のリスク」PFOA暴露により妊娠糖尿病のリスクが増加する

PFCsの歴史的経緯については、2012.12.25「残留性有機汚染物質の影響:男性編」に詳しく記してあります。PFOA・PFOSは、かつて食品のパックや料理のトレーに用いられていましたが、2001年以降は写真感光材、半導体、フォトマスク、医療機器、金属メッキ、泡消火剤、カラープリンター用電子部品以外の用途を除いて製造・使用等の禁止の国際規定が定められました。2004年からは、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs 条約)」による規制の強化が行われ、日本でも2010年からは、代替品がない3製品(圧電フィルタ用エッチング、半導体用エッチング、半導体レジスト)のみの使用が認められています。この結果、PFOA・PFOSは約1/3に濃度が低下しました。

なお、本論文の著者は「現在カナダではPFOA・PFOSは使用されていませんが、中国では現在も製造されているため、カナダ市場に流通している可能性は否定できません」と述べています。