前置胎盤のリスク | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

これは初めて知る内容です。前置胎盤は、胎盤が子宮の入口(内子宮口)にかかっているものを指し、帝王切開による出産が必要になるだけではなく、妊娠中の大出血や輸血、産後の子宮摘出の一因にもなる、重篤な疾患です。本論文は、子宮内膜の厚さが12mm以上で、前置胎盤のリスクが4倍になることを示しています。薄い子宮内膜を心配される方が極めて多くおられますが、内膜は厚ければよいというのではなく、適度な厚さが良いということになります。

Hum Reprod 2014; 29: 2787(オーストラリア)
要約:2006~2012年に体外受精を行った4007名の女性から4537名の単胎妊娠による赤ちゃんが出産しました。内訳は、刺激周期による新鮮胚移植2951周期、ホルモン補充周期による融解胚移植355周期、自然周期による融解胚移植1231周期です。この中で、前置胎盤になった方のリスク因子を後方視的に検討しました。新鮮胚移植と比べ、自然周期融解胚移植で前置胎盤のリスクは0.44倍に有意に低下していましたが、ホルモン補充周期融解胚移植でのリスク低下は認めませんでした。種々の交絡因子を除外して検討したところ、喫煙(2.58倍)、子宮内膜症(2.01倍)子宮内膜厚(<9mmと比較し、9~12mmで2.02倍、>12mmで3.74倍)がそれぞれ独立したリスク因子として抽出されました。

解説:前置胎盤のリスクとして、母体年齢増加、多胎妊娠、多産、喫煙、麻薬、妊娠中絶既往、帝王切開既往、子宮内膜症が知られています。これまで体外受精では前置胎盤のリスクが2~6倍になることが報告されていましたが、どのような要因がそれに関与するのかは明らかにされていませんでした。不妊の方では子宮内膜症が多いことから、おそらく内膜症がその要因ではないかと考えられていました。本論文は、後方視的検討ではありますが、子宮内膜厚が前置胎盤の新たな要因として考えられることを示しています。

何故、子宮内膜の厚さが前置胎盤のリスクとなるのかについては不明ですが、子宮内膜の調整法による違いが認められたことから、卵巣刺激やホルモン補充による子宮内膜の構築のされ方にヒントが隠されているのかもしれません。前置胎盤になるためには、移植した胚が子宮体部の下側に着床する必要があります。つまり、移植した胚が動いてしまうわけですが、移植した胚が動いてしまう要因として、子宮収縮が考えられます。たとえば、子宮の奥から子宮の手前へ動く子宮収縮が、それにあてはまります。着床しやすい子宮内の移植ポイントは子宮中央からやや奥ですが、子宮の最も奥に移植した胚は随分手前に移動してしまうという報告もありますので、移植の位置も重要な要素となるのかもしれません。