Q&A562 ☆ヘルペスと妊娠治療 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 38歳、AMH 0.4 ng/mL
①5年前位から外陰ヘルペスに悩まされており、再発頻度も高いため(月1回位)、今後出産も考え、少しでも再発の回数を減らせる可能性があるならと思い、内服薬を1年間取り続ける再発抑制療法を試してみたいと思っています。この治療で使用される内服薬の「バルトレックス」又は「ファムビル」は妊娠治療に影響はありませんか。特に卵の質への影響はありませんでしょうか。
現在受けている妊娠治療は、低刺激法(クロミフェン、HMG富士、フェリング)で誘発、セトロタイド(たまにインダシン錠剤)で抑制、hCG10000で採卵し、顕微授精を行っています。採卵前後に抗生物質(セフカ、クラリスロマイシン)も処方されています。
②ここ数年、ヘルペス予防として「L-リジン」をサプリメントとして採っています(1300mg/日)。これがAMHを下げたり、閉経を早めたり、妊娠治療、もしくは健康そのものになんらかの悪影響を与えることは考えられるのでしょうか。
③今後出産の可能性がある場合に、このようなヘルペスにどう対処すればよいと思われますか。上記①の治療をやってみるべきか、それとも根本的には治らないし、治療効果もどれほどあるか分からないのだから、発症したらその時に対応すればいいのか迷っております。

A AMHや卵巣機能に対するバルトレックス、ファムビル、L-リジンの影響を示した論文はありませんでした(善し悪しを検討した論文そのものが1つもありません)。妊娠中に使用できるかについは、以下の通りです。

薬剤の添付文書には、下記の記載があります。
 ゾビラックス(アシクロビル)
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。動物実験(ラット)の妊娠10日目に、母動物に腎障害のあらわれる大量(200mg/kg/day以上)を皮下投与した実験では、胎児に頭部及び尾の異常が認められたと報告されている。
 バルトレックス(バラシクロビル)
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。活性代謝物のアシクロビルにおいて、動物実験(ラット)の妊娠10日目に、母動物に腎障害のあらわれる大量(200mg/kg/day以上)を皮下投与した実験では、胎児に頭部及び尾の異常が認められたと報告されている。本剤による性器ヘルペス再発抑制療法中に妊娠し、その後も本療法を続けた場合の安全性は確立していない。
 ファムビル(ファムシクロビル)
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人に投与する場合には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。

論文あるいはガイドラインを英語で調べてみると、下記のものが見つかりました。
Canadian Agency for Drugs and Technologies in Health, 2014
要約:RCTスタディーから、妊娠中のヘルペス再発予防に、アシクロビルおよびバラシクロビルが有効である。最近の研究から、妊娠中のバラシクロビルの安全性が示唆されるが、アシクロビルの使用経験が豊富であるため、妊娠中にはバラシクロビルよりアシクロビルがよく使用されている。

Am Fam Physician 2005; 72: 1527
要約:L-リジン、亜鉛、ある種のハーブがヘルペスの予防に有効であるとの報告がある。

解説:日本での薬剤の販売開始順に、アシクロビル(1992年4月)→バラシクロビル(2000年10月)→ファムシクロビル(2008年7月)となります。新しい薬剤は、妊娠中の使用経験が少ないことから、妊娠中には使いにくくなります。外陰ヘルペスは、出産の際になければ通常のお産が可能ですが、出産時に外陰ヘルペスが見られる場合には、赤ちゃんへの産道感染を防ぐために、帝王切開になります。

月1回位繰り返す外陰ヘルペスは、再発抑制療法の対象になるでしょう。しかし、AMHや卵巣機能に対するバルトレックス、ファムビル、L-リジンの影響を示した論文自体が1つもありませんので、果たして妊娠治療中に使用して問題があるのかないのかは不明です。むしろ、妊娠中の投薬には安全性が高いと考えられますので、全体として最も薬剤の使用量が少なくなるのは、再発の度にアシクロビルを用いることです。一方で、妊娠中の薬剤使用を最も少なくできるのは、妊娠前の再発抑制療法を行うことです。正解はなく、どこを重視するかによって治療方針が変わります。