Q&A497 海外在住、うまくいきません | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 2014.1.20「Q&A220 ☆良好胚盤胞移植2回不成功、オーストラリア在住」の記事で質問させていただいたものです。
あれから半年近く治療を休んでいたのですが、最近治療を再開しました。
着床障害を疑って、こちらの(オーストラリア)の担当医に頼み込んでいくつか着床に関係しているであろう血液検査をしましたが、すべて基準値でした。以下、検査項目です(着床障害や不育症はまだ未知の領域で検査項目もこれらが全てではないというのは承知しています)。
*Lupus anticoaglant (ループス アンチコアグラント)
*Anticardiolipin anti-body (抗カルジオリピン抗体)
*ANA-Anti-Nuclear Antibody (抗核抗体)
*homocysteine (ホモシステイン)
*ProteinS (プロテインS)
*ProteinC (プロテインC)
*Antithrombin Ⅲ (アンチトロンビン スリー AT3)
*FactorⅤ Leiden mutation(血液凝固第V因子Leiden変異)
*Blood Glucose Level (血糖)
*Prothrombine Gene 20210A (プロトロンビンvariant G20210A)
*Blood Group and antibody (血液型と抗体)

最近2回目の刺激周期に挑戦しました。
CD2 FSH 8.7, E2 51.75, P4 0.5
CD3~ゴナールF175単位連日自己注射
CD8~セトロタイド開始
CD10 hCGトリガー投与、E2 1639, LH 0.5, P4 0.97
   卵胞:右8個(21, 19, 18, 13, 12mm)、左6個(18, 15, 13, 12mm)
CD12 採卵7個
体外受精で5つ正常受精し、胚盤胞まで育てる移植予定でしたが、採卵から3日目の段階で、8分割G1 x1、5分割G3 x3, 3分割 x1、と受精卵の状態があまりよくないということで、急遽いちばん状態の良い8分割胚を移植しました。移植日のホルモン値は、E2 1157, P4 100.6、採卵後2日目と5日目にhCGを自己注射した他、薬の処方はありませんでした。
14日目の夕方からうっすら茶色の出血が少量みられ、15日目の朝の血液検査ではhCG 86.3と陽性でしたが(E2 359, P4 4.11)、その日の昼過ぎから本格的な出血となり、そのまま5日ほど出血が続きました。その後さらに1週間後にまた4日ほど生理のような出血が再びあって、hCGが陰性になりました(E2 32.4, P4 0.35)。なお、凍結胚は1つもできませんでした。
担当医は、妊娠反応がでていたら通常はプロゲステロン(P4)も伸びてくるはずなのに、プロゲステロンが低くなってしまった理由が分からず、ドクターの経験上初めての症例ということでした。通常移植後の黄体補充は、hCGの投与かクリノンクリームのどちらか一方というのが、こちらのクリニックのやり方のようで、中間判定の採血等もありません。
いままで体外受精の前のタイミング法のときなども含め、ホルモン値異常を指摘されたことはありませんでした(排卵後1週間の高温期でのP4もはかったことがありますが基準値でした)。ただ、毎回高温期が11~12日ほどしかなく、14日続いたことはありません。体温も低温期36.2~36.3℃、高温期で36.7~36.8℃と低めなことは気になっていました。

Q1 先生は今回の私の経過に関してどう解釈されますか。もし同じような妊娠反応があったのにホルモン値が極端に低いという事例やリサーチの論文等ありましたら紹介していただけたらと思います。

Q2 担当医は、ホルモン補充をしながらのタイミング法を数サイクル試してみて、それでもうまくいかなければもう一度体外受精、今度は移植後にこまめに血液検査でホルモン値を測って必要に応じてホルモン補充を行っていくと提案されました。先生は、今後どういった解決策や治療法をお考えになりますか。AMHは2年くらい前に測定して年齢の平均値といわれました(現在32歳)

A 外国での治療には多くのハードルがあると思います。

第V因子Leiden変異(活性化プロテインC抵抗性)とプロトロンビンvariant G20210Aは、欧米人に認められ、日本人では1人も見つかっていません。一方で、プロテインS活性低下は、日本人を含めた東洋人にみられるもので、欧米人では認められません。また、結果はすべて基準値とありますが、不育の基準値は内科的な通常の基準値とは異なります。担当医は、不育検査が人種により異なる点をどのように考えておられるか不明ですし、不育の基準値をどのようにされているかも不明です。したがって、全て正常かどうかは何ともいえないでしょう。このような事は、日本でもしばしばみられますのでご注意ください(Aクリニックでは正常と言われ、Bクリニックでは異常と言われるなど)。

A1 文面の内容で判断するなら、黄体ホルモン補充が不足していると思います。採卵周期の移植では、ホルモンの出所である卵胞を吸引していますので、途中までホルモンが出ていたとしても(今回は採卵3日後でP4 100.6)、その後低下することは、非常によくある現象です。したがって、採血で黄体ホルモンの推移を確認するか、採血しないのならば黄体ホルモンを補充をしておくといった対策が必要です。これは、少なくとも日本では、新鮮胚移植をする際には行われていると思います。妊娠反応がでていたら通常はP4も伸びてくるのは、妊娠ホルモンであるhCGがホルモンの出所を刺激するからですが、ホルモンの出所が反応しなければ出てきません。なお、通常の排卵周期の場合には(タイミング法のときなど)、卵胞を吸引していませんので、このようなことは生じません。それでも、良い排卵周期と悪い排卵周期はあるので、毎回の排卵でホルモンの出方は異なるパターンになります。どのような場合でも、ホルモン不足によって妊娠がうまうかないのは避けたいという配慮から、タイミングでも体外受精でも黄体ホルモン補充は推奨されます。

A2 前回記載したように、hMG製剤を225単位使用した場合には、CD12~13の採卵でちょうど良いと思いますが、今回はFSH製剤単独(ゴナールF)で175単位使用ですので、CD12の採卵は早すぎる気がします。また、トリガーの日のLHが実際に不足しています(LH 0.5)。卵胞発育にはLHも必要ですから、LH含有製剤であるhMG製剤を使用してトライして欲しいと思います。もし、hMG製剤は取り扱っていないというのでしたら、前回の方法に戻して、FSH製剤150単位連日投与し、CD15の採卵の方が良いと思います。