「医学の常識は覆るもの」と何度もご紹介してきました。今回は卵管と卵巣機能についてです。
卵管と卵巣は繋がっており、共通の血液供給を受けているため、卵管の摘出により卵巣への血流が低下し、卵巣機能が低下するのではないかと考えられていました。これには証拠がありませんでした。本論文は、卵管摘出術により卵巣機能は低下しないことを前方視的に示しています。
Fertil Steril 2013; 100: 1704(米国)
要約:2012年に良性疾患により腹腔鏡下子宮摘出術を行う予定の閉経前の女性30名(18~45歳)に対して、子宮摘出術のみの群(15名)と子宮摘出術+両側卵管摘出術の群(15名)に分け、AMHの計時変化を前方視的に調べました。術前(2.25 vs 2.26)、術後4~6週(1.25 vs 1.03)、術後3ヶ月(1.82 vs 1.86)のAMHは両群間で有意差を認めませんでした。また、手術時間や出血量にも有意差を認めませんでした。
解説:米国では毎年60万件の子宮摘出術が施行され、その半数弱で両側の卵巣および卵管の摘出も行われています。妊娠を目指す場合に卵巣摘出はできませんので、その場合には通常卵管と卵巣を残します。卵管と卵巣は繋がっており、共通の血液供給を受けているため、卵管の摘出により卵巣への血流が低下し、卵巣機能が低下するのではないかと考えられていたからです。しかし、これは証明されていませんでした。逆に、2件の後方視的研究では卵巣機能は変わらないとしています。本論文は、卵管摘出術の有無によりAMHは変わらない、つまり卵巣機能は低下しないことを前方視的に示していますが、症例数が少なく、あくまでもパイロットスタディーとしての位置づけとなります。
卵巣癌は米国女性の死因の第5位となっており、婦人科癌では最大の死因となっています。特に高分化型腺癌による死亡例が多くなっています。卵巣の高分化型腺癌の多くは、卵管先端部分を起源とするものであることを示唆する証拠が2010年以降に複数報告されています。本論文のねらいは、卵巣癌を減らすために、卵管摘出をするのはどうだろうか(卵管摘出によって卵巣機能は変わらないから問題はなかろう)というひとつのアイデアを示したもので、大変興味深いものです。体外受精では、卵管水腫がある場合に妊娠率が低下してしまうため、卵管摘出が行われます。これも卵巣機能に影響があるのではないかということを懸念される医師がおりますが、本論文からは問題なしと考えられます。
卵巣の手術を行うと、一時的にAMHが低下し、その後回復します。これは、手術操作により、血管の破綻あるいは炎症反応が生じ、卵巣組織にダメージを与えるためと考えられます。
2013.10.13「☆☆チョコレート嚢腫術後に低下したAMHが増加する場合がある?」の記事も参考にしてください。