☆食物繊維とエストロゲン | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

最近、食物と妊娠についての話題から遠ざかっていましたが、食物繊維についての質問があり、調べてみると興味深い事実が明らかとなりました。
食物繊維は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に分けられます。
 水溶性食物繊維:果物、こんにゃく、ごぼう、きくいも、海藻、寒天、コンブなど
 不溶性食物繊維:植物、野菜、穀類、豆類、甲殻類、菌類など
まず、食物繊維の摂取によりエストロゲン依存性の癌である、乳癌や子宮体癌のリスクが低下するという疫学調査(統計)がベースにあります。これは、食物繊維とエストロゲンは対極の関係であることを意味します。また、水溶性植物繊維の摂取は、肥満や糖尿病の予防効果があることが多くの疫学調査で知られています。つまり、食物繊維に関する話題は、栄養学のみならず、メタボリックシンドローム、成人病、癌、ホルモンなどに共通の最新のトピックです。

①PLoS One 2013 Nov 14; 8: e79718
要約:食物繊維全体の摂取は、乳癌のリスクの増減に影響がなく、シリアル、フルーツ、豆類の摂取も同様でした。一方、植物繊維の摂取により乳癌リスクが半減しました。しかし、野菜全体の摂取では影響がありませんでした。

②Nutr Cancer 2012; 64: 1160
要約:Danish cohort study(デンマークの国家的コホート研究)の結果、全粒穀物や食物繊維の摂取は、子宮体癌のリスクに影響しませんでした。

③Cell 2014 Jan 16; 156: 84
要約:水溶性植物繊維の糖質は腸内細菌によりプロピオン酸と酪酸に変換されます。プロピオン酸は腸内でのブドウ糖の原料でもありますが、脳の神経回路を活性化し脳からの指令で腸内ブドウ糖の産生•吸収を調節する機構があります。

解説:①②ともに疫学調査ですから、因果関係までは明らかになりません。一方③は、これまで明らかでなかった「水溶性植物繊維の摂取に肥満や糖尿病の予防効果がある」というメカニズムを明快に証明したものです。水溶性植物繊維の摂取をすることにより、プロピオン酸が増え、脳からのフィードバック機構により、ブドウ糖の吸収がゆっくりになるわけです。血糖の急激な増加を抑えることで、インスリンの増加も抑えられます。食欲も抑えられますので、結果として肥満や糖尿病の予防になります。ちまたでは「野菜サラダを先に食べるとダイエットに良い」と言われていますが、野菜は不溶性食物繊維ですので、どうやら違いそうです。先に「海藻サラダ」ならOKなのでしょう。

Cellのような超一流の雑誌(クローンやiPS細胞など超一流の研究を掲載する雑誌)が食物の話題を取り上げたことに驚くとともに、やはりヒトの身体は食事や栄養が重要であることを再認識しました。

Danish cohort studyは、下記の記事でも紹介しています。
2013.9.7「☆母親の内膜症は娘へ」