☆生まれる日は最初から決まっている? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

世界中にはいろいろな発想を持った方がいますので、面白い研究が次々と発表されます。そのような論文を目にすると、知的欲求が満たされるだけでなく、また新たな視点が広がります。
本論文は、自然妊娠•自然出産の妊娠期間(在胎日数)を調べたところ、母体年齢、生まれつき(持って生まれた部分)、排卵から2週間以内の状態により在胎日数が規定されることを示しています。

Hum Reprod 2013; 2843(米国)
要約:1982~1985年に自然妊娠した125名の方(単胎妊娠に限る)について、尿中ホルモン微量測定値から排卵日や着床日を推定し、実際に分娩に至った日まで何日であったのか(妊娠期間)を前方視的に検討しました。排卵日から分娩日まで247~284日(平均267±10日)であり、最終生理開始日から分娩日まで253~300日でした。最終生理開始日よりも排卵日から計算した方が、分娩日の予測度が高くなっていました。排卵日から分娩日までの日数(在胎日数)が長くなる有意な要因として、母体年齢(3歳増加につき0.81日延長)、母体の出生時体重(100g増加につき0.92日延長)、過去の出産における在胎週数(1週延長につき0.67日延長)、排卵から着床までの日数(1日増加につき0.79日延長)、黄体形成時期(早いと延長)が認められました。また、BMI、アルコール摂取、胎児の性別は在胎日数に関与しませんでした。

解説:分娩予定日は、最終生理開始日を0w0dとして40w0d(280日)になります。しかし、実際に分娩する日は37w0d~41w6dと実に5週間も幅があり、これを予測する方法は現在のところありません。排卵日が特定できる場合には、排卵日を2w0dとして分娩予定日を算出することで、より正確な予定日となるのですが、自然妊娠•自然出産の場合どのような因子が実際の分娩日(在胎日数)に関与するのかについては明らかにされていませんでした。本論文は、母体年齢、母体の出生時体重、過去の出産における在胎週数、排卵から着床までの日数、黄体形成時期が、在胎日数に関与することを示しています。つまり、年齢と生まれつきの部分を除くと、排卵から2週間以内の状態により在胎日数が規定されることになります。胎児は生まれても良い状態になって生まれると考えれば、在胎日数は胎児の成熟度を反映します。胎児の早期の発達が在胎日数を予測するということは、妊娠早期の胎児の発達が妊娠後半の胎児の成熟度と関連することになります。最初から生まれる日(在胎日数)が決まっているわけです。

なお、本論文では全員が妊娠を目指して半年以内に妊娠しており、妊孕性が低下した方(妊娠しにくい方)にあてはめることはできないのかもしれません。

また、本論文は、30年前のデータを2013年に解析した不思議な論文です。分娩の状況を30年後に尋ねたためにこのようなことになったようで、お蔵入りするはずのデータが晴れて日の目を見ることになりました。私も眠っているデータを沢山持っています。早く論文にしなければと思っています。