☆妊娠高血圧症候群の予防にはアスピリン | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の予防に妊娠初期アスピリン(バイアスピリン)が有効であることが知られています。それでは、妊娠前からの服用はどうでしょうか。本論文は、妊娠前からのアスピリンは妊娠高血圧症候群の予防にはならないことをメタアナリシスにより示しています。

Hum Reprod 2013; 28: 1480(オランダ)
要約:妊娠前からのアスピリン使用の有無で2群に分け、妊娠中の合併症(妊娠高血圧症候群、早産)の頻度を前方視的に検討した4件のRCT試験(各群ともに137名ずつ)を、メタアナリシスにより解析しました。妊娠高血圧症候群および早産の発症について、2群間に有意差を認めませんでした。これは、単胎の場合も双胎の場合も同様でした。しかし、症例数が少ないためもっと多くの症例による検討が必要です。

解説:かつて日本では、妊娠高血圧症候群の発症は妊娠後期の体重管理が悪い(太り過ぎ)ことが原因とされ、妊娠高血圧症候群の予防には妊娠中の栄養管理(カロリー制限、体重増加制限)が大切であると言われてきました。これは日本独自の指針でした。確かに、妊娠成立時の肥満は妊娠高血圧症候群の発症のリスク因子ですが、妊娠中の体重増加はリスク因子ではありません(詳細は、2012.11.8「妊娠中の栄養と出生児の健康:Barker仮説、DOHaD」を参照してください)。
現在では、妊娠高血圧症候群の原因は、妊娠初期の胎盤形成不全(絨毛が子宮内膜に十分侵入しない)であると考えられています。母体と胎児の血液が十分交換できるような胎盤が作れないと、妊娠中期~後期に胎盤の虚血や梗塞が生じ、血液凝固能が高まり、胎児に血液が供給できなくなるという考え方です。

妊娠高血圧症候群の予防にアスピリンが有効であることが2007年に報告されましたが、妊娠16週以降では遅過ぎ、12週以前で使用開始すべきとされています。つまり、胎盤形成時期の予防措置が効果を示す訳です。しかし、実際に科学的データはそれほど多くなく、疫学的(統計)データが蓄積され、現在では妊娠初期のアスピリン服用により、妊娠高血圧症候群、子癇(妊娠高血圧症候群の最も重症なもの)、早産の予防になると考えられています。本論文は、妊娠前からのアスピリンを服用しても妊娠高血圧症候群の予防にも早産の予防にもならないことを示しています。