☆人類の精液所見は悪化している | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

近年の男性の精液所見の低下は世界各国で指摘されています。本論文は、フランスの一般男性における精液所見の低下を大規模な調査で示したものです。

Hum Reprod 2013; 28: 462
要約:1989~2005年のフランス全国126箇所の体外受精施設から、154712名(18~70歳)の男性の精液所見のデータを回収し後方視的に検討しました。両側の卵管閉塞あるいは卵管摘出により、パートナーの女性に妊娠の可能性が全くない男性26609名を対象とし、精液所見の変遷を検討しました。精子濃度(数)は毎年1.9%ずつ減少しており、形態が正常の精子が特に有意に減少していました。運動率には有意な傾向は認められませんでした。なお、精液検査は最低2回は行っています。

解説:先進国では精液所見の低下が1950年代から認められるとの報告が相次ぎ、いわばトピックスとなりました。環境ホルモンをはじめとした環境因子や食生活や生活習慣の影響が懸念されています。しかし、本当に精液所見が悪化しているのかについては、サンプルデータの取り方にバイアスがかかったり(不妊外来通院中の方全員、ある病院勤務のボランティアなど)、あるいはサンプル数が少なかったりして、必ずしも一般集団のデータを反映したものではありませんでした。本論文では、完全な女性不妊である「卵管が全く機能しない」女性のパートナーのみを対象としました。これは、非常に秀逸なデータの取り方だと思います。女性側が全く同じ条件になるからです。通常このような選択をすると、サンプル数が極端に少なくなってしまうのですが、国家単位での調査ですので、2万6千人という大規模な調査が可能になりました。最もサンプル数の多い研究のひとつであり、信憑性が極めて高いと考えます。