環境ホルモンの影響については、2012.12.15に「環境ホルモンの影響 女性編 その1」で、血液中の遺伝子のメチル化パターンに変化が起きることをご紹介しました。本論文は、環境ホルモンのひとつであるビスフェノールAの暴露により卵子の数や質が低下することを示しています。
Hum Reprod 2012; 27: 3583
要約:174名237周期の体外受精の採卵周期に尿を採取し、ビスフェノールAの濃度を測定し、前方視的に経過を観察しました。ビスフェノールA濃度増加に伴い、採卵卵子数が有意に減少し、受精率の低下とE2レベルの有意な低下を認めました。ビスフェノールAを濃度により4群に分けると、最低群と比べ高い3群では胚盤胞到達率が低下していました。
解説:ビスフェノールAは、ポリカーボネート製のプラスチックを製造する際や、エポキシ樹脂の原料として利用されています。ポリカーボネートはサングラス、CD、食品の容器、哺乳瓶に使われています。エポキシ樹脂は、歯科治療用の歯の詰め物、缶詰の内側のコーティングに使われています。これらを強力な洗剤で洗浄した場合、酸や高温の液体に接触させた場合にビスフェノールAが溶け出し、それを口にすることで体内に入ります。ビスフェノールAを摂取すると、エストロゲン(女性ホルモン)受容体が活性化されて、女性ホルモン的な働きを示すため、「環境ホルモン」という名前がつきました。米国人の90%の尿にビスフェノールAが検出されます。また、卵胞液や羊水中にもビスフェノールAが存在します。日本では、毒性試験に基づいてヒトに毒性が現れないと考えられた量を基に、2.5 ppm以下という溶出試験規格を設けています。しかし、動物の胎児や産仔に対し、これまでの毒性試験では有害な影響が認められなかった量より、極めて低い用量の投与により影響が認められたことが近年報告され、ヒトでの胎児や乳幼児への影響が懸念されています。現在欧米では、ヒトの健康に影響があるかどうか再評価が行われています。
2008年、厚生労働省は「成人への影響は現時点では確認できない」としながらも「ビスフェノールAの摂取をできるだけ減らすことが適当」と発表し、一般消費者向けの「ビスフェノールAについてのQ&A」を公表しました。その中で、ポリカーボネート製の哺乳びんについて、熱湯を使うとビスフェノールAがより速く移行するので、熱湯を注ぎ込まないこととか、他の材質のもの(ガラスなど)に変更する選択肢があることを記載しています。また、食品缶や飲料缶について、ビスフェノールAの溶出が少ないものへ改善が進んでおり、通常の食生活を営む限りビスフェノールAの曝露は少ないものと思われるが、念のため、毎日缶詰を食べるような食生活はしないようにと記載しています。
カナダは2010年、世界で初めてビスフェノールAを有毒物質に指定しました。