「漢方薬は安全」という印象があります。ですから、妊娠中には西洋医学の薬よりも漢方薬の方が比較的よく使われます。本論文は、香港からのものであくまでもマウスでの実験ですが、漢方薬が本当に安全なのかどうかについて警鐘を鳴らす論文です。
Hum Reprod 2012; 27: 2448
要約:中国で妊娠中によく使われる20種類の生薬をそれぞれヒトの治療用の用量、2倍量、3倍量で妊娠中のマウス(5つの時期に分け各群5~10匹)に投与しました。妊娠初期に投与した場合に特に異常が認められましたが、基本的にどの漢方薬でも異常が起こりました。主なものでは、流産、多指症、少指症であり、胎児死亡や母体死亡も認められました。
産後母体死亡:ビャクジュツ、トシシ、カンゾウ、シャクヤク、センキュウ、チンピ
産前母体死亡:トシシ、シャクヤク、サンヤク、シャジン、ジオウ、センキュウ、チンピ
センゾクダンとソウキセイ(用量依存性)
胎児死亡:シャクヤク(28~67%)、ジオウ(20~25%)、センキュウ(25%)
母体体重増加不良、早期流産増加:ソウキセイ、カンゾウ、シャジン、ガイヨウ
胎児発育抑制:ビャクジュツ、トシシ、センゾクダン、オウギ、トウキ、トチュウ、センキュウ
流産率増加:ビャクジュツ、トシシ、センゾクダン、ソウキセイ、オウギ、トウキ、ジオウ、センキュウ、チンピ
四肢大奇形:ビャクジュツ、オウゴン
多指症:トシシ(15~35%)、センゾクダン(8~9%)、カンゾウ(16~21%)、サンヤク(9~16%)、シャジン(7~12%)、センキュウ(9~16%)、ガイヨウ(14~28%)、チンピ(7~26%)
少指症:ジオウ(10%)、センキュウ(22%)、チンピ(7~13%)
妊娠初期投与にて異常増加:オウギ、トウキ、ガイヨウ
妊娠後期投与にて異常増加:ビャクジュツ、トシシ
用量依存性:トシシ、センゾクダン、センキュウ
解説:通常、日本で用いられる漢方薬(herbal medicine)はいくつかの生薬を混ぜたものをパッケージにしたものです。中国ではその成分である生薬(crude drugs)それぞれで薬効を現しており、本論文で用いられている薬剤も生薬です。漢方薬の使用頻度は、日本(79%)、香港(55%)、中国(32%)、台湾(24%)となっており、驚く事に日本が一番高くなっています。妊娠中の漢方薬使用は、経験的な事実に基づいており、科学的根拠が乏しかったのは事実です。本論文はあくまでマウスでのものであり、必ずしもヒトでの影響を正確に反映するものではありませんが、漢方薬の安全性の確認にはもっと詳しい検討が必要だと思います。
漢方薬はherbal medicineというようにハーブの一種です。2012.12.2「妊娠中のハーブは本当に安全でしょうか?」も併せてご覧下さい。