残留性有機汚染物質の影響:男性編 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

2012.10.11に残留性有機汚染物質(POPs)は、女性の妊娠率を低下させることを示しました。本論文は、POPsにより精子形態異常が生じる確率が高くなることを示しています。

Hum Reprod 2012; 27: 2532
要約:パートナーが妊娠している男性588名の血液中のPOPsのうちペルフルオロ類(PFCs)である、ペルフルオロオクタン(PFOA)、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)、ペルフルオロノナノイック酸(PFNA)を測定し、精液所見と比較しました。精液量、精子数はPFCs暴露の程度で変化はありませんでした。PFOS暴露群で正常形態の精子が有意に減少(35%)していました。同様の傾向はPFHxSにも認められました。

解説:PFCsは、表面をコーティングする撥水撥油剤•界面活性剤として、毎年数百トン製造されています。半減期は5年と長いため、環境内および生体内に蓄積しうる物質です。PFOA・PFOSは、かつて食品のパックや料理のトレーに用いられていましたが、2001年以降は写真感光材、半導体、フォトマスク、医療機器、金属メッキ、泡消火剤、カラープリンター用電子部品以外の用途を除いて製造・使用等の禁止の国際規定が定められました。2004年からは、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs 条約)」による規制の強化が行われ、日本でも2010年からは、代替品がない3製品(圧電フィルタ用エッチング、半導体用エッチング、半導体レジスト)のみの使用が認められています。このような規制が行われても、2030年までは環境内のPFOS濃度の増加が試算されています。一般集団でのPFOAとPFOS濃度は、それぞれ5 ng/mLと35 ng/mLですが、これらの製造工場勤務の方では、それぞれ5000 ng/mLと1000~2000 ng/mLにも及びます。PFOAとPFOSは、動物実験でテストステロン(男性ホルモン)を低下させ、PFOSは精子の状態を悪化させることが知られていますが、ヒトでのテストステロンや精子への影響については様々な報告があります。本論文ではグリーンランド、ポーランド、ウクライナの3カ国の調査ですが、濃度は各国で異なるものの、概ね一般集団の濃度に近いものでした。