☆OHSSの予防:甘いものを控えましょう | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

私のブログでは、生活習慣や食事のことをよく書いています。患者さんが自分でできることはそれくらいしかないからです。しかし、生活習慣や食事のことを明確に答えられるドクターはそう多くありません。私のブログは、患者さんにも医療者にも生活習慣や食事の正しい情報を提供しようというのが狙いでもあります。本論文は、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の発症機序にVEGF(血管内皮細胞増殖因子)とインスリンが関与することから、OHSSのリスクのある方は甘いものを控えた方がよいことと、メトホルミンが有効であるということを示したものです。私は、今年のASRMのpostgraduate courseで初めて知り、ぜひご紹介したいと思いました。

J Clin Endocrinol Metab 2007; 92: 2726
要約:PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の方とそうでない方(非PCOS)の体外受精において、採卵時に回収した顆粒膜細胞を培養し、インスリンやIGFを添加してVEGFレベルを測定しました。PCOS群も非PCOS群も共にインスリン/IGF添加の1日以内にVEGF産生が増加しました。非PCOS群ではIGFに、PCOS群ではインスリンにより強く反応してVEGFが増加しました。インスリンは血糖値増加に伴って産生されるため、OHSSの予防策として、血糖を上げない食事(低炭水化物食が勧められます。また、採卵時には糖質添加のない点滴が望ましいと考えられます。

BJOG 2012 Nov 30.
要約:PCOSの方の体外受精において、メトホルミン使用群と不使用群を比較しました。妊娠率と生産率は同等で、メトホルミン使用群でOHSS率が有意に低下(0.27倍)、流産率が有意に低下(0.50倍)、着床率が有意に増加(1.42倍)しました。メトホルミンはインスリンを低下させる働きがあり、VEGF低下ひいてはOHSSの予防につながると考えられます。

解説: OHSSはPCOSの方に卵巣刺激をした際に生じることが多い合併症です。FSH (hMG) 刺激により卵胞が発育すると、卵胞内からVEGFが産生されます。VEGFは新たな血管を作り、血管透過性を亢進させますので、卵巣に多数の卵胞が発育すると大量のVEGFが産生され、卵巣腫大と腹水貯留といったOHSSあるいはOHSSに近い状態になります。VEGFの産生を低下させればOHSSは回避できるため、in-vitroでは抗VEGF抗体添加によりVEGF作用を抑制できます。上記2つの論文の共通点は「インスリン」です。FSH (hMG) /インスリン→VEGF→OHSS という図式の中で、FSH (hMG) は卵胞発育に必須ですから、インスリンを低下させてOHSSを予防しようという作戦です。メトホルミンはインスリン抵抗性の薬剤として、PCOSの方に頻繁に用いられます。かつては糖尿病の薬剤として使われていましたが、現在では糖尿病の方に使うことはほとんどなく、婦人科(PCOS、無排卵、耐糖能異常)で使われることが多い薬剤です。不育症の方にも耐糖能異常の方がしばしばおられ、流産率低下を目的としても使用されます。