男性はトマト、女性はニンジンとカボチャ? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

どこに情報ソースがころがっているかわからないものです。あるクレジットカード会社の月刊情報誌をパラパラ見ていたら、「抗酸化物質のひとつカロテノイド」について、カゴメ株式会社総合研究所の稲熊隆博さんのコラムがありました。とても興味を惹かれましたので、そこから派生して調べてみると、ちょっと古いですがこんな論文をみつけました。

Arch Biochem Biophys 1992; 294: 173
要約:カロテノイドは臓器によって分布が異なります。カロテノイドの多い臓器は、肝臓、副腎、精巣であり、少ない臓器は腎臓、卵巣、脂肪で、脳にはほとんど存在しません。カロテノイドのうち、ベータカロテン(ニンジン、カボチャに多く含まれます)は、肝臓、副腎、腎臓、卵巣、脂肪に多くリコペン(トマトに多く含まれます)は精巣に多く集積していました。また、シスおよびトランス型のカロテノイドがあり、それぞれの分布も異なっています。

解説:フィトケミカルはカロテノイド、ポリフェノールなど、ヒトの健康によい影響を与えるかもしれない植物由来の化合物です。自然界には750種類ものカロテノイドが存在しますが、動物はカロテノイドを合成できないため、植物から摂取する以外にありません。カロテノイドは、抗酸化物質として活性酸素を消去する力を持っており、その力はベータカロテンと比較して、リコペンは2.21倍、ビタミンEは0.01倍の消去能です。つまり、精巣には非常に強力な抗酸化作用を備えているリコペンが集積しているわけです。精子は活性酸素の影響を受けて簡単に状態が悪くなってしまうので、精子を守る仕組みが備わっているとも考えられるのではないでしょうか。精巣以外でカロテノイドの多い臓器(自分で作れないのですから、選択的に集まってくる訳です)が、肝臓や副腎といった代謝に関係する臓器であるところも、生体防御の仕組みのひとつと推測できます。
稲熊隆博さんは、コラムの中で、野菜は生で食べてもカロテノイドがほとんど吸収されないので、加熱調理して初めて吸収されるようになると言っています。「精子には抗酸化物質を」と2012.10.14のブログで書きましたが、卵子も活性酸素でダメージを受けます。まだ十分な証拠が揃っている訳ではありませんが、男性はトマト、女性はニンジンとカボチャを調理して摂取すると、活性酸素のダメージから精子や卵子を守ることができるかもしれません。

精子も卵子も、簡単に悪くなってしまいます。採取する前は体内で悪くしないように心がけ、採取した後は私たち生殖医療に携わる者が悪くしないように最大限の注意を払う、これに尽きると思います。2012.11.14のライフスタイルと妊娠のコーナーでも述べましたが、少しでも条件のよい卵子および精子を採取できるように女性も男性も医療者も全員で努力して、その結果妊娠に結びつけたいと思っています。