国家が多国籍企業の餌食となる!

―ティラノサウルスに捕食される プロントサウルスにならないために、今、すべきこと―2

 

 

≪国家が多国籍企業の餌食となる!―ティラノサウルスに捕食されないために、今、すべきこと―1≫より続く

 

 

 

 

 

 

 

ウォールストリートが認める「正統派」

 

 今日のアメリカの大統領選挙において、「正統派」という言葉をしばしば聞いた。正統派とは何であろうか。それは単純に言えば、アメリカの金融街《ウォールストリート》から莫大な選挙資金をもらっている候補のことである。

 

 共和党のクルーズも、民主党のクリントンも莫大な選挙資金を獲得することが可能であった。クリントンはメディア対策費用として400億円以上使ったといわれる。

 

 トランプの個人資産はクリントン以上にあると思われたが、彼は170億円のメディア対策費しか使っていない。 つまり《ウォールストリート》は、クリントンに対してトランプよりもはるかに多額の金を拠出したのである。

 

 選挙で資金を出して、当選の暁には大統領の政策に影響力を持つという判断である。私は、そうした候補者をあえて「正統派」と称するところに、金融街のすさまじいばかりのメディア支配の実態を見る。メディアはそうした金融街の広告料がなければやっていけないということであろう。

 

 

トランプ・サンダース現象の背景

 

 次にトランプ・サンダース現象を考えたい。この現象はアメリカ社会の多くの一般労働者が、自分たちは社会によって疎外されていると感じたところが原点であると考える。

 

 新しい時代から取り残され、雇用から取り残され、社会で居場所がない、精神的な充実感が乏しい。こうしたことをアメリカ社会の多くの労働者が感じていたし、事実アメリカの相対的貧困率は先進国中最高の20%近い。

 

 しかも、グローバリズムは、その快感を給与所得の高さとともに味わえる人にとってはかつてないやりがいのある世界であるかもしれないが、その立場になりえない人にとっては、自分を肉体的、経済的、精神的に疎外する以外の何物でもない。


 一度病気にかかると最貧困層に落ち込んでしまうような、自由という言葉と裏腹に危険が多すぎる社会に対して、本来の相互依存の共存共栄の社会を望むアメリカ人は多く存在する。

 そうしたアメリカ人は、労働者を阻害するグローバル社会を作る元凶が 《ウォールストリート》 の連中であると固く信じ、選挙資金を彼らから供給されている大統領候補でないことを、選択の最大の条件としたのではないだろうか。 

 

 その意味で、トランプもサンダースの 《ウォールストリート》 からの選挙資金の支援がない候補者であったといえよう。

 しかし今日、トランプがドッド=フランク法を破棄すると発言するあたりは、彼は《ウォールストリート》の手先ではなかったが、《ウォールストリート》そのものの精神を持つ人物だったということになるのではないか。反《ウォールストリート》の発想はその意味ではトランプにおいては裏切られることになるのではないかと考えられる。

 

 

TPPは日米二国間FTAの前提となる史上最大の〝不平等〟条約

 

 

 《ウォールストリート》は、圧倒的に環太平洋パートナーシップ(TPP)を実現させたいと考えていた。 

 

 それは自由貿易という名称を持つが、実体はむしろ6,000ページの文書に見られるように、 《ウォールストリート》  の多国籍企業の顧問弁護士があらゆる法廷工学の粋を使って、国家に対する新しい損害賠償の仕掛けを、地雷のように敷設したものと考えられる。

 

 そして「自由貿易」という言葉をこの環太平洋パートナーシップに冠しているが、実にこれも事実と異なる、金融街がマスコミを駆使して構築した幻想にすら思える。
 
 ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツが言うように、もし本当に自由貿易を目指すものであれば、6,000ページの付属文書はいらない、という彼の指摘は正しいであろう。これは、国家に対する賠償を多国籍企業が起こすための指示書と考えられるのである。

 

 つまりこうしたものの総体が、多面的な地域社会の発展や人間の福祉や相互依存体系を構築しようとする国家に対 して、「利益追求」のみを前面に押し出していく、企業に有利に差配されるものとなっていく。

 

 私はその意味で、国家が多国籍企業に侵食されるというのである。


 

TPP後の日米二国間貿易交渉

 

 次に、TPPはアメリカが批准しないから大丈夫だという人がいる。しかし、それは大きな間違いである。

 

 私はあるテレビ番組で、トランプが日米の二国間貿易協定を作ることに言及したことについて発言した。日米二国間のTPPのスタート地点、つまり発射台は、日米で合意したTPPになる。そして日米二国間をとっても、このTPPは明治時代の不平等条約に匹敵する不平等な内容を含むものである。


 例えば、公共調達という、地方自治体や国が建物を作ったり、備品を買ったり食料を買ったりするシステムがある。日米を比較すると、それぞれが基本的には、「バイアメリアカン」と言ったり、「地産地消」と言ったりして、自国のものを使うことを優先する。しかし、アメリカについては2,200万円以上の国による発注は日本企業にも開放しなければならない。


 問題は日本側である。日本は1700万円以上の発注をアメリカ企業に開放しなければならない。しかもアメリカは自国語だけでいいが、日本側は英語の発注書の用意まで必要となる。

 

 それだけではない。アメリカは公共調達で日本に開放するのは国だけなのに、日本は47ある都道府県すべてが1700万円以上の発注をアメリカ企業に開放しなければならない。さらに政令指定都市も同様に1700万円以上のものについてアメリカに開放する義務がある。これだけ見てもすさまじい不平等条約である。 

 

 私はこれが日米二国間の協定のスタートラインになると考える。そのうえで、医薬品の特許期間8年というような、TPPの取り決めは日米のFTAではさらに延長されるかもしれない。

 

 そもそも、日米の関係は対等な国対国ではなく、宗主国と植民地の関係であるという学者すらいる。

 

 確かに、日本の首都、東京の空域の半分以上はアメリカ空軍が持っている。首都の空域の6割以上をほかの国が持っているというのは異常である。アメリカが世界に3つしか持たない海兵隊の1個軍団は日本にあり、世界に展開する米軍の中で5万人を超える駐留という異常な数字は日本だけである。

 

 日本には80か所近い駐留基地があり、その面積も異常に大きいとすれば、我々はそうした意識がなくても、海外の国は日本をアメリカの植民地と考えるかもしれない。


 その証拠に今回のTPPにおいて、条約の正式文書は、英語、フランス語、スペイン語であり、日本語は正式文書にはない。

 フランス語はカナダ国民の半数が英語ではなくフランス語を話すので公式文書の言語になっている。そのカナダよりはるかにGDPの大きな日本語が公式文書にないというのは、明らかに国家として認められていないようにも見える。


 したがって不平等条約を結ばされることは仕方ないという意見もあるが、それでは国家としての、国民としての矜持が持てない。自民党政権には猛省を促し、今後の貿易交渉には国家の誇りにかけて臨んでいただきたい

 

 

衆議院議員 松原仁