国家が多国籍企業の餌食となる!

―ティラノサウルスに捕食されるプロントサウルスにならないために、今、すべきこと―

 

 

 

 多国籍企業が国家を餌食にして強大になる。あたかもティラノサウルスが、巨大なプロントサウルスを集団で襲って食べるように―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多国籍企業の横暴と、その餌食とならないために

 

 国境を超えて活動する多国籍企業によって、世界中の国家の富が収奪されている。その中心はウォールストリートの金融資本主義と、そこで働く金に鋭い嗅覚を持つ顧問弁護士達である。

 

 彼らにとって、収奪の対象は、彼らが烏合の衆とみなす一般大衆というより、組織化されていない大衆国民を背景に持つ「国家」そのものである。

 

 リーマンショック後、アメリカでは、金融機能を維持するために公的資金、即ち税金が莫大につぎ込まれ、大銀行が救済された。

 

 日本においてもバブル崩壊に伴って、巨額の公的資金が金融機関につぎ込まれた。日本の場合も、狂乱バブルの土地高騰の後の金融機関の救済のために尻拭いとして国民の税金が注入された。

 マネーゲームという《ババ抜き》に無理やり参加させられ、最後にババを引くことになったのが一般国民であったともいえる。

 

 

国家が当事者意識を持つということ

 

 国家における当事者というのは、基本的には行政の長である。そしてその行政の長の意思を受けて様々な行政的手続きを行う官僚である。その当事者が、税金を使うのにどのくらい真剣かということが重要である。

 

 私は、自分の金を自分のために使うときに人間は一番真剣に使うと言った。そして行政のように、他人の金を他人のために使う時は一番いい加減に使われると言った

 

 従って、行政の無駄使いは常に発生がちで、行政マンはどんなに頑張っても自分の家のことのように、自分の行政分野に対する当事者意識を持つことは極めて難しいのである。

 

 自分の家の住宅ローンに関して少しでも安いローンに切り替えるような、細やかな発想を行政において検討することはまれであろう。

 人格的存在として不十分な国家は、まさに統治者を含め、官僚の当事者意識が乏しく、金融資本主義の業者にとっていい餌食となる
 

 また、我々、一般国民にしても、何かの事件において、国家が50億円の賠償をしたと報道されても、他人事としてしか認識しない。自分の払った税金が使われた、という痛みの感情は生まれない。

 

 こうした国民と、官僚の当事者意識のなさが、人格的有機体でない国家を構成し、組織化されていない大衆を背景とした国家を金融資本の最大の獲物とすることとなる。

 事実、国家がどんなに借金をしても他人事と感じ、後世につけを回すことに罪の意識を持たないことは、当事者意識のなさから生じる。 

 

 このように国家側に当事者意識がない時には、国家の税金や富は、「金儲け亡者」にとって最大のおいしいターゲットとなる。公的資金の注入だけではない。金儲け亡者と組んでいる金儲け好きの弁護士にとっても、当事者意識の乏しい行政トップや行政マンに統治されている国家ほどおいしい獲物はない。
 

 

「得ることのできた利益」と「間接収容」

 

 最近はやりの「投資家国家紛争調停」がその例である。

 

 金の亡者である企業は、あらゆる「へ理屈」をつけて、損害賠償を国家から掠め取ろうとする。具体的には、会社の顧問弁護士を使って、新しい法廷における正義や不正義の概念を作り上げる。例えば、「得ることのできた利益」という発想や、「間接収容」という概念である。 

 

 前者は、例えば、ある企業が 「もし100年間、その国で企業活動をしていたとしたら得られたであろう利益」を国家に対し直接主張し、調停に訴えるといったことである、実際、こうした投資家国家紛争調停で、クウェートの会社はリビアに対して100億円以上を損害賠償で勝ち取っている。

 

 間接収容というものも新しい法律用語である。

 例えば、日本の最低賃金が一時間当たり1000円とする。そのことを前提にして、ある国家の企業が日本に工場を建設し、労働者を集めた。しかしながら、その後、日本の最低賃金が1050円となった。その時にこれを間接収容として、その50円分について国家賠償を求めることが可能となる。

 

  その審査をするのは、投資家国家紛争調停裁判所であるが、その裁判員はほとんどの場合は多国籍企業の顧問弁護士と言われる。よって、審査の結果はおおむね彼らにとって有利なものとなる。
 

 重要なのは、こうした新しい法律概念を作り出し、それによって新しい訴訟の体系を作り出すということが、彼ら弁護士にとっての報奨金を高めることになり、多国籍企業の利益を増幅することである。

 


「法廷工学」

 

  先ほどの得るべきことのできた利益という概念も、仮定の話であって、リアルな話ではない。しかしそれが法律的に認められれば、損害賠償の大きな理由とされる。

 

 どんなことにも法律家が、その専門知識を使って法的に訴訟を起こすことのできる新しい法的概念を作ることは、あたかも金融業者が、金融工学を駆使し、誰にも理解できない新しい債券をつくるのと同じような芸当である。私はこれを「法廷工学」と名付ける。
 

 国家の富を、もっともらしい様々な手法を駆使して収奪する手法は、その国家が一体感を持ち、強烈な防御体系を持つならば防ぐことができるかもしれない。
 

 まず投資家国家紛争調停については、一定の発言ができるように国際的環境を変えること、何よりも、その国家の烏合の衆とみなされた大衆国民が、強い危機感を持ってそうした企業に対する反撃の結束を持つことが必要である。

 

 その具体的行動として、国家が企業に賠償をするときに、大きなチェック機能を発揚することが重要である。


 それを可能にするための方策としては、官僚は知識があることや、頭脳明晰であることよりも、当事者意識を持つことを採用の第一の条件にすること、そうした行政のリーダーたちに対して、国民が高い意識を持って、高い投票率で審判をすることが必要であろう

 

 そして場合によっては、行政のトップと関係者は、国家に対する損害賠償に対して、一定の責任を負うようにすること、などが考えられる。

 

 

租税回避し、社会的費用を負担しない多国籍企業

 

 今日、多国性籍企業は、パナマ文書に見られるように、それぞれの国家の税制の相違点を駆使して、 脱税に近い節税を行っている。

 

 例えばスターバックスは、ほとんど税金のかからないところにコーヒー豆の集荷会社を置く。そこで安く買ってきたコーヒー豆を集めてイギリスの支店に高値でコーヒー豆を輸出する。そこにかかる税金はほとんどない。その上で、イギリスのコーヒー店は高い値段で豆を買うということになり、赤字経営が続く。
 

 支店における莫大な利益金は、別途、様々な手法で会社グループ全体を還流する。これが、スターバックスが長い間、イギリスで税金を払わなかったからくりである。多くの多国籍企業が、税金を安く収めるために、こうした各国の税率、税制の差を有効に利用している。

 

 多国籍企業は、ある意味において、国家を超えて、その利益追求の極限を求める最も強烈で獰猛なハンターである。利益追求の最強のティラノザウルスともいえる。

 

 そのティラノザウルスの前に、どんな強烈な軍隊を持つ国家もその内部における同調者によって敗北してしまうであろう。しかもこうした多国籍企業は多くの場合マスメディアを握っている。

 

 

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