総督と呼ばれた男(上) (集英社文庫)/佐々木 譲
¥600
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総督と呼ばれた男(下) (集英社文庫)/佐々木 譲
¥600
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評価:★★★★☆



ギャング小説、と言っていいのだろうか。1930年代、マレー半島を舞台に、暗黒街で男がのし上がっていく様を、描いている。


佐々木譲の持ち味は、テンポ良くストーリーが進んでいくところ。読んでいて、まどろっこしい枝葉がほとんどないから、本筋に集中できる。その本筋も、がっしりした骨格だから、飽きがこない。


この作品は、木戸辰也という少年の生い立ちから始まる。身寄りのない辰也は日本人に世話になるが、冷遇される。そんな中、叔父を名乗る男が現れ、英国人の農園で守衛をしたり、炭坑でスト対策をになったりして、糊口をしいでいく。


転機は、炭坑で起こった。叔父が、中国系の共産主義者に殺害されてしまい、すぐさま辰也は報復する。矯正院にたたき込まれ、青年と言える年になって退院した辰也。自転車屋を営みながら、徐々に日本人サークルで裏社会との人脈を築いていき、その足場を固めていく。


殺人に列車強盗など、アウトローのオンパレード。そこに、辰也の器の大きさに惹かれてくっついてくる仲間たちとの友情物語もからみ、経済マフィアへの道をひた走る姿を描く時期もあり、フィクションながら、一人の男の半生を終戦後まで丁寧に描いていく。


面白いのは、辰也を追いかけ、なんとしても捕まえようとする警察官の存在。まるでルパンと銭形を思わせる関係で、二人のやりとりは緊迫感がある一方、辰也は逃げることが、警察官は辰也を捕まえることが生き甲斐になり、互いの存在がよりどころになっているかのような雰囲気がにじみ出ていて、面白い。


上下巻で分量は多めだが、序盤からのめり込めるし、あっという間にクライマックスに入っていくという感じの作品。
THE WINDS OF GOD―零のかなたへ (角川文庫)/今井 雅之
¥520
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評価:★★★★★


元自衛隊員で俳優の今井雅之による名作。読み込み過ぎて、すでに文庫を3度、買い替えたほどだ。


売れない漫才師の田代誠と袋金太。食事代にも困って釣りに行った帰り、トラックにはねられ、気がつくと、1945年、昭和20年の鹿屋航空隊基地。特攻隊訓練中にけがをした2人の兵士と、魂がいれかわってしまう、というSFチックな設定で物語りは進んでいく。


現代とはかけ離れた世界に、2人は最初、まったく適応できない。初めて空襲を受けた時、2人は腰を抜かして防空壕に入ることすらできなかった。他の隊員たちが「国を守るために名誉の戦死をする」と語るたび、くってかかっては、周囲から浮いていく。現代を生きてきた2人と、戦争を生きる同世代の男たち。かみ合わないやりとりも、時間が経つごとに、徐々に誠と金太の言動が、時代に合ったものへと変わっていく。


作品中の設定では、それは体の持ち主の魂が戻り始める、ということになっているが、勝手な解釈をすれば、時流に流され、国を挙げて戦争へと突入していった過程を、2人をモチーフに再現しているように思える。玉音放送が流れる8月15日、2人が取った行動は……。


この物語、根底には輪廻転生というテーマが流れている。なぜ2人が戦争の世にタイムスリップするのか?自分のルーツは??初読後、「なるほど」と思わされるだろう。すべてを理解した上で読み返すと、最初とは違った感動や印象が生まれる作品だ。


間もなく、65回目の終戦記念日がやってくる。今の日本は、目をそらしてはならない歴史の上に立っている。そこを再認識させてくれる作品を手に取る季節でないだろうか。
霧の火-樺太・真岡郵便局に散った9人の乙女たち- [DVD]/市原悦子,香里奈,福田麻由子
¥3,990
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1945年8月15日。玉音放送で終戦が告げられたこの日を過ぎても、樺太など、北方では戦争が続いていた。その事実は、あまり知られていない。


この作品は、日本テレビ系列で放送された単発ドラマ。樺太の真岡郵便電信局で終戦後も交換手業務を続け、純潔を守るために、自決した女性たちの物語だ。
真岡郵便電信局事件 という実際に起きた悲劇がモチーフ。終戦後、本土へ市民たちが避難していく中、進んで交換手業務を続けるために樺太に残ることを選んだ12人。そのうち9人が青酸カリで自決の道を選んだ。


主役は生き残った3人のうちの1人。高齢になり、悲劇を口述筆記してもらおうとする女性(中村瑞枝)を市原悦子さんが演じる。戦死した父の元部下を頼って樺太入りした瑞枝一家。高倍率の試験を突破して交換手になった瑞枝。戦況が悪化する中、島民の間にはソ連が攻めてくる、攻めてこない、と様々な噂が飛び交う。その中で、初恋をし、勉学に励み、友情をはぐくんでいく瑞枝たち。


だが、中立条約を破棄してソ連が攻めて来ることが確実になった。瑞枝たちは通信手段を確保するためにとどまることを選ぶ。ソ連兵に強姦される、という憶測が流れ、自衛手段として青酸カリが配られる中、印象的なのが継父の一言だ。「もしもの時は、初恋の相手でも思い浮かべてろ。死ぬよりはましだ」。女性の気持ちになれば、ふざけるなという発言だ。でも、そういう覚悟をしていた人たちも、少なくなかったであろう時代だと思う。


最終盤、強姦や虐殺のシーンが相次ぐ。ソ連(現ロシア)に対しての感情が、著しく悪くなった。だが、実際にはそういった暴力事件がいたるところで行われたということではなく、生き残った真岡局の職員に対しては、正当に扱われたということだ。


同じテーマで、現在、氷雪の門 という映画が全国で上映されている。35年以上前に作られた映画。絶対に忘れられては行けない事件に、スポットライトが当たり始めている。