インシテミル (文春文庫)/米澤 穂信
¥720
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評価:★★★★☆


映画化されて話題の作品。時給11万円という常識はずれのアルバイトに食いついてしまった大学生や主婦ら12人が、実験と称して特別施設に1週間隔離され、疑心暗鬼の中、メンバーが一人、また一人と死んでいくミステリー作品。



隔離された環境で相次いで人が死んでいく、アガサ・クリスティーの名作「そして誰もいなくなった」と同じクローズドサークルもの。序盤、施設に12人が集められると、人数分のインディアンの人形が置かれている、というくだりが出てくるが、まさにこれは「そして誰もいなくなった」と同じ情景だ。
この作品が面白いのは、12人それぞれに渡される凶器に趣向が凝らしてあるから。撲殺や毒殺など、古今東西の名作で使われた凶器が、その説明と共に各人に支給され、それが様々な事件へとつながっていく。


誰が誰を殺したのか?どうやって殺されたのか?どんな凶器が与えられているのか?頭を巡らせ、独自に推理していく。それが醍醐味だろう。ただし、誰が実験を主催しているのかやその動機などは、つまびらかにされない。それに、そもそも時給11万円って、という根本的な突っ込みドコロはたくさんある。おおらかな気持ち(?)で、推理ゲームと割りきって楽しんだ方が、いいだろう。


ちなみにタイトルの意味はよくわからない。が、単行本の方のカバーには「The INCITE MILLl」とある。inciteは感情などをかき立てる、刺激するという意味で、millはコーヒーミルのミル。製粉所や製造工場といった意味。「刺激の素」とでも訳せばいいのだろうか。たしかに、知的刺激は存分に味わえる。

東京・地震・たんぽぽ (集英社文庫)/豊島 ミホ
¥500
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評価:★★★☆☆



東京を震度6強の地震が襲い、当たり前だった生活が、突然、一変する――。
極限状況を、様々な立場の14人を主人公に描いた短編連作集。全体で200ページちょっとなので、サクサクと読み進められる。



最初の作品は、友人から地震を事前に知らされ、冗談半分で急に田舎に帰省した青年の話。地震が起きると教えられてから先、まーったく地震の話は出てこない。気まずい事情を抱えた小学校時代の同級生との出会いがあって、そして、東京が一変するニュースを目にして……。自分が同じ立場なら、そのニュースを直視できるだろうか?本当なら、死んでいたハズなのに、生き残ってよかったのだろうか?いろいろと考えさせられる一作だ。



その他、遠出した公園の東屋で被災する赤ちゃんをつれた、育児疲れのママや、地震で宝物が壊れていないかを確認するために学校を飛び出す小学生。免震構造の高層マンションに立てこもるアイドルなどが登場する。



災害モノの小説や映画が好きなので、個人的に、テーマはすごくしっくり来る。が、いかんせん、登場人物がどこか心にゆとりを持っていて、究極状況やぞ、とついつい突っ込みたくなる。さらに、これは個々が頭の中でどうイメージするかなんだが、なんとなく、キャラクターが似通っているように感じられる。



500円という値段を考えたら、十分すぎるほどペイする。が、だからこそ、もっともっと、崇高なレベルまで引き上げてほしかったなぁ、という思いが残る。
風にそよぐ墓標-父と息子の日航機墜落事故-/門田 隆将
¥1,680
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評価-----

人に本を薦めることはあっても、強要はしないようにしてきた。でも、この本は、読まなければいけない、と強く言いたい。


1985年8月12日。この日、日航ジャンボ墜落事故が起きた。当時、多くを語らなかった遺族が、四半世紀の時を経て、胸中を、悲しみの襞を自らの言葉で語っている。最近では「クライマーズ・ハイ」などで脚光を浴びたこの事故。当時の報道では明るみに出なかった思いが詰まっている。



6章の主人公は全員、男性。父をなくし、半狂乱になった母の代わりに遺体確認をした高校生。父親が貴重な機内の写真を残して逝った男性。遺族として、治療痕から遺体の特定に尽力した2人兄弟の歯科医師。
家族を理不尽にも奪われた苦しみ、悲しみ。遺された人たちが、どうやってこの25年を生き抜いてきたのか。発生直後、現場に向かおうと山を登り、途中で引き返したことに、ずっと自責の念を抱いていた男性。父が機内で書いた遺書が、遺された家族の「憲法」になった家庭。妻を失い、子と離れ、アルコール漬けになって死への道を突き進んでいったある父親。



2時間の新幹線の度で手に取り、各章の終盤には嗚咽をこらえながらページをめくった。丹念な取材を生んだのは、これだけの遺族に心を開かせた、著者の人間性だ。正直、嫉妬さえ感じる。綿密に、気の遠くなる時間をかけて紡がれた作品。



実は、あの日、東京発伊丹行き123便の数時間前、同じ機材が羽田から福岡に向かう便に乗っていた。終夜続いた臨時ニュースは、北九州の祖父の家で見ていた。その事実を、高校生になってから知った。圧力隔壁の異常がちょっと早ければ、私は被害者に、家族は遺族になっていた。他人事には、思えない。