この時代は店側有利の営業形態とは言え、パチンコもパチスロも機械のスペック自体は今と比べてかなり優れていたのではないかと思う。

長期的に戦えばしっかりプラスになるような、穏やかで安定した出玉性能の台が数多くあった。

中にはギャンブル性の高い台もありましたが、誰でも低額で楽しめるという点では、まさに大衆娯楽の王様と呼ぶにふさわしいものだったのではないでしょうか。

それをホール側が出玉の交換や交換率等のルールを自由に設けて、客側を上手い具合に勝ちにくくしていたのです。

しかし、そんな条件下でも千載一遇のチャンスが訪れる時がありました。

ホールがルール自体を変える訳ではありませんが、主に新台入れ替え時などに一時的に釘や設定が通常営業よりも数段甘く調整される「新装開店」です。

この日ばかりは、どの店もまさにお祭り騒ぎの大盤振る舞い。

これこそ、客側が勝つ事のできる最大の舞台なのでした。

現在では、もはや新規の開店を除いては絶滅危惧ですけど。

 

やがて、自分も晴れて堂々とパチンコを打てる年齢になりました。

A店を追い出されて以降は、車という機動力を武器にこの新装開店に狙いを定め、数人のグループで情報交換をしながら市内中を駆け回るようになっていきました。

ほとんどの新装開店で新台の釘はガバ開き、スロットの設定は大甘で、おまけにモーニングと呼ばれる予めボーナスが入っているサービス付きなど当たり前。

見るからにパチプロ、開店プロと呼ばれる人も存在し、あちらこちらで並ぶうちに自然と何人かとは顔見知りになっていた。

彼らは主に一発台や権利物と呼ばれる機種を中心に打っていて、幸いにも狙い台が被ったりもしなかったので、ホールに付き物の揉め事に巻き込まれたりする事も殆どありませんでした。

ところが、実はこのプロのライバルが少なかったパチスロにこそ旨味が有ったのです。

まだまだ遊技人口も少なく、特に新装開店に予備知識を持って臨む者など、居ないに等しかったのではないでしょうか。

競争相手が少ないというのは、それだけで有利に立ち回れる充分な要素でありました。

モーニング台を複数頂けることもしばしば、まともなデータカウンターを設置している店など無かったので、7揃いの台を1G回して適当なハズレ目を止めておけば、モーニングは入っていないと思われ放置されたままになる。

それを後でいただくなんて事も簡単に出来たりした。

設定の期待できる状況でBIGからのスタートは仮に短時間の営業だったとしても、三時間位は充分並ぶ価値がありました。

今はもう消えて無くなってしまった店も数多いですが、当時足を運ばなかった店など市内にはほとんど無いくらいだったと思う。

一度きりしか行かなかった店も結構ありましたが、基本的には特定の店にこだわらず店が出す気が有るときにだけ打ちに行く。

そんな立ち回りでも結構勝つ事ができたのです。

 

そうしている内に、自然と開店回りの仲間も増えていきました。

同級生やクラスの枠を越えて十数人はいただろうか。

すると、誰からとなく新装開店の情報が飛び込んでくる。

顔見知りのプロとも店の情報を交換し合ったりしていた。

ある日、その筋から前に潰れていた跡地に、間もなく関東圏から来たC店が開店するとの情報を得たので、早速仲間数人と初日から並びを入れることにした。

噂では、この辺ではあまり見掛けないウィンクルという、フルーツゲームなる未知の機能を搭載した新しいパチスロが導入されるらしい。

それをぜひ打ってみたいと、うずうずして待つ事数日、ついに待ちに待った新装初日がやってきました。

 

気合を入れて開店の三時間前に到着すると、並びの列は既に始まっていた。

先頭からどこかで良く見掛ける顔がずらりと並んでいます。

開店時間前、店側は混乱を避けるために早めに客を中へ導入するとのことで、しばらくするとシャッターが開きはじめました。

先頭集団が下から店内に潜り込んで行くのが見えた。すると、後ろに並んだ客が慌てて前の人を押したり背中を踏んだりして、結局揉みくちゃになりながらの入場となった。

無事にウィンクルを確保する事に成功したのは良いのだが、席に着いてみると意外にも数台の空き台がある。

みんな今流行の連荘デジパチへ流れていったようだ。

これには少し拍子抜けしたが、それでもスロットコーナーは全台777揃いになっていて、モーニングを否が応にも期待させる。

新台が放つ独特の匂いに包まれ、気持ちも高まり、刻一刻と迫る開始時間が待ち遠しい。

何かが起こる予感がするこの時間を楽しむことさえも、新装開店における醍醐味の一つでした。

そしていよいよ開店時間です。

軍艦マーチの代わりに、F1番組のオープニング曲が大音量で流れる中、はやる気持ちを抑え隠し持っていたメダルを1枚投入し、レバーを叩く。

少し小さめだが、比較的見やすいピンク色の7図柄をセンターラインに狙うと、

「パンパンパンパンパン」

おもちゃのピストルの様な乾いた入賞音がして、見事一直線にスリーセブンが揃った。

「チンチロリン、チンチンチンチンチロリン…」

昨今のユニバーサル系2号機に比べるとやけにチープなファンファーレの後、

「ブァブァ、ブァブァ…」

とけたたましい音が鳴り響くと、追いかける様にあっちこっちからも聞こえてくる。

下皿からメダルが溢れると、隣の空き台を1G回し、ハズレ目を止めておく。

あわよくば、もう1台モーニングを頂こうという魂胆だ。

モーニング台が有るとわかれば、さすがにパチスロコーナーも賑わいを見せてくる。

急いでボーナスゲームを消化し終えると、隣の台はまだ空いているではないか。

台移動は出来ないので、一度交換しなくてはならないのか、などと考えていると、デジパチコーナーからあぶれてきたらしい、70歳くらいのお婆ちゃんに間一髪のところで座られてしまった。

これで他に空き台は無くなり、仕方なくそのままの台を打ち続けるしかなくなった。

どんな仕様なのかもまだ良く解らなかったので、何気なく1ゲーム目からセンターに77と狙う。

すると、今度は中リールが7をすっ飛ばしてテンパイせず、代わりに上段にベルがテンパイしている。

インジケーターの端を狙うと、偉そうな入賞音がしてベルが揃うがボーナスではない。

次ゲームは上段に、また一応77…と狙ってみる。

今度はリール上でリンゴ絵柄が揃い、払い出しとともに、さっきまでリールの回転に同調して激しく動いていたインジケーターランプが全点灯した。

どうやら、これが初めて体験するフルーツゲーム突入の合図のようだった。

隣では、既に回されていた事など気にも留めないお婆ちゃんが、おそらくはモーニングで入っていたであろうビッグを未だに揃えられずにいる。

すっかり機嫌の良くなっていた自分は、颯爽と1枚掛けでビッグを揃えてあげると、お婆ちゃんは無邪気に手を叩いて喜んだ。

自分の台は、その後もボーナスとフルーツが小気味よく続き、3,000枚近くを獲得。

最後に出たビッグ1回分の出玉が飲まれる前にヤメて両替してみると、30,000円と百円玉数枚。

2500枚以上は有ったはずだから、余りの換金額の少なさに初め何かの間違いかと思ってしまった。

計算してみると、8.5枚位の交換率になっている。

それでも、ウィンクルは全台モーニング&高設定だったと思われ、隣のお婆ちゃんも7テンパイ後はカラ回しという技を使い、推定時速300Gのゆっくり打法にも拘らず、閉店時には1箱サラ盛りとパチスロコーナーはまさに出血大サービス、圧巻の出玉となっていた。

期待していたフルーツゲームは、おまけの様なお得感が有ってとても新鮮に感じられ、また打ってみたいと思わせるのには充分な内容であった。

 

https://youtu.be/g3O5eYG7zDM

↑必ずフルーツに突入するベル

https://youtu.be/IsHm0F-ouHk

↑ビッグを体験したい方はコチラ

(Special thanks by 鰐師匠)

 

この店でも、ほぼ夕方からしか打ちには行かなかったが、その後半年くらいは高設定と思われる台が多数存在する状況が続き、通っているうちに店のクセも把握でき、高設定であろう出る台も見分けられようになり、自分にとっては大変相性の良い優良店となっていった。

この店で打つ台を決める時には、決まってその日出ている台を選んだ。

データ機器は全く置いてない店なのですが、ウィンクルならある程度の推測が可能でした。

この機種は、上から覗くと投入されたメダルが貯まるホッパーが見えたので、まずはメダルが少なくなっている台を探します。

また、カウンター脇には、出玉を交換した台番と枚数が記録してあったので、併せてそれもこっそりチェックして情報を掴んでいました。

密かにこの技は、他の店に行った時も使える場合が多く、特に通い慣れていない店ではかなり有効な手段だった。

しかし、ここで重要なのは高設定の台が必ず有るという事。

高設定が必ず存在する店であれば、出ていた台がそのまま高設定の可能性は必然的に高くなるのですが、存在しない店でいくらデータの良い台を打ったところで、低設定しか無いのなら勝てる訳もないのですから。

C店の方も、新規開店で付いてくれた客に常連になってもらう為だろうが、あまり裏をかくような設定の入れた方や、露骨に搾ったりしてくる事は無かったので、コンスタントに勝つ事が出来た。

自分らを含めた客も余り長時間粘ったり、出しすぎたりせず良い所でやめる事も多かったので、結果的には長い間設定自体を高くして使ってくれていたのだと思う。

 

やがて、半年以上続いた状況も盛者必衰の理を表すが如く。

C店のウィンクルにも陰りが見え始め、ついに終焉の時を迎える日がやって来てしまう。

それでもA店を追い出されて以降、フットワークも軽くなり、立ち回りにも多少自信が持てるようになっていた自分は、状況が悪くなったC店を未練なく去り、新天地を求めてまた次の店探しの旅に出るのでした。

 

次回予告:ジグマとの出会い