僕の騒ぎが一段落した頃、今度はケインがジョージに救いを求めてきた。
「来年のレギュラー候補を絞るのに、控え部員で月例会をやっててさ、最初ははっきり言って直ぐにでも上位に入れるだろと軽く見ていた。田舎の公立校だしね。ところがさ、数回やって全然上位に食い込めない。どんどんレギュラーが遠のいてく有り様なんだ。原因はドライバーの飛距離だと思い込んでたんだけど、どうもそれだけじゃない。アイアンの精度が違うのさ。オレ、こっちに来てゴルフが下手になっちゃったみたい」
ジョージはケインの頭を撫でた。
「ようやく気付いてきたか、それを待っていたよ。まずは壁にぶち当たらなければ私が何を言おうと聞き流していただろう。お前が下手になった訳じゃない、理由があるのさ。それが分かるかい?」
「うん、日本のコースに比べてフェアウェイの芝がふかふかしてて、心持ちボールが沈んでる感じがするんだ」
「その通りだ」
ジョージは満足そうに頷いた。そして図を引っ張り出して説明する。
「日本のコースは和芝が使われているが、アメリカでは洋芝が使われる。和芝というのは葉が硬くしっかりしているからボールが浮いている。それに対して洋芝は葉が柔らかいのでボールを支えきれずに少し沈んだ状態になる」
「ケインもダイも和芝に慣れてきたから、スイングの最下点でボールを捉えるフォームになっている。それが基本だからな。だが洋芝の場合は最下点でボールを捉えようとすると、ボールに当たる前に芝を噛んで、芝が挟まってスピンが掛かり難くなったり、ダフった状態になったりする。スピンが少なければフライヤーといって思ったより飛んでしまうし、ダフれば逆に飛距離をロスする。そしてどちらの場合もグリーンに落ちてからボールが転がってしまうから、正確なショットが出来ないのだよ」
「なるほど、そういうことか。他の奴らはボールを打った後にでかい草履を飛ばしてる。ボールを最下点の前で捉えてるからだね」
ケインは理由がはっきりして、表情に希望が戻った。
「そういうことだ。お前が草履と言ってるのは、ターフと呼ぶ。そしてボールを最下点の手前で打つ打法がダウンブローだ」
「分かった。スイングを変えてみるよ」
ケインは戻ろうとした。
「待ちなさい。ある程度完成されたスイングを変えようとするのは簡単にはいかない。それこそレギュラー取りには間に合わないぞ。スイングはそのままでいいから、ボールを少しだけ右足寄りにしてみなさい。この際だから、さらにレベルアップ出来る練習方法を教えよう」
ジョージはそう言うと、練習場の端の打席に行き、打球用の人工芝マットを除けて数ミリの厚みで砂を撒いた。そしてボールを少し砂に埋めて置くと、ケインに打ってみなさいと言った。
ケインは7番アイアンを取り出して、ジョージに教わった通りにボールを少し右足寄りになるようにスタンスを取って、打った。ボールと共に砂が舞い散り、思わず顔の前を手で払う。ボールは150ヤードの手前に落ちた。
「ダフったな」
ジョージが笑う。ケインは悔しそうな顔をした。
「芝だったら今のショットでも綺麗に飛んで行くだろう。だが実際にはまだほんの少し芝を噛んでしまっているのだ。砂地ではそれが顕著に出る。ボールをあと2ミリ右に置いて、ボールの右端を地面に叩きつけるイメージで打ってみなさい」
ジョージはそうアドバイスした。ケインは言われた通りにもう一度構えてボールを打った。今度は薄く砂を舞い上げながら、ボールは160ヤードまで飛んだ。
「それだ。その感覚を身に付けなさい。それからこのドライバーをお前にやろう」
そう言うとジョージはディープフェイスの赤いドライバーをケインに渡した。
「それは逆に少しボールを左寄りに、高目のティーアップで打つといい。今のお前のスイングスピードなら使いこなせる筈だ」
ケインはジョージから長いティーを貰い、砂地にティーアップしてディープフェイスのドライバーを構えて振った。以前より力強さの増したスイングから放たれたボールは、300ヤードの看板を越える。
「うん、これならいける!」
ケインは嬉しそうに笑った。
