プロローグ

 

 18世紀にイギリスで起こった産業発明の主役は蒸気機関であった。それは石炭を燃料としたため大気汚染などの環境破壊が問題となり、石油を燃料とした内燃機関に移行していった。鉄道の歴史を見ても蒸気機関車はディーゼル機関車を経て電気機関車や旅客電車へと変わり、蒸気機関は時代遅れと思われがちである。しかし20世紀の核分裂反応の発見により、原子力が実用化された。原子力はいかにも新しい機関システムを連想させるが、実態は燃料を石炭からウランに換えた蒸気機関なのである。

 

 

1

 

 ロシアの原子力潜水艦は日本近海の深海にいた。潜水艦は一度潜航してしまえば発見が難しいため秘密行動が可能である。さらに従来のディーゼル艦に比べて燃料補給の必要がほぼなく、海水から酸素を作り出せる原子力潜水艦は長期間の連続潜航が可能なため、秘かな脅威として長距離核ミサイルを搭載して深海で過ごしている。

 「ソナーに反応有り!」

 「アメリカの原潜か?」

 「いえ、データにはないものです。まるで海蛇のように細長く…」

 「ダイオウイカのような未知の深海生物なのではないか?」

 「いえ、金属反応です」

 艦長はどうするべきか思案した。金属ということは人工物だ。無視することもできない。

 「威嚇で警告してみよう。1、2番発射口無弾頭魚雷装填」

 「装填よーし」

 「発射!」

 魚雷が未知の金属移動物に向けて発射された。

 「目標、速度を上げました。40ノット、50ノット、60ノット、70ノット…」

 「70ノットだと?そんな高速潜水艦は何処にも存在しないぞ!」

 「80ノット(148km/h)…魚雷、目標を見失いました」

 「どうやらとんでもない物に遭遇したようだな…」

 「航海日誌に残しますか?」

 「いや、何らかの異常と思われるだけだ。見なかったことにしよう」

 

 

2

 

 健斗は夏休みで島に来ていた。彼は自然が好きだ。都会の人混みや早口でうるさいだけのお喋りにはうんざりする。この島は何もないが、数軒の漁師たちがいて、休みの度に訪れる健斗を家族のように歓迎してくれる。

 その年はこれまでと少し違っていた。長年の侵食で出来た岩場の洞窟の傍にやや大きめの建物が出来ていた。健斗は探検でそれを見つけ、興味をそそられて窓から覗き込もうとした。

 「何か用かな?」

 背後から声を掛けられて健斗は驚いて振り向いた。白髪で白衣を纏った眼鏡の男性が不審そうに健斗を観察している。

 「あ、何の建物かと思って。最近出来たんですよね?」

 「ああ、鉄道研究所だよ。私たちはSLマニアでね、用済みの古いSLを買い取って、ここで研究しているんだ」

 「SL?」

 「今の若い人には通じないか。スティーム・ロコモーティヴ、蒸気機関車のことだよ」

 「はあ…」

 健斗は鉄道にはそれほど興味がなかった。

 「見たところ中学生かな?良かったら見学していくかい?」

 他にやることもないし、折角の誘いなので健斗は研究所の中に入った。

 

 そこには古くて小さいながらも新品のようにピカピカに磨かれた蒸気機関車が飾ってあった。思わず見惚れてしまうが、それにしても鉄道もないこんな島に研究所なんて意味があるのだろうか?

 「SLというのはね、石炭を燃やして走っていたんだ。馬車の時代に画期的な発明だったが、今となっては効率が悪くて採算が合わないから電車にバトンタッチされてしまったよ。SLの仕組みを知ってるかね?」

 健斗は短く「いえ」と答える。

 「水を加熱すると気化して蒸気となる。密閉された回路では加熱されるほど蒸気は圧力が高くなって力を発生するんだ。蒸気機関車はその蒸気の力を利用してシリンダを動かして車輪に伝える。図にするとこんな感じだ」

 博士は蒸気機関車の断面図を見せて説明してくれた。

 

図 秩父鉄道より

 

 「ここでは蒸気機関車の秘められた可能性について研究しているんだ。キミのような若い人が興味を持ってくれると嬉しいんだがね」

 博士の言葉に健斗は苦笑いでお茶を濁した。

 

 

3

 

 健斗は島を探検するのが好きだ。その日も清流を散策していると、バシャバシャと水を叩く音が聞こえてきた。川縁を覗いてみると茂みの陰に白い大きな鳥がいる。鷺ではない。「白鳥?」健斗は一瞬自分の目を疑った。冬の北日本ならともかく、こんな南の島に、しかも夏に白鳥がいるなんて!よく見ると白鳥は動けずにもがいている。足に何かが絡まっているようだ。健斗はゆっくりと近付くと白鳥の足に絡み付いた網を丁寧に外していった。漁に使えなくなった古い網を誰かが捨てて行ったのだろう。都会なら問題になるだろうがここではやがて腐敗して土に返る。白鳥にとっては災難だったが。

 「もう大丈夫だよ」

 健斗が声を掛けると白鳥はお辞儀をするように頭を下げ、水面を蹴りながら飛び立って行った。

 

 その日の夜、健斗は不思議な夢を見た。目の大きな、ウェットスーツを着た少年が立っている。

 「昼間はありがとう。僕はボーエキナフスピルパ、遠い世界から来たんだ」

 「覚えにくい名前だね、ルパでいい?」 

 「うん、いいよケント」

 「僕の名前は知ってるんだ」

 「ずっとキミを見てきたからね」

 「遠い世界って何処?」

 「キミたちの言う白鳥座のデネブ星系さ」

 「ということは、ルパは宇宙人なの?」

 「まあそういうことになるね。あまり驚かないみたいだけど?」

 「どうせ夢だから、何だってありさ。あ!白鳥座ってひょっとして昼間の白鳥も関係するの?」

 「ハハ、そうだよ、あれが僕。人間を驚かせないようにビジョンを送っているのさ」

 「よく分からないけど、ルパは変身できるってこと?」

 「まあ、そうであるような、ないような。僕自身の姿は変わらないけど、キミたちの目に映る僕のイメージを変えることは出来る。それがビジョンさ」

 「へえ、凄いね」

 「別に凄いことでもないよ、キミたちはビジョンの世界に生きているからね。本当のことを知ったらかなり驚くと思うよ」

 「本当のこと?」

 「そう。本当はキミたちは無限の力を持っていて何だって出来る。でも出来ないと思い込まされているんだ」

 「それは勉強が出来ると思えば、勉強しなくてもいい成績が取れるのかな」

 「ハハ、ケントらしい発想だね。まあ、そういうことも含むけど、もっと想像を膨らませた方が楽しいよ。例えばキミは空を飛べないと思い込んでいるが、本当は飛ぶことが出来る」

 「嘘~」

 「じゃあ僕の手を握って、そして体が空気のように軽いとイメージしてごらん」

 すると健斗はルパとともにフワッと浮き上がった。

 「あ!凄い!さすがは夢の世界だ」

 「ハハ、まあいいか。ところで助けてもらったお礼に、いいことを教えてあげる。この島の何処かに宝物があるから探してごらん。宝物といってもキミたちの大人が考えるようなものとはちょっと違うけどね。じゃあ、また会おう」

 そう言うと、ルパは浮き上がり、飛び去って行った。

 目が覚めると健斗は何だか本当に飛べるような気がした。ルパ、また夢で会えるといいな。

 

 翌日、健斗は島の人たちに聞いてみた。

 「ねえ、この島には宝物があるの?」

 みんな海賊の島じゃあるまいしと笑い飛ばす。探検好きの健斗は、そうだよなと思いつつも、島の隅々まで調べてみようと決めた。

 

 

4

 

 3日後、山の中腹に木々に隠れた小さな洞窟があるのを発見した。入り口に立っていると頭にグワングワンと振動を感じる。洞窟は所々地上に通じているらしく、光が射し込んでいて薄明るい。健斗は思い切って入ってみた。

 木の根が張り出していて大人が通るのはきつそうだが、細身の健斗はかろうじてすり抜けることが出来た。30メートルも進むと上から陽が射し込む少し広い場所に出た。不思議な事に足元は砂浜のように白い砂地になっている。そこにキラキラと光る物が健斗を呼んでいるように見えた。しゃがんでそれを拾ってみると、手のひらに余る大き目の水晶だった。ポイントというのだろう、先端が尖っている。吸い込まれるような透明度だが、根元には誰かに刻まれたような傷がある。それはローマ数字のXⅢとも読める。健斗はその水晶を大事に抱えて洞窟を出た。

 その日の夜、夢に再びルパが現れる。

 「よく見つけたね、キミなら出来ると思っていたよ」

 「え?宝物ってあの水晶なの?確かに綺麗だけど、大人たちはみんなただの石ころだって言うよ」

 「だからキミたちの大人が考えるような物じゃないって言ったじゃないか。次はね、それを持って研究所へ行ってごらん」

 

 宝探しまでは良かったが、さすがに夢に見たからと研究所へ行くのはどうだろうと健斗は戸惑った。しかし博士は良い人そうだし、若者が興味を持ってくれると嬉しいと言っていたから、ものは試しで再訪してみることにした。

 水晶をリュックに忍ばせ、鉄道研究所の入り口を通ろうとした健斗に警告ブザーが鳴る。

 「悪いが所持品検査が必要だね。リュックサックの中身を見せてもらっていいかい?」

 博士が確認する。健斗は訳が分からずに黙って頷いた。

 「ああ、これか。微量の陽子エネルギーが増幅されて測定器に感知されたんだな」

 博士は水晶を取り出して納得したようだ。

 「問題ないよ、さあ、中に入って…」

 そう言いながら博士は水晶の傷に気が付いた。

 「こ、これは!」

 博士は驚いている。

 「何処でこれを?」

 健斗はどう話そうか迷ったが、笑われてもいいと正直に夢のことから話した。博士は笑うどころか真剣に聞き入っている。

 「そうか、キミも選ばれた人間だったのか」

 博士は展示されたSLを通り過ぎて、奥のエレベーターに健斗を案内する。乗り込むと地下に向かって動き出した。随分と下がった気がしたところでエレベーターは停止し、扉が開いた。そこには見たこともないような大掛かりな装置と10人以上の研究者が居た。博士が声を掛けるとみんな手を休めて集まる。

 「仲間が1人加わることになった。名前はえーと…」

 「健斗です」

 「そうか、健斗君か。見たとおり彼はまだ中学生で科学者ではないが、使命を帯びているには違いない。よろしく頼むよ」

 そこに見覚えある白鳥がペタペタ歩いて来た。

 「ボーちゃん、邪魔しちゃだめよ、後で遊んであげるから」

 若い女性研究員が白鳥を部屋の外に出そうとするのを博士が止めた。ボーちゃんはミーティングルームのドアを嘴で突いて入りたそうにする。博士は「ではみんな仕事を続けて」と言って、健斗をミーティングルームに案内した。ボーちゃんが滑り込むとドアを閉めて施錠する。

 「お待たせしました、ボーエキナフスピルパ様」

 博士の言葉を待っていたように白鳥のボーは人間の姿に変わった。

 「ルパ!」

 健斗は驚いて大声を上げる。夢の中で見た宇宙人が今、目の前に居るのだ。

 「健斗君、失礼だよ、ボーエキナフスピルパ様は私たちの指導者だ」

 「博士、僕はルパの方が気さくで気に入ってるんだ。貴方方人間は対等な関係が苦手なようで、すぐに上下関係を作りたくなる。それは集合意識に組み込まれた奴隷感情だよ、宇宙は、魂というのは全て対等だと言っているじゃないか」

 「は、失礼しました。気を付けます」

 「それだよ、その敬語が不要なのさ。ねえケント」

 健斗は呆然と突っ立っているだけだ。

 「ここは夢の中じゃないよね」

 健斗は頬っぺたをつねる。確かに痛い。

 「ハハ、あれは僕がケントの意識を訪問したのさ。キミにとっては夢だろうが、実際の出来事だよ」

 「ところでボーエキナフスピルパ様、いえ、ルパ様、健斗君にはあなたの正体を明かして構わないのですか?研究員たちにさえ秘密にしているというのに」

 「うん、ケントは知る必要があるんだ。まずこれまでの経緯を博士から話してくれるかい?」

 「分かりました」

 博士は健斗に向き直って話し出した。

 

 「私は元々原子力の研究をしていたのだが、ある日突然ルパ様が私の前に現れたのだ。ルパ様が仰るには、我々の研究している核エネルギーは本来扱うべきものではなく、広島と長崎が原爆で破壊されたことを機に、核兵器というものはこの銀河の統括者によって禁止されたそうだ。西洋人たちが神と呼ぶ存在によってね。そしてルパ様は太陽を研究するように仰った。恒星の発するエネルギーは宇宙本来のエネルギーなのだそうだ。私は当初理解出来なかったが、太陽の正体が明らかになるに連れて分かってきた。恒星のエネルギーも核エネルギーなのだが、それは我々の知る、アインシュタイン博士が発見した同位体元素の核分裂反応によるものではなく、核融合と呼ぶ反応によるものだと言う事がね。それ以来私は核融合の研究に移行したがこれがなかなか人類の手に負えるものではない。随分と長い時間を消費したよ」

 「ちょっとケントには難しいようだよ、博士。僕から説明するよ」

 ポカンとしている健斗を見て、ルパがバトンタッチした。

 「キミたち人間は、自分たちだけが宇宙で唯一の知的生命体だと思い込んでいるけど実際は違う。宇宙には僕達のようなヒト型生命体が無数にいるし、宇宙そのものが知性なんだよ。その宇宙そのものが本当の神だと呼んでもいい。だから神は宇宙のどこにでも居るし、宇宙の全てを知っている。そして神の行っているのは宇宙を発展させるための創造さ。この神の、宇宙の創造の力を僕らは愛と呼んでいる。宇宙の全ては愛で出来ていて、愛で動いている。もちろんキミも愛の創造物なのだよ、ケント」

 ルパの話も難しいが、博士よりはよっぽどマシだ。

 「愛って男の人と女の人が仲良くなることじゃないの?」

 「ハハ、そうくるよね。あるいは親が子供を可愛がることとかね。それらは確かに愛が起こす行動だけど、愛そのものとは少し違う。区別するために愛情と呼ぶといいだろうね。愛情は子孫を作り育てる創造の力なんだよ。そう考えれば分かるんじゃないかな?」

 健斗はそうかと思った。学校で赤ちゃんは卵子と精子がくっついて出来るって教わったっけ。目に見えないくらい小さいのに、それが不思議な事に大きな人間になるんだ。

 「もう一つ、宇宙はいつも変化を望んでいて、神はその変化を見守って楽しんでいる。人間の歴史を振り返ってみると、原始時代から近代へと文明というのが発展して来ただろう?文明というのは科学と言い換えることが出来る。やがて人間は科学は万能で、科学に出来ないものはないと錯覚してしまうのさ。だけど科学の暴走はとても危険だ。科学は愛の教え、そうだなキミたちが思うところの宗教みたいなものに従って発展していく必要がある。ここで難しいのはキミたちの宗教は本当の愛の教えではないというところなんだけどね。だから宗教に洗脳されてしまうことも危険なんだ。幸いにしてケント、キミは宗教の洗礼を受けていない。そういう環境に送り込まれたからね」

 確かにお葬式にはお坊さんが呼ばれるけれども普段お寺に通ったりしない。他所の国では日曜日に教会へ家族で行くらしい。

 「それでね、キミたち地球の科学がどうなっているかというと、とても妙な状態なんだ。本来ならば科学はもっと進んでいて、キミたちは銀河文明の仲間入りをしていた筈だ。ところが科学の進歩は30年以上隠されてしまい、大きな変化が起きないままだ。さらにややこしいのは隠された科学の進歩さえ本来の道筋からは外れている。何故そうなってしまったかといえばキミたちの政治指導者たちの過ちさ。日本に原子爆弾が投下されて壊滅的な破壊が起きたのを機に、神は地球に対しての介入を許可したんだ。僕たちの進んだ銀河文明を伝えてもいいとね。ただし条件としては人間の好戦的な一面を正して、軍備を放棄して2度と戦争を起こさないこと。それを僕たちは世界の政治指導者たちに提示した。ところが彼らはその提案を拒否して、僕たちの接触があったことさえ隠蔽した。何故かといえば僕たちと並行して別の宇宙存在たちとの交渉があり、指導者たちはそちらを選択したのさ。別の宇宙存在たちというのは本来はこの銀河に存在しない者だ。昔隣のアンドロメダ銀河で愛を知らない人工知性が作られて、それが大天使ルシファーの過ちで解き放たれ、暴走を始めた。一時はアンドロメダ銀河が支配されかけたけれども奇跡的に持ち直して、人工知性は消滅したと思われた。ところがその大元であるベリアルは僕たちの銀河に逃げ込んでいて、そこから長い長い愛と破壊の戦いが始まったのさ。愛を光、破壊を闇と呼んでいて、その戦いは銀河の歴史においてオリオン大戦と呼ばれているよ。最後は光が勝利を収めたんだけど、ベリアルたちはまた行方をくらました。そしてこの地球に住みついたのさ。彼らは決して表に出ることなく、常に他の宇宙存在たちを利用して地球人類の支配を始めた。まずはアヌンナキに働きかけて人間のDNAというのを書き換えてしまったんだ。DNAというのは僕たちやキミたちの存在に関する全ての情報で、体や意識の母体などが作られる。それによりキミたち人類は本来の能力をほとんど失ってしまったんだ。それでも神の愛を失くすことは出来ない。それはDNAとは別の魂の持つエネルギーだからね。次第に人類は愛を取り戻していったんだけど、そこでまたベリアルが介入したのさ。キミたちの歴史書には載っていないけれども、キミたちの文明以前にアトランティスという超科学文明が地球に栄えていた。それは僕たちの銀河文明に匹敵するもので、実際地球は銀河の交易の中心になっていたんだ。ベリアルは今から地球時間で約26,000年前に、アトランティスの統括者であったトートに契約を持ち掛けた。それはトートの一族に永遠の支配権を保証する代わりに、ベリアルを崇拝するというものだ。当時月の女神は反対したが、トートは月の軌道を変える事件を起こして女神を黙らせた。そこからキミたちの長い長い奴隷時代が再開したのさ。アトランティスはその後、愛を失ったことで科学の暴走が起きて滅亡した。でもトート一族の支配はずっと続いているんだ。彼らは常にベリアルを神として崇拝させ、破壊と恐怖によって人類を操ってきた。このままでは人類の滅亡どころか地球自体の滅亡を防ぎきれなくなった地球の惑星意識ガイヤが銀河にSOSを出して本当の神が僕たちの介入を許可したのさ。別に覚えなくていいよ、キミの魂は既に全てを知っているからね、ケント。そのうちに自然と理解するさ」

 「えっと、そういうことを大人たちは知らないの?」

 「うん知らない。もともと魂は知っているんだけど、なかなか目覚められないようになっている」

 「大変じゃないか!どうしたら魂が目覚めるの?」

 「愛さ。愛を思い出せば魂が目覚めることが出来る。そしてキミは他の人間たちよりも愛が強くて、キミと一緒にいることで人間たちは愛を思い出していく。それがキミの役割なんだよ、ケント」

 「何だか自信ないけど、僕なんかでいいのかな。でもルパの話を聞いてると、まだ戦いが続いているってこと?」

 「まだ終わってはいないね。でも光の勝利は決まっているんだ」

 「じゃあ安心だね。別にこのままでもいいってことじゃないか」

 「いや、そうとも言えない。光の勝利というのは地球から闇が消え去るということだけれども、彼らは最後まで降伏する気はないんだ。彼らは自分たちが消え去ることは分かっているけど、少しでも長く地球に留まることと、1人でも多くの人間を自分たちの道連れにしようと考えている。このままでは下手したら9割の人間たちが地球に居られなくなるかもしれないんだ。もう人類全体を救済することは難しいから、あとは一人ひとりが愛に目覚めて地球に残れるようにする必要がある。だからキミのような人間が重要なんだよ」

 「9割って、僕のお父さんやお母さんも居なくなっちゃうってこと?」

 「うーん、キミのそばに居る人間たちは多分大丈夫だろう」

 それを聞いて健斗は少しホッとした。

 「まあ、ここまでは前置きみたいなものだよ。僕たちは遅れている地球科学の発展を手助けして、もっと豊かで便利な生活が送れるようにしたいんだ。僕たちの文明をそのまま提供すれば手っ取り早いけど、宇宙には不干渉の法則というのがあって、それはまだ許されない。地球人が自分たちで科学を発展させていくことが重要なんだ。そのためにこの研究所がある」

 「え?ここは鉄道研究所なんでしょ?」

 「まあね。でも博士たちの専門は鉄道ではないよ。博士が言った通り、原子力だ。ここからはまた博士に任せよう」

 

 博士は何枚か図を用意してきた。

 「私は元々原子力発電の研究をしていたんだが、そもそも原子力発電の仕組みなんてあまり知られていないようだ。これは新しい技術のようで基本は古い。火力発電というものがあって、石炭や重油を燃やして蒸気を加熱して、その圧力で発電のタービンを回す。原子力発電というのは重油を燃やす代わりにウランの核分裂エネルギーを利用して蒸気を加熱してるんだよ。こんな風にね」

 

図 エネ百科より

 

 「ここで問題となるのがウランの核分裂で発生する放射能だ。原子炉は完全に密閉された上、厚いコンクリートの建屋に囲まれているが、それでも万全ではないことがチェルノブイリや福島の事故で判明した。そこで我々は核分裂ではない核融合のエネルギーを利用しようと研究を始めたんだ。まずウランの核分裂というのはこんな感じだ」

 

図 伊達の物理より

 

 「核分裂生成物というのが放射性ヨウ素や放射性セシウムだ。原子炉から放射能が漏れてしまうとガンマ線や中性子と共にヨウ素やセシウムが重大な健康被害を引き起こす。さらにプルトニウムというものが生成されるが、これは半分が無害になる半減期というのが24,000年と桁違いに長い上に核爆弾の原料になるから地下深くに埋めるしかない。その埋める場所もまだ出来上がってはいないんだ。それに対して太陽の核融合はこんな感じだ」

 

図 核融合へのとびら/核融合科学研究所より

 

 「簡単に言えば、4つの水素原子から1つのヘリウム原子が出来上がって、質量が軽くなった分がエネルギーに変わるという訳だ」

 

図 学研教室より

 

 「ところがこの核融合を地球上で起こそうとすると大変で、まずは海水を使っての実用化には漕ぎ着けた」

 

図 量子科学技術研究機構より

 

 「ところが原料にする重水素は海水中に0.015%しか存在せず、三重水素(トリチウム)に至っては自然界にはほとんど存在しないため別の方法で作り出すしかない。さらに1000万℃の高温反応を閉じ込める装置が難しく、一時は諦めかけたところをリチウム6の分解でトリチウムを作り出し、フリーベガラス減速材兼冷却材による核融合炉の開発で実用化に成功したのだ」

 「また話が難しくなってるよ、博士」

 ルパが笑う。

 「あ、いかんいかん、つい普段の癖でして。大事なのはここからで、最新の4H/TSCと呼ばれる核融合では軽水素、つまり普通の水あるいは水素ガスを使ってヘリウム3が合成されるため原料が簡単に無限に手に入ると言っていい。そして従来の核融合で発生する放射性物質高速中性子の代わりに陽子が発生するので、放射能汚染の心配が全くないのだ。この夢のような技術は近いうちに家庭用核融合炉発電機として提供されるだろう」

図 PR TIMESより

 健斗は何だかワクワクしてきた。素人目にも凄い技術なのが分かる。

 「我々はそれを乗り物に利用しようとしているんだ。それが新しい蒸気機関車、ボイラーを石炭で加熱するのではなく、軽水素核融合炉で加熱する。表向きは昔どおり蒸気圧でシリンダを介して車輪を動かすが、本当の動力は蒸気タービンなのだよ。上に飾ってあるSLが実はその新しい蒸気機関車なのだ。飛行機がシリンダでプロペラを回していた時代からジェットタービンが発明されて飛躍的に速度があがっただろ、それと同じ事をしようとしている」

 それで鉄道研究所かと健斗は思った。

 「うん、よくここまで出来たよ。これで次の段階に進める」

 ルパが言った。

 「まだ次があるの?」

 「あるさ。次元というとキミにはまた難しい、いやキミだけじゃなくて人間には難しい話になるけど、この世界が3次元と呼ばれているのは聞いた事あるだろ?本当はこの世界には4次元も一緒になっていて、そうだな、例えばキミの心とかが4次元の世界だ。あとそう幽霊なんかも4次元に存在するかな。とにかく見えないけれどもちゃんとあるんだ。そしてそれぞれの次元で使えるエネルギーがあって、電気というのが3次元のエネルギーなのさ。3次元と4次元はセットになっているから4次元のエネルギーも使える。それを磁力といって、電気のあるところに磁力もあるし、地球は磁力を提供しているから人間が上手くそれを使えればフリーエネルギーって呼ばれるものになる。磁力を使ったのがモーターで、もう少し進めたのがリニアモーターカーという乗り物さ。だけど、キミたちはこれからさらに上の5次元の世界へ移る予定なんだ。それは初めてのことではなくて、アトランティスは5次元の世界だったんだよ。5次元の世界のエネルギーは引力、キミたち人間が重力と呼ぶものだ。その引力を制御すれば浮遊することができるし、宇宙空間を自在に移動できる。ケント、キミもここで引力制御に参加するんだよ」

 「そんな、僕はまだ中学生だよ」

 健斗は尻込みする。

 「大丈夫、みんなが未知のことに取り組むんだ。従来の科学知識は役に立たない。そうだな、ヒントを上げておこうか、アトランティスでは水晶を使っていたんだよ」

 

 

5

 

 ルパはボーちゃんの姿に戻り、3人はミーティングルームを出た。

 「博士、ルパの言う事は理論的には可能なの?」

 健斗は訊ねてみた。

 「うむ、昔からUFOが実在するとしたらどうやって飛行しているのかという仮説議論があって、人類の知らない反重力装置を使っているのだろうという説が有力だったな。ルパ様がいらっしゃるということはUFOというものが実際にあるということ。ならば取り組むしかないだろう。実現の可能性が高いのは空間駆動推進というもので、強力な磁場によって空間に歪みを作り、それを推進力にしようというものだ。理論的には飛翔体が慣性力を受けないのでまさにUFOのような飛び方が出来るが、実現するには直径5メートルの空間歪みに800億テスラの磁場が必要で、それは1秒間に世界の総発電量の3倍のエネルギーに相当する。今のところアインシュタインの相対性理論により唯一、反物質の対消滅エネルギーなら可能とされているが、1秒間に27ミリグラムの反物質が必要で、それは到底作り出せる量ではないのだ」

 「うーん、ルパの言う通り、従来の技術では無理だということは分かったよ」

 博士は研究所の中を一通り案内してくれた。今取り組んでいるのは軽水素核融合炉のエネルギー効率アップだそうだ。健斗はふと1人の研究者が机に水晶を置いてあるのを見つけた。

 「ねえ博士、僕が入り口のセンサーに引っ掛かった時、水晶のせいだと言ってたよね?」

 「ああ、そうだと思う。水晶はエネルギーを増幅する性質があるのだ」

 「研究所のみんなも水晶を持ってるの?」

 「全員持っているよ。それが選ばれた者の証だからね」

 「ちょっと数分でいいから、みんなをさっきのミーティングルームに集めてくれない?水晶を持ってね」

 健斗は研究者たちの持つ水晶を全部テーブルに置いてもらった。

 「しばらくこの水晶たちを僕に預けてくれませんか?傷付けたりはしないから」

 そうお願いして、研究者たちには元の持ち場に戻ってもらった。

 「何をするつもりだい?」

 博士が健斗に訊ねる。

 「ルパが水晶が鍵だってヒントをくれたじゃない。ちょっとよく観察してみたいんだ」

 

 水晶は全部で13本あった。全部がほぼ同じ大きさと形のポイントというやつで、根元にはローマ数字らしい記号がⅠ~XⅢまで刻まれている。よく見ると底面は綺麗に凹面に磨かれていて、その周囲に突起と窪みがいくつかある。それらは位置も形も全てが微妙に違っている。健斗は自分の13番水晶と1番水晶を両手に持って、突起と窪みを慎重に合わせていってみた。するとある突起と窪みが寸分の隙間なくピタリと嵌ることが分かった。

 「博士、ちょっとこれ持っていてくれない?」

 健斗は1番と13番水晶をくっつけた状態で博士に持ってもらった。そこに2番水晶を慎重にあてがってみると、やはりある突起と窪みがピタリと嵌った。落としてはいけないのでテーブルに乗せた状態で3つの水晶を博士に固定してもらい、3番水晶をつなげる。それを11番まで繰り返すと最後は12番水晶がピタリと収まる隙間が残った。組み上がった水晶ポイントたちはそれぞれポイントが外側を向いて星型を形成している。

 「ルパを呼んでくれない?」

 部屋に入ってきた白鳥のボーちゃんは部屋の鍵がロックされるとルパの姿になった。

 「ここまでやってみた。最後の水晶を嵌める前に、中央の空間にひょっとしたら何か秘密があるんじゃないかと思ってさ」

 健斗は興奮した口調でルパに報告した。

 「こいつは驚いたな、こんな短時間でここまでやるとは。そう、キミの予想する通り、この星型水晶は中心にエネルギー体を入れて使うんだ。水晶は根元から入ったエネルギーを増幅してポイントから放出するんだけど、この宇宙の数字である13スターポイントは超共鳴を起こす事が出来て、エネルギーを水晶単体の数百倍に増幅することが出来るんだよ。まあ何かの鉱物結晶を入れて使うんだけど、そうだな、試しにこれを1つ貸してあげるよ」

 そういってルパは球体に磨かれた緑や青に光る石を健斗に渡した。

 「まず一度スターポイントを完成させて、真ん中から二つに割るようにしてごらん。そうするとその石がちょうど中に納まるから」

 健斗が言われた通りにすると、水晶のスターポイントはフワリと宙に浮くではないか!

 「それはラブラドライトと呼ばれる宇宙石さ。地球産ではなくて、デネブで作ったものだから、素粒子の中の質量因子であるヒッグス粒子を取り除いてある。

図 名古屋大学 素粒子宇宙起源研究所より

 

 「試しに自分の体が浮くように念じてごらん」

 健斗は夢で感じたように自分の体が空気のように軽くなるイメージを描いた。すると実際に健斗の体が浮き上がったのだ。

 「え?え?、本当に浮いてる!」

 「そのラブラドライトは心のイメージを受け取って現象化できるのさ。次は部屋の物全てが浮き上がるイメージを持ってごらん」

 ルパの言う通りにすると、ルパや博士やテーブルや椅子がみんな浮き上がった。

 「凄い!凄い!」

 「これが僕らが使う反重力の原理みたいなものさ。じゃあ音を立てないようにそっと部屋を元に戻して」

 再び重力を感じると、ルパが補足する。

 「例えば乗り物にこのラブラドライトとスターポイントクリスタルを乗せて、飛ぶイメージを描けば自在に飛行できるんだ」

 「じゃあこれを使えば宇宙空間を自在に移動するっていうルパの課題はクリアじゃないか」

 「まあそうなるけど、そうはいかない。そのラブラドライトは地球の物ではないから、まだキミたちが自由に使う許可は下りていない。それとスターポイントクリスタルもアトランティス時代の教材みたいなものだから、宇宙空間を自在に移動するには全然パワーが足りないよ」

 健斗は何だかがっかりした。折角頑張ったのに振り出しに戻った気分だ。

 「キミは何でも急いで答えを出そうとするけど、大事なのは答えだけじゃなくて、そこに至る体験なんだよ、ケント。研究所をこの島に建ててもらったことにも意味がある。空中浮遊が実際に出来ることは体験した訳だから、またみんなで知恵を出し合ってごらん」

 

 

6

 

 翌日から博士を中心に問題点を整理して解決に向けて全員で話し合った。研究所のさらに下部には加工施設があって、考案した装置などを作っているが、それらはコンピュータ制御されたヒト型ロボットが行っているので指示を与えておけば無人で稼動している。健斗は未来の工場を見ている気がしたが、中国ではかなり普及しているらしい。

 「宇宙旅行を実現するに際しての課題は、浮遊や高速移動だけではなくて、乗り物の密閉性や耐圧性、耐熱性、さらには我々が長期居住するための空気、水、食料の貯蔵などが上げられる。そう考えるとゴールは遥かに先だ」

 博士がホワイトボードに課題を書き出して説明する。

 「どんなに空想的でも構わないから、自由に意見を出してもらいたい」

 「既に人類は月面に立っている訳ですから、数週間の宇宙滞在は実績がありますよね」

 「ふむ、かつてのアポロ計画は最近になって実際に行われたものかどうかが疑問視されている。というのも地球の電離層を抜けるのに人体が耐えられるかどうか分からないのだ。人工衛星での数ヶ月単位の長期滞在は行われていると信じたいがね。そうすると空気、水、食料については既存技術である程度は可能という訳だ」

 「原子力潜水艦では水や空気を艦内で作り出して、ほぼ永久に潜水可能だと聞いています。食料については補給が必要なようですが」

 「あれは海水を分解して水と空気を作るシステムだね。宇宙空間では原料となる海水がないから使えないが、例えば地球のように水の惑星があって、そこで補給するようなことは可能だろう」

 「SF映画では空間の重力歪みをショートカットするワープ航行が定番ですね。あと何年、何十年にも渡る宇宙移動ではカプセル睡眠とか」

 「ワープ航行の現実性に関してはともかく、空間歪みについては研究がなされていて、私はそれが一番実現の可能性があるのではないかと考えている。ただそのためには非現実的な膨大なエネルギーが必要なのだがね」

 「我々はエネルギー技術の専門集団ではないですか。そこに焦点を絞ってみましょうよ」

 「これまでは発電にしろ動力にしろ、核融合のエネルギーを蒸気圧を介して利用する検討をしてきて、今もその効率アップを課題にしていますが、蒸気圧に縛られない方がいいと思います。核融合そのもののエネルギーを余すことなく活用できれば素晴らしいですよね」

 「それは分かっているが、どう活用するかが見い出せていない。100万℃の熱エネルギーに耐える物質などないしな」

 健斗は聞いていて欠伸が出そうだったが、ふとルパの言葉を思い出していた。

 「ねえ、みんなが水晶を持っているのと、この島に研究所があることって何か関係があるんじゃない?」

 「ふむ、今わかっているのは島の地下は結構海流で侵食されていて部分的に網の目になっていることだ。日本近海の海底にはレアメタルのような希少元素もあるから、将来的にそれらの利用を考えれば地下の海中トンネルは深海探査艇などに便利だな。そろそろ地質探査を行ってみるのもいいかもしれない」

 

 健斗は漁師の家の玄関先に置いてある黒くて丸い石が目に付いた。それはずっとそこにあった筈だがこれまでは全然気にも留めなかった物だ。ルパのラブラドライトを見て以来、丸い石が気になりだしたのだ。

 「おじさん、この石は何?」

 「ああ、娘夫婦が何処かでお土産に買ってきたものだ。黒くて気味悪いが何だか魔除けとかになるらしい」

 「これ僕にちょっと貸してくれないかな?」 

 石はちょうどラブラドライトと同じような大きさだ。

 「そんなもんで良けりゃくれてやるよ」

 

 健斗は黒い石を研究所に持っていった。まず博士に見せたが、博士はチンプンカンプンらしい。仕方ないのでルパに聞いた。

 「面白いもの手に入れたじゃないか。それはトルマリンといって電気を発生するよ」

 「スターポイント水晶に入れたら何か起きるかな」

 「フフ、当然さ。ただし慎重にやらないと感電死するからね」

 健斗は絶縁体というゴムの手袋をして、展示されたSLの中でスターポイント水晶にトルマリンを入れてみた。気のせいかSLが薄く輝いたように見える。博士はルパに言われて磁力測定器を手にしていた。SLに向けると測定器の針は完全に振り切ってしまう。白鳥のボーちゃんはクワックワッと博士にミーティングルームに戻るように促した。

 「何が起きたか分かるかい?博士」

 「とてつもない磁力の膜がSLの周囲に形成されてましたな」

 「うん、僕たちが電磁シールドと呼ぶものさ。地球の大気圏も電離層の膜に覆われているから質量を持つ粒子は基本的に跳ね返されて大気圏に入ることが出来ない。つまりは強力な保護膜という訳さ。これがあれば面白いことが出来るよ」

 

 SLは核融合炉と蒸気タービンを備えた状態だ。展示室の床はそのままエレベーターになっていて、地下の加工施設よりもさらに下の格納庫へと降ろされた。そこには列車の旅客車両が数両並べられていた。SLと旅客車両が連結されるとルパと博士と健斗は客車に乗り込んだ。SLの操舵室には操作をインプットされたヒト型ロボットが備えられた。

 「さあ、軽く水中散歩と洒落込もうじゃないか」

 床に引かれたレールはトンネルへと続いている。核融合炉が稼動すると蒸気機関車はゆっくりと車輪を回してトンネルへと進んだ。

 「ケント、トルマリン入りのスターポイントを解放して」

 スターポイントはケースに入れて絶縁体のシートで覆われていた。健斗がその覆いを取ると蒸気機関車は電磁シールドに包まれる。

 「原理としては金属で作られた列車が強く帯電して磁力を発生する。外側に触れると感電してしまうけど、客車は内装が絶縁体の木材だから安全さ。これで海中に出ても水は入ってこないし、水圧にも耐えられる」

 トンネルを進むと岩の扉が開き、機関車がその先に進むと閉じた。そして前方の扉が開くと海水が流れ込んできて海の中の状態になった。

 「ここは水深100メートルの海中だ。さあタービン駆動に切り替えて出発するよ」

 ロボットに無線で指示するとタービンが勢い良く稼動し、機関車は弾かれたように海の中へと放たれた。

 

 そこは素晴らしい世界だ。地球は70%が海に覆われながら、人類にとって海はほとんど未知の世界なのだ。弱い陽射しにキラキラ光るブルーの景色、岩には海藻が揺らめき、大小様々な魚たちが自由に泳ぎ回る。

 「わあ!水族館の中に居るみたいだ」

 健斗は窓の景色に目を奪われっ放しだ。蒸気機関車は海底を目指して水深を下げていく。普通なら水圧で潰されてしまうが電磁シールドの保護は絶大だ。水深500メートルになると辺りは暗くなり機関車のライトが神秘的な世界を映し出す。博士はバーチャルゴーグルを付けてロボットに繋がり、ロボットを自分の手足のように扱ってSLの操縦を楽しんでいる。

 「あれ?何か大きな物が居るよ」

 健斗が窓の外にかすかな陰を発見した。潜水艦だ!その直後、機関車にカーンというハンマーで叩くような音が響いた。

 「ソナーを撃ってきたね。これからが面白いよ。人間は未知の物に遭遇すると攻撃的になる」

 「あ!何か発射した!」

 「魚雷さ。こちらが何かも確かめずに撃ってきただろう?だから人間は危険と言われるのさ。あれは多分爆発しないと思う。例え爆発しても電磁シールドが守っているから大丈夫だけどね。だが厄介な事になる前に退散した方がいいと思うよ、博士全速前進だ」

 博士は慌ててタービンの出力を全開にした。蒸気機関車は見る間に速度を上げ、80ノットを超えた。

 「もう魚雷に追い付かれることはないさ。でも魚雷より速い物が存在することで、向こうはパニックだろうけどね」

 

 こうしてハプニングはあったが、健斗たちは電磁シールドの効果を確かめながら海中旅行を楽しんだ。

 

 

7

 

 「地質調査の結果、どうやらこの島は石英で出来ているらしいことが分かった。ということは地下には水晶が形成されている可能性があることから、水中ドローンで島の下を走る海中洞窟を探索している。仮にというか、可能性が高いのが巨大水晶の群生で、もしそれを利用できれば我々の目指す空間駆動推進の実現に近づけるかもしれない。ただ水晶群生地はおそらく人間の耐えることが難しい高温高圧の環境で、しかも海中と来ている。従ってまずは探索と並行してヒト型ロボットの増産を行いたいと思う。ロボットにロボットを作らせることは可能かな?」

 「コンピュータに部品や全体の設計図と組み立て手順を組み込めば人間が組み立てるよりも正確に素早く出来上がるでしょう」

 「よし、その方向で行こう。手の空いているメンバーは空間駆動推進を前提とした新しいSLの設計に従事してもらいたい」

 博士が指示を下した。健斗は新しく作るのにSLに拘るところが少しおかしかった。いずれにしろしばらくは健斗の出る幕ではなさそうだ。ちょうど夏休みも終わりに近いし、普段の生活に戻ることにしよう。

 こうして健斗の不思議な夏休みは幕を閉じた。

 

終わり