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Hanakoの怪談ブログ

身近な怪談話を集めました。

私には決して走らない、いかなる時も慌てない、I子という従姉がいる。

彼女は遅刻の常習犯だが、どれだけ遅れてきても、決して走らない。待ち合わせが屋外なら日傘をさし、優雅に歩いてくる。

「遅れちゃったわ、ごめんなさいね。」一応謝りはするが、気にしていないことは明白だ。

万事この調子なので、子どものころから、彼女が慌てたり、走ったりするところを、見たことがない。

そんなI子が、一度だけ、ひどく慌てて、私を連れて街中を走り回ったことがある。

これはI子の体験談でもあり、私の体験談でもある。

 

I 子と私の共通の趣味は、美術鑑賞だ。

I子は私がまだ学生の頃、展覧会や美術館の特別展によく誘ってくれた。

チケットはI子もちで、お昼までご馳走になるのが常だったため、I 子に誘われれば、たとえ彼女が遅刻の常習犯でも、喜んで出かけたものだ。

 

ある日のこと。神戸の某百貨店催物会場で、イギリスのアンティーク食器や陶器の展示会があり、I子と一緒に見に行くことになった。

I 子はじっくり鑑賞するタイプだが、私は気に入ったもの以外あまりじっくり見るタイプではないので、会場がどこであれ、その中盤あたりで、もし座るところがあればそこで私がI子を待つのが暗黙のルールになっていた。

その日もいつものように先に半分ほど見終えた私は、近くのベンチに腰掛けて、I子が追いつくのを待っていた。ほどなくI子が追いついて、ベンチに腰を下ろした。私に追いつくと、一旦彼女も休憩するので、いつものように、ひそひそと展示物について話していた。彼女は、華やかな宮廷文化が大好きなので、展示物にまつわる逸話を私に話してくれた。

 

当時はそこまで宮廷文化に興味がなかったため、ふんふん、とI子の話を聞き流している時だった。

気が付くと、彼女が話すのをやめていた。(あっ、テキトーに聞いてたの、バレた?)と思った私は、

「ごめんごめん!なんやっけ?」と彼女に向きなおろうとした。

その時、「あかん…」とつぶやいて、I子がいきなり立ち上がった。

「あかん、出るで!」え、なにが、と言おうとした私の腕を引っ張って、彼女が出口へ小走りで向かっていく。

あのI子が、慌てている。しかも静かな会場で、警備員の不審な目も気にせず、私をせかしながら小走りしている。もしできるなら、思い切り、全速力で出口まで行きたい、そのくらい切羽詰まっているようだった。

 

飛び出すように出口から出る。

「ちょっと、どうしたん?まだ半分展示品見てへんで?どうす…」「あかん!まだやわ!!」

またもや私の手を引いて、今度はエスカレーターを、今度こそ人目も気にせず全速力で駆け降りる。

7階の催物会場から一気に1階まで駆け降りると、急いで外へ飛び出す。

「ちょっと、もうええかげんにしてよ、なんな…」「あかん!影が…、まだあかん!」

そういって、また駆け出す。今度は商店街に入る。その間ずっと、あかん、影が…、とブツブツ繰り返しながら、とにかく何かから逃れるように、走るのを止めない。

突然、思い出したように、「そうや!地下のあのカフェや!」そういうと、また全速力で、地下の入り口まで走り出す。

 

地下に続く階段を駆け下りて少し進むと、ようやく彼女のいう、あのカフェ、があった。照明がこれでもか!とついている、ひと際明るいカフェ。彼女は文字通りそのカフェに飛び込み、慌てて席に座ると、開口一番、店員さんに「お水ください!」と叫んだ。ほかのお客さんの痛い視線も、店員さんも不審顔も意に介さず、店員さんからひったくるように水を奪い取ると、ごくごく飲み干す。かくいう私も、息が整うのに数分かかった。

とてもI子は注文ができるような状況ではなかったので、とりあえず私がコーヒーを二人分注文する。

I子が落ち着くのを待って、一体何が起こったのか、聞いた。

 

(後半へ続く)