夜中に聞きたくない音というのがある。
例えば、夏場であれば風鈴の音。風や雷の音などの自然現象の音も、聞こえる音の大きさや種類にもよるだろうが、夜中に聞いてあまり気持ちのいい音ではないだろう。
私にも夜中に聞きたくない音がある。
ゴムボールをつく音だ。以前、夜中に聞いたことがあり、とても気味が悪かった。
今日はその時の話をしようと思う。
数年前のことだ。夜中、母と同時に目を覚ました。
時計を見ると、夜中の2時過ぎ。
突然母が、「あれ、何の音?」と私に聞いた。
えっ、なんのこと、と聞き返そうとした時、私の耳にもその音が聞こえてきた。
ポーン、ポーンと、ゴムボールをつく音だ。
「どこかの子が遊んでのやろか」
「さすがに子どもじゃないやろ」
近所に少しヤンチャな若い男女がたむろする場所があり、彼らがふざけてボール遊びでもしているのかと思ったが、ボールをつく音以外は何も聞こえない。
なんやろうねと思いながら、再び寝ようとした時、音がこちらに近づいてきていることに気がついた。
さすがにちょっと気味が悪い。
音はどんどん近づいてくる。
家の前の道に入ってきた。
ポーン、ポーン、ポーン、ポーン
規則正しい音がどんどん近づいてくる。
その間、私と母は一言も発さず、黙って聞き耳を立てていた。何故か少し緊張しながら。
ポーン、ポーン、ポーン、ピタッ
急に音が止んだ。ちょうど私の家の前だ。
その時、母と私の頭には、同じイメージが浮かんでいた。
ボールをついていた「誰か」が、私の家の前でボールを手に、寝室のある二階の窓を見つめながら佇んでいる。
そのあとしばらく、私と母は動くことができず、緊張して耳をすましたままだったが、再びボールをつく音が聞こえることはなかった。
ボールをついていたのは、人だったのか、あるいは人ならざる者だったのかは分からないが、今回ばかりは人ならざる者の仕業だったらいいな、と思っている。
考えてみてほしい。
ボールのポーンという音の長さから、子どもの身長ではないと思われるので、ボールをついていたのは、おそらく大人。
大の大人が、夜中にボールをつきながら、家の前までやってきて、そのボールを手に寝室の窓を見上げる様子を。
物の怪の類であれば、理由が不可解であっても、そういうものかとなんとか納得はいく。
しかし、それが人だった場合、いったい何の目的で夜中にボールをつきながら人様の家の前までやってきて窓を見上げて佇むのか、全くわからない。
それこそ恐怖だ。
これを書きながら、今日またボールの音が聞こえたらどうしよう、と少し思っている。