佐野元春 & THE COYOTE BANDの新作、『今、何処(WHERE ARE YOU NOW)』を聴いています。発売日の前日7月5日に届いて、現在、部屋で五回、車の中で二回聴いたところです。

発売前より、元春が《ヤバいアルバム!》と発言していた通り、音が鳴った瞬間から、まるでゾーンに入ったかの無敵感。《どう?ヤバいでしょう?》という元春の笑みが見えるようです。なるほど~これはこれは、またとんでもない仕事をされちゃって、と大きく頷いてしまいます。
アルバム『COYOTE』の頃は成熟さよりも初期衝動の荒々しさ、ガレージバンドのようなヤンチャさが味だったのに、今作の音の貫禄はもう、HOBO KING BANDに引けを取らないんじゃないか?って思っちゃう。結成15年でこんなにも成熟した音を作るようになったのか、と静かに感動しました。
曲順がホント素晴らしい。冒頭の4曲「さよならメランコリア」「銀の月」「クロエ」「植民地の夜」まで、絶対的説得力を持った楽曲を畳み掛けてきて、おいおい凄い曲ばっかりじゃん!と圧倒されます。
最初の「さよならメランコリア」がいきなりシン・佐野元春の世界。他のミュージシャンはこんな曲を作ろうなんて発想すらしないと思う。「銀の月」はムーグシンセの音がご機嫌な先行シングル。次シングルカット予定の「クロエ」がまたとびきり美しい曲。《時はため息の中に止まる》のフレーズが素敵過ぎて頭から離れない。「植民地の夜」はメロディも詞も大好き。タイトル最高。イントロのギターを聴くとキタキター!って感じ。なんという多幸感か。
「斜陽」はある種の諦感が漂うナンバー。ここまでの曲の歌詞に《魂》が何度も登場するのも特徴的です。「冬の雑踏」は一行目からアルバムタイトルにリンクした歌詞。元春が、今は何処に?と気にかける《あの人》とは誰のことなんでしょうね。アル・クーパーの曲を思い出させるロマンチックなアレンジが心地好い。
ここからアルバム後半。重たいベース音から始まる「エデンの海」はご機嫌なロックナンバーで、アルバム的には最高のアクセント。あえて確信犯で某曲のフレーズを借用したと思うけど、元春がまたパクりとか言われたらイヤだな。どうしてこれをわざわざやったのか、意図を聞いてみたい。《私たちの幸運はきっと永遠には続かない》なんてフレーズはグッとくるんだけどな。
「君の宙」と「水のように」の2曲は、前者はアレンジで、後者は歌詞で、元春の過去の作品をオマージュしています。この2曲を一緒に並べたのも確信犯でしょう(歌詞の《どんな○○があっても》って言い回しが2曲に共通しています)。シンプルなピアノバラッドから、ムーグシンセが厳かに唸り「水のように」へ雪崩れ込む瞬間がスリリング。これはライブで盛り上がるだろうな。
「永遠のコメディ」こそは、このアルバムのヘソとも言える重要曲。『COYOTE』の「コヨーテ海へ」のように、『ZOOEY』の「詩人の恋」のように、 佐野元春が佐野元春たりうる渾身の一曲だと思う。「永遠のコメディ」を聴けただけでもこのCDを買った甲斐があります。
「大人のくせに」でのバンド演奏は本作のベストといえる名演だと思う。「新しい雨」(アルバム『マニジュ』収録)にも通じる、近年の元春お得意のシンプルなロックで、元春も《イェー!》《チュッ!チュッ!》《カモン!》とノリノリ。
そして続く「明日の誓い」は、2019年のライブハウスツアーで新曲として披露された曲。浜松の窓枠で歌ってくれたのをよく覚えています。
「明日の誓い」を初めて聴いた時は、ひねりもないし、やけに真っ当なことを歌ってんな、って印象でしたが、アルバムの流れで聴くと、今までの切ないこともやりきれないことも、今後に希望が持てそうな、そんな救いを感じさせてくれる曲に響いて、いいなぁーーって素直に思えました。これでアルバムを締めるのはいいよ。
そしてそして本当のラスト曲「今、何処」。これは一曲目の「OPENING」に対しての、クロージングのジングルナンバー。アルバムはトータルで、頭から終わりまでちゃんと流れがあって繋がってますよってメッセージかと。
全14曲。元春の、こんなにも自信に溢れた無敵感を放つアルバムって、ひょっとしたら『SWEET 16』以来じゃないか!って、あれを聴いた時の衝撃に似ているとフッと思った。既視感がブワッと来ました。
既視感といえば、僕はコヨーテバンドの4作目『マニジュ』を聴いた時、すごく得たいの知れない気持ち悪さ(誉め言葉)を感じたのですが、はて、この気持ち悪さって既視感あるなぁ、と考えたら、おお『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』だ、と思ったんですね。
『ナポレオンフィッシュ~』と『マニジュ』の醸し出す《得たいの知れなさ》《気持ち悪さ》は、僕の中では通じるものがあって、
で、『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』の後年、傑作『SWEET16』が生まれたように、怪作『マニジュ』を経過してこの『今、何処』が生まれたってのは、なんというか、作られるべくして出来た!って感じがすごくしました。
『マニジュ』の掴み所のなさは、今作『今、何処』にも引き継がれていて、誰もが一回聴いたくらいでは把握しきれなくて、きっと何度も聴いてしまうことでしょう。
何度目かのキャリアのピークだ、とすでにアルバムの評判が聞こえてきていますが、本当に佐野元春にまたピークが来るなんて、それもここまでの作品なんて、信じてはいたけど、こんなことがあるんだって、驚きましたよ。この年齢で本当に盛り返せるんだ、スゲーよ。ヤバいよ。
僕が生まれた時にはすでにビートルズは解散してて、リアルタイムでは間に合わなかったけれど、佐野元春と同時代に生きられて、佐野元春の作る音楽をリアルタイムで聴いてこられた。このことだけは大げさな言い方だけど誇りに思えます。それくらい『今、何処(WHERE ARE YOU NOW)』にはヤラレタって思ったのです。
そう、ぜんぜん話が変わりますが、吉田拓郎の新譜『ahー面白かった』は通常盤(3520円)を買うと、クレジットにないシークレットトラックの10曲目が聴けるそうな。
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僕はDVD付の初回盤を購入したけど、そんなの聞いたら通常盤欲しくなるじゃんか。レンタルでチェックできないかな。
マシス




