先日、中古レコード屋を覗いていたら、トッド・ラングレンの『ニアリー・ヒューマン』と『セカンド・ウインド』が棚にあって、どっちも安かったので一緒に買ってしまいました。

『ニアリー・ヒューマン』はトッドの新譜として僕が初めて聴いたアルバムで、その昔、レンタル屋で借りてダビングして、何回も聴きました。すごく懐かしい。聴いてからおよそ30年越しにCDを手に入れたことになります。

トッド・ラングレンといえば、《ポップス完全主義者》《ひとり多重録音の鬼才》《音楽オタク》というイメージがありますが、この『ニアリー・ヒューマン』はスタジオにミュージシャンを集め、なんとスタジオライブの生演奏を一発録りして作ったってことで、トッドにあまり詳しくない僕もヘェーって思ったものです。当時の音楽雑誌でも話題になってたのを覚えてます。

久しぶりに聴いたら、これがマァあまりに良くて、参りました。初めて聴いた頃の感動を上回る感動が来た。いやいや、僕は『ニアリー・ヒューマン』がトッド作品の中で一番好きかもしれません(トッドのアルバム全部は聴いてないですけど)。

トッドの過去の傑作『ハロー・イッツ・ミー』や『ミンクホロウの世捨て人』を聴くと、その音楽愛にすごく圧を感じるというか、音の構築とかよくわからないなりにも、ヤヤ息が詰まりそうな印象も受けます(その密室感がたまらないのですが)。

その点『ニアリー・ヒューマン』は、スタジオライブをせーので録音したことで、ノリがとても有機的で心地好い。耳当たりが軽いのです。ようは、トッドがワンマンでやってたことをミュージシャン大勢に指示してやらせてんですけど、構築美とグルーヴが奇跡のようなバランスをとってる。

普通に聴けば、トッド・ラングレン印のご機嫌なポップス。でも、これってワンテイク録音でオーバーダビングとか一切してないんだよな、ということを念頭に聴くと、たった一曲に何人ミュージシャン使ってんだ?って音が鳴ってて、驚きます。どんだけ綿密な準備をしたことか。ド変態の所行ですよ。

で、この『セカンド・ウインド』は『ニアリー・ヒューマン』の出来に満足したトッドが、再びワンテイク録音オーバーダブ皆無で作ったということで、いわばこの二枚は兄弟みたいなアルバムです。

そして前作と違って、スタジオライブから、今度はなんとお客さんを入れたホールで録音をしたそうで。そうか、今度はお客さんまで録音に付き合わせたかァ、おそらくはトッドが満足いくまで、同じ曲を何度も何度も聴かされたのだろうな、と思いました。

僕は『セカンド・ウインド』は今回初めて聴きました。そしていま繰り返し聴いてます。楽曲は『ニアリー・ヒューマン』の方がポップで人懐っこかったけど、『セカンド・ウインド』はよりソリッドで有機的なノリが格好良い。自分がこの録音に立ち会った客のつもりになって聴くと、最高じゃんって思う。スゲー楽しい。


余談ですが、お客さんの前で新曲を録音してアルバムを作った、と聞いて、僕はジョー・ジャクソンの『ビッグ・ワールド』ってアルバムをふと思い出しました。そちらも『セカンド・ウインド』同様に、客には音が完全に消えるまで拍手や発声を許さない、同じ曲をライブ形式で何度も何度も演奏して、完全なワンテイクを録る。

ド変態がここにもいます。『セカンド・ウインド』と『ビッグ・ワールド』はどっちが先に作られたんでしょうね。



自宅にて、録音した音源の素材を聴き返してます。ラフレシアのものと、マシスのものと両方を。録音は家族がいると遠慮してしまいますが、録った音はマメに聴いてチェックするようにしてます。ものぐさなので、油断してるとすぐほったらかしてしまう。でも、聴くのは好きです。録るのは疲れるけど。

トッド・ラングレンを聴いていても、自分の録音作業の参考には、当然全然なりません。なるわけない。あちらはド変態の所行です。それでも刺激だけはもらって、チマチマがんばってます。