中学二年生の時、僕が自分の意思で初めて《チケット取りたい》と思って行ったコンサートは、谷村新司でした。自分で、といっても親父に取ってもらったのですけど、当時は谷村新司に心底参っていた中学生だったのです。
いわゆる《シンガーソングライター》に憧れていた頃で、作詞作曲と歌を一人でやってる、ってのがとても格好良かった。歌謡曲の並ぶ歌番組を観ていて、その中で《作詞作曲 : 谷村新司》のクレジットがひときわ輝いて見えたものです。
自作自演の人の歌に憧れて、数々のシンガーソングライターを聴いていく中、アリスや谷村新司もしっかり聴いてきたくせに、その後、谷村新司にすごく苦手意識を持つようになりました。あたかも仮想敵の如く、谷村新司はイケてない、この真似はしちゃダメだ、と思ってしまった。コレは憧れの対象にしちゃいけない、と。
例えば、清水アキラの物真似に見られるような仰々しさ、歌詞の男女のネチネチとしたドラマだったり、クサいほど芝居がかった歌い方だったり、正直いろいろと鬱陶しく感じてしまって、敬遠してたのです。
どうも、谷村新司が好き、と公言するのは結構恥ずかしいことという風潮も、僕の周囲にずっとあったような気がする。今でもあるのか?おそらくはさだまさしファンをカミングアウトするよりも、谷村新司のソレを言う方がハードルが高いと思う。僕の勝手な思い込みかも知れませんが。アリスファンは堂々と言えるけど、谷村新司は言いにくいような?
とは言え、アリスの歌を例に取っても、僕は堀内孝雄の作曲より谷村新司の作る曲が圧倒的に好きでした。「つむじ風」「帰らざる日々」「涙の誓い」「フィーネ」「さらば青春の時」と、挙げればキリがない。鬱陶しく思っても、谷村新司の作る歌のドロッとした闇のようなモノに、ずっと惹かれていた気がします。堀内メロディのアリスナンバーも良いけど、堀内メロディは闇の成分が少ないのですね。
でも、谷村メロディでも堀内メロディでも、アリスの真骨頂はその闇だと思っています。どんな明るい歌でも底に闇が流れてる。その暗さがいい。
ここ数年、揺り返しが来たかのように、谷村新司のアルバムって、実はちゃんと聴いたことないよな、と興味を持つようになりました。CD屋の棚で見かける谷村新司のCDってベストばっかり(小椋佳も然り)。調べると、最近のソロアルバムは手軽に買えるけど、初期のアルバムは廃盤でネットで高値が付いてる状態。すぐに手に入らないと思うとかえって聴きたくなるモノです。
先日、ミニギターを買った静岡の楽曲屋の隣が中古CD屋で、そこに谷村新司のアルバムが300円~800円で並んでたのを見つけ、思わず鷲掴みにしてレジへ持ち込みました。
買ったのは三枚。いま少しずつ聴いています。

『EMBLEM』/谷村新司
僕が中学生の時に観たコンサート、オープニングナンバーが、このアルバムの一曲目「龍のエンブレム」でした。知らない歌だけど格好いい歌だなァと思ったっけ。ドラーゴン、ドラーゴン、フォエバー、のフレーズに、当時の記憶がマザマザと蘇って来ました。
A面がドラゴンサイド、B面がドリームサイドとなってて、それぞれぜんぜん違うタイプの曲が集められてます。特にドラゴンサイドの曲の粒の揃い方は圧倒的です。ドリームサイドも悪くないけど、ドラゴンサイドはあたかも「チャンピオン」が五曲入ってるかの如くテンションが高い。

『喝采』/谷村新司
シャンソンのアルバム、って言い切ってしまうにはちょっとスゴいアルバム。こういう音楽って、若い頃には分からなかったかも知れない。一曲一曲に込めた歌のエネルギーの熱量たるや、この仕事はスゴいですよ。贅沢にお金をかけた音がします。ここまですると歌が業のようです。えげつなくて感動します。大傑作。

『棘』/谷村新司
これは80年代後半か。男と女のドロドロ系を集めたアルバム。シングル「青春残酷物語」「夜顔」が収録されてます。タイトル曲の「棘」も《これぞ谷村新司》って歌でいい。でも『喝采』の後に聴くと、これすらも穏やかに感じます。
棚にはもっと並んでたのですけど、『棘』より古いアルバムだけ買ってきました。初期の『蜩』『黒い鷲』『引き潮』なんかも聴いてみたいのです。『喝采』がこんなに良いのなら、と期待してしまいます。
(『蜩』は後日入手しました)
いまアリスの武道館コンサートの生中継がWOWOWでやってたのを録画で観てたけど、このアリスには見事に闇はない気がします。近年の谷村新司のソロと同様に、笑顔で明るいステージ。ずっと、みんな元気でやってこうねーって呼び掛けて、終始その雰囲気で懐かしい歌を歌う。で、アリスの闇に共感してきたファンは闇歌を笑顔で合唱する。《やっぱりこの闇(歌)って美味しいよね》と光に照らされながら大勢で味わってる感じ。
谷村新司は70歳をすぎて、今も新作を作ってツアーやって、アリスの度重なる再結成の際もちゃんと新作を作ってくる。ただの金儲けなリバイバルじゃなくて、それはとてもエライことです。新しい歌のメッセージ感動するファンもきっといると思うけど、でも、そこにはやはりもう闇はないですね。長いことキャリアを重ねてきて、若い頃の闇の成分が時に濾過されてきた。
ずっと鬱陶しく思ってたところが、実はそれこそ好きだったのだ、と気づかされます。でも、いまの谷村新司にとっては闇よりも、希望を歌う方がきっとリアルなのでしょう。その意味では、谷村新司はとても正直なクリエイターなんだなと思います。

