「本質の研究」という参考書がある。
著者は高校生の数学教育では有名な長岡亮介氏。
私が高校生だった20年くらい前にはすでに大学への数学(研文書院の方)の執筆もしていたし、ラジオ講座の講師もやっていたのだけれど、いまでも一線で活躍している先生。
長岡氏のスタイルは一貫して「理解」を重視していて、そのためには「基礎(≠初歩)」をしっかりと身につける必要があるというもの。
将来理数系を目指す人(特に理学部とか)にはこのような考えを高校生のうちから身につける必要があると思うけれど、それ以外の人にはやや荷が重いか。
私はどちらかと言うと、膨大な記憶の中から理解が生まれてくるというスタンスなので、記憶や暗記に有利な若い世代は、とにかく片っ端から覚えてしまって、徐々に記憶の整理をしていけばいいと思っている。2次方程式の解の公式や三角関数の加法定理についても、たしかに導き出せる力があるに越したことはないが、そこで挫折してしまうことが多いふつうレベルの生徒には、やはり公式はそういうものだと覚えさせて、まずそれを使いまくることからはじめることにしている。(それに、試験会場でいちいち公式を導いていたら時間が足りない)
かといって、数学教育界の大先生に歯向かうつもりは全くなく、本当であればこうした理解を中心とした数学はやっていて楽しいし、本来数学を学ぶ意義はこうした理解のプロセスを鍛錬することにあるのではないかと思う。
この「本質の研究」は意欲的な、そしてまぁまぁ数学が得意な生徒が高校1年から2年の間に自習するのに向いている。2012年からの新課程版はまだ出ていないようなので、その話で行くといまの段階では高校2年生におすすめ、ということになる。
全体の構成は、章ごとにまず理論的な解説があり、それを具体的に使う問題が何問か用意されている。理論的な解説部分は厳密に、かつ他の分野との関連も加味して、必要と思われる(一緒に理解したほうが良いと思われる)知識については、先取りで紹介していたりもする。チャート式のような「(1)は(2)のヒント」のような暗記フレーズのようなものはあまり用意されておらず、ときどきアプローチの部分で「定石」という紹介をしている程度。解法辞典のような使い方には向いていない。
正直、この参考書は指導者こそが手にするべきものなのではないかと思う。
指導者は暗記中心の指導をするにせよ理解を中心の指導をするにせよ、どちらについてもその利点と欠点を知っておく必要があるし、そもそも理論部分に問題があると、暗記中心にするときにどこにポイントをおけばいいのかさえわからないのではないだろうか。高校の数学教師は大学の数学科を出ていることが普通だからそのへんはいいとしても、ちまたの学習塾のセンセイは高校の時に少し他の人より数学ができた程度の人もいるだろうし、せめて高校生の範囲だけでも長岡氏のいうところの本質の理解が必要なはず。自分が解けるということと、生徒に解けるようにさせるというのは全く別次元の話なのだから。
チャート式を持っている生徒がこの参考書を買ってプラスでやるには少し時間が必要で、ほとんどの(偏差値60くらいまでの生徒なら)その時間があるならチャート式を復習したほうが学校の成績は良くなるだろう。基礎レベルに不安があるなら、教科書を読みなおして、教科書の例と例題あたりを解いてからチャート式に戻るという方が同じ時間での到達点は高そうだ。
数学に興味があって、わりと時間をかけている、いわゆる趣味的に数学を学ぶことができる生徒には薦めるかもかもしれない。その時は、この参考書の問題をすべて解こうとするのではなく、理論部分だけを手を動かしながら理解して、問題部分はざっと目を通すだけにして、実際に解くのはチャート式に戻るようにする。そうすればそれほど時間もかからないし、チャート式の問題の見通しが良くなるはずだ。
ところで、本質の研究数学IAの冒頭「はじめに」の部分で、長岡氏が自分のお子さんが通っている学習塾の教え方を批判している部分があるのだが、これだけの数学教育の大家であっても、自分の子どもをそうした塾に通わせているという現実が、理想と現実のギャップの大きさを物語っているような気がしてならない。
著者は高校生の数学教育では有名な長岡亮介氏。
私が高校生だった20年くらい前にはすでに大学への数学(研文書院の方)の執筆もしていたし、ラジオ講座の講師もやっていたのだけれど、いまでも一線で活躍している先生。
長岡氏のスタイルは一貫して「理解」を重視していて、そのためには「基礎(≠初歩)」をしっかりと身につける必要があるというもの。
将来理数系を目指す人(特に理学部とか)にはこのような考えを高校生のうちから身につける必要があると思うけれど、それ以外の人にはやや荷が重いか。
私はどちらかと言うと、膨大な記憶の中から理解が生まれてくるというスタンスなので、記憶や暗記に有利な若い世代は、とにかく片っ端から覚えてしまって、徐々に記憶の整理をしていけばいいと思っている。2次方程式の解の公式や三角関数の加法定理についても、たしかに導き出せる力があるに越したことはないが、そこで挫折してしまうことが多いふつうレベルの生徒には、やはり公式はそういうものだと覚えさせて、まずそれを使いまくることからはじめることにしている。(それに、試験会場でいちいち公式を導いていたら時間が足りない)
かといって、数学教育界の大先生に歯向かうつもりは全くなく、本当であればこうした理解を中心とした数学はやっていて楽しいし、本来数学を学ぶ意義はこうした理解のプロセスを鍛錬することにあるのではないかと思う。
この「本質の研究」は意欲的な、そしてまぁまぁ数学が得意な生徒が高校1年から2年の間に自習するのに向いている。2012年からの新課程版はまだ出ていないようなので、その話で行くといまの段階では高校2年生におすすめ、ということになる。
全体の構成は、章ごとにまず理論的な解説があり、それを具体的に使う問題が何問か用意されている。理論的な解説部分は厳密に、かつ他の分野との関連も加味して、必要と思われる(一緒に理解したほうが良いと思われる)知識については、先取りで紹介していたりもする。チャート式のような「(1)は(2)のヒント」のような暗記フレーズのようなものはあまり用意されておらず、ときどきアプローチの部分で「定石」という紹介をしている程度。解法辞典のような使い方には向いていない。
正直、この参考書は指導者こそが手にするべきものなのではないかと思う。
指導者は暗記中心の指導をするにせよ理解を中心の指導をするにせよ、どちらについてもその利点と欠点を知っておく必要があるし、そもそも理論部分に問題があると、暗記中心にするときにどこにポイントをおけばいいのかさえわからないのではないだろうか。高校の数学教師は大学の数学科を出ていることが普通だからそのへんはいいとしても、ちまたの学習塾のセンセイは高校の時に少し他の人より数学ができた程度の人もいるだろうし、せめて高校生の範囲だけでも長岡氏のいうところの本質の理解が必要なはず。自分が解けるということと、生徒に解けるようにさせるというのは全く別次元の話なのだから。
チャート式を持っている生徒がこの参考書を買ってプラスでやるには少し時間が必要で、ほとんどの(偏差値60くらいまでの生徒なら)その時間があるならチャート式を復習したほうが学校の成績は良くなるだろう。基礎レベルに不安があるなら、教科書を読みなおして、教科書の例と例題あたりを解いてからチャート式に戻るという方が同じ時間での到達点は高そうだ。
数学に興味があって、わりと時間をかけている、いわゆる趣味的に数学を学ぶことができる生徒には薦めるかもかもしれない。その時は、この参考書の問題をすべて解こうとするのではなく、理論部分だけを手を動かしながら理解して、問題部分はざっと目を通すだけにして、実際に解くのはチャート式に戻るようにする。そうすればそれほど時間もかからないし、チャート式の問題の見通しが良くなるはずだ。
ところで、本質の研究数学IAの冒頭「はじめに」の部分で、長岡氏が自分のお子さんが通っている学習塾の教え方を批判している部分があるのだが、これだけの数学教育の大家であっても、自分の子どもをそうした塾に通わせているという現実が、理想と現実のギャップの大きさを物語っているような気がしてならない。
AD