「ニワトリはいつもハダシ」
最初に読んだのは、中学生の頃だったかな。
もう、潔いくらい何も意味がない、ナンセンス小説。
SF作家の壬生マコトがカンヅメにされているホテルの部屋に、殺し屋ファッションの男が窓から乗り込んでくる。しかも、肩にニワトリを乗せて。
銃をつきつけながら「ブツはどこだ?」と聞くところから話が動き出すのだけど。
この殺し屋ファッションの男、早口言葉を強要してきたりする。
「裏庭には2羽、庭には2羽、ニワトリがいる、はい!」
「え……うらにわにはにわにわには……」
んもう読んでいるこっちまで脳内で発音しちゃって、完全に持っていかれる。
で、最終的にそのブツっていうのが高級キクラゲだった、ということなんだけど。
通常のキクラゲの木耳(ムーアル)じゃなくて、高級な銀耳(インアル)。
で、へぇ…、キクラゲって木耳なんだ…っていうのが、なんか記憶に引っ掛かった。
その数十年後。
たまに行くアフリカ料理のお店で、年始に「お節に飽きたらコンゴ料理」って企画をやっていて、料理の中にキクラゲの煮込みがあった。
コンゴではキクラゲがよく食べられていて、リンガラ語でlitoi ya nzete(木の耳)って言うんだって大将が教えてくれて。
突如「ニワトリの木耳!」と思い出して、中国語でも木耳というから、共通するんだねっていう話をした。
離れた文化でも、あの形を見て「耳みたい」と思うのか?っておもしろいなと。
気になって、ちょっとAIと一緒に調べてみたら。
コンゴ民主共和国では、キクラゲ属(Auricularia)は野生の食用キノコとして地域住民に採取・利用されていて、その知識も伝統的なものとして継承されていることが、民族菌類学の調査で確認されているそうだ。
コンゴ民主共和国北東部のツォポ州で、6つの民族集団・160人を調査した研究で確認された「利用される野生キノコ」は73種で、そのうち68種が食用だったと。
そしてちゃんと、Auricularia cornea/Auricularia delicata というキクラゲ属が入っている。
この地域では木材を分解して育つ腐生性キノコがよく食べられていて、キクラゲ属はその中でもよく食べられ、味も好まれているキノコの一つだ、と。
近年中国などから入ってきた食材だったりする?ってちょっと思ったのだけど、そうではなく、森で採れるキノコについての在来の食文化の中にAuriculariaが入っているらしい。
litoi ya nzete(木の耳)というリンガラ語名も中国語と無関係に昔から存在したのか?までは、今回はわからなかったけど。
ただ、コンゴ共和国で行われた民族菌類学の研究では、現地名と意味が載っていた。
Auricularia cornea → Maloyi ma Sumbu(チンパンジーの耳)
Auricularia delicata → Djè bolo(犬の耳)
ということで、少なくともコンゴ地域では、キクラゲを見て「耳みたいだ」という命名が、中国語とは別の現地言語でもあったらしい。
さらにDRコンゴ側でも記録されていると。
そしてさらに。
雑誌版と補完版を収録した「両A面」のあとがきで、唐突に「いんよん茶。六対四で。バナナを添えて」って出てきて。
…いんよん茶って何???ってなって調べてみた。
鴛鴦茶は香港などで飲まれている、コーヒーと紅茶を合わせた飲み物。ミルクを加えるのが一般的、らしい。鴛鴦はオシドリのことだそう。
コーヒーと紅茶と聞いて、エチオピアのスプリースを思い出した。
エチオピアのスプリース(Spriss)は、コーヒーと紅茶を層になるように注ぐから、ミルク入れて混ぜちゃう点は違うようだけど。
以前、エチオピア大使館のコーヒーセレモニーのイベントに参加したことがあって。研究者さんとかUCCの人とかが来て、いろいろお話を聞いて。
小さい臼と杵みたいなので炒ったコーヒー豆を粉にするのも体験させてもらった。
確かそこでスプリースのことも聞いたんだと思う。
エチオピアの人は飲み物を層にするのが好きらしい、と。
日本だとコーヒーと紅茶を混ぜて飲むっていうのはあまり馴染みがないから、おもしろいなと思って。
家でスプリースをつくってみたら…コーヒーと紅茶って思ったより色が近くて、層になってるのが見た目に分かりにくい。
ということで、オレンジジュースとビサップ(ハイビスカスジュース)や、オレンジジュースと紅茶で試したら、見た目もきれいな層になって、なんか気が済んだ。
混ぜて飲んで味がどうなるのか?と思ったけど、意外と美味しい。
エチオピアでは、2層どころか多層な飲み物もあるらしい。
…ということで。私は、仕事とは何の関係もなく、数十年前に読んだナンセンス小説から「木耳」が時を越えてリンガラ語につながって、いんよん茶がスプリースにつながって、大喜びしている人でもある。
おもしろい、気になる…なら、拾っておいたらいいんじゃないかなと思う。
やってみて楽しかったら、それでいいし。
つまらなかったら、それもやってみてわかったこと。
こういう数年後…今回は数十年後か、思いがけない自己サプライズもおもしろいから…あまり役立つかどうかって気にしなくていいんじゃないかな。
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