【Episode.1 祈り 】
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その男は知っていた…
今、目の前で遊んでいる幼い女の子が
十七を迎えることが出来ないことを…
将来、彼女は長い旅路の果てに、
魔王の居城に辿り着き
そこで命を散らす運命であることを…
黒いスーツを着崩した男。
今まで、一度も日光に当たったことが
ないような青白いの肌
淡い紫色の長髪、切れ長の鋭い目には
輝きはなく、暗い憂いを宿していた。
男は煩わしそうに前髪を
左手で掻き上げた後、
胸の内ポケットをまさぐって
何かを探しているようだった。
そして少々変わっている事と言えば
身体のあらゆるところが
ゆらゆらと青白い炎で燃えている事。
滑らかに揺れる青白い炎…
男は涼しい顔で内ポケットから
タバコを取り出しおもむろに咥えた。
右肩から出ている青白い炎に
顔を近づけると
薄い唇から紫煙が吐き出された。
男が紫煙をくゆらせながら
見下ろす先には、老女がいた。
老女はテラス軒に張られた日除け布の下で、
庭に向って据えられた
ロッキングチェアに腰掛け、
木の下で木人形相手にママゴトをしている
女の子を眺めている。
時折、日除け布が風で大きく揺れて
遊んでいる女の子が見え隠れする。
それが鬱陶しいように
老女は目を細める。
目尻の皺が、
相応の歳を物語っているが
目付きだけは歳に似合わないくらい
鋭く、そして強い。
首には奇妙な形をした
首飾りが冷たく光っていた。
老女は3年前初めて、この男に
女の子の未来を告げられたとき同様
諦めのような、
どこか寂しそうな表情をした。
しばらく二人の間に沈黙が流れ
聞こえてくるのは
遊んでいる女の子の声だけだった。
ふと、男は机の上に置いてある
人形に目をやった。
人形の横の薔薇が瑞々(みずみず)しい分、
人工物っぽさが妙に際立つ
頭部までの造りかけの人形。
飾り気のないショートヘア。
生命を宿していない空虚な瞳
それはまるで眼を開いたまま
眠っているように見える。
気の強そうな吊り上がった眉毛。
誰かに似ている気がした。
それは男が遠い過去に見慣れた顔…
「…これは自動人形(オートマタ)?」
男は老女に問いかける。
「…そう、あの子を守る為に
造っていたのだけれど…
間に合わなかったわ…」
「……」



