歴史上の人物への興味というのは創作物の人物描写に刺激されて、というのが多いと思うんですが、私が土方歳三という人物を知ったのも司馬遼太郎「燃えよ剣」という小説です。

 

作中の歳三(トシ)は女好き(ただし商売女が嫌い)で、それが今の時代の創作物に「幕末有数のプレイボーイ」として描かれていたりしますが、実際は女性にまつわる話というのがほとんどない人物で、司馬遼太郎は作中でそれを自分の情事を人に知られるのを嫌う「猫」だと書いていましたが、後に何かのインタビューで、土方には艶っぽい話が一つもなくて困った、と述べていたように記憶しています。ただし、ひどくモテたのは確かだったようで、女たちが騒いで困ります、という手紙を姉に宛てていたりもするから美男子は美男子だったんでしょうね。

 

ま、生き死にを日常とする仕事に就いていたような人物であるし、しかもその仕事と職場が大好きで、そこに全精力を傾けていたプロデューサーのような人であったから女性と浮き名を流しているようなヒマは無かったのかも知れませんね。

 

おなじく司馬遼太郎の作品、うちの先祖さんたちにもかかわる雑賀孫一を描いた「尻啖(くら)え孫市」でも、雑賀孫一を女好き、としていますが、こちらは何の根拠もない創作で、雑賀衆の末である雑賀屋が作る雑賀会などは、そういう人物だったとは聞いていない、とだいぶ騒いでいたようです。

 

雑賀鈴木の流れである私の家でも雑賀孫一という伝説上の人物は、当時の総合教育機関である本願寺の道場で学問を修めた教養人であり義侠の人であったと伝えられているだけで、女好きだったという話は聞いたことがないですね。

 

 

戦後昭和の映画などを見ても思うのですけど、どうも日本には作中に艶っぽいシーンを入れないとウケが悪いという変な部分があって、そういう意味で脚色が必要だったのかも知れません。

 

話は戻りますが、現実を生きた土方歳三に対する評価としてこんなものが残っています。

 

「土方氏は常に下万民を憐れみ、軍に出るに先頭を進む。故に士卒達も勇奮いて進む。だから負ける事が無い」(立川主税)

 

立川主税は新選組隊士で函館で土方歳三戦死に居合わせ、彼の実家に戦死を報せた人物。この評価は武士に生まれつかななかったばかりに「武士」という虚構の中の理想の人間像にこだわり続けた土方歳三らしいという感じがして割と好きです。