その点、日本の武道は高齢になっても続けることができます。年寄りだからといって軽んじられることはありません。柔道でも剣道でも、段位が上の人は皆、ある程度年齢が高い人たちです。これは単に実力があるからといって昇段するわけではないという、認定システムに由来しています。
例えば剣道では初段が13歳以上であること、二段は初段受有後、1年以上修行を続けていること、三段は二段受有後、2年以上修行を続けていることというように、修行の必要年数が、段が上がるごとに1年ずつ増えていくのです。
六段から七段へは6年必要で、七段から八段へは10年の修行が必要。初段からの総必要修行年数は最低で31年もかかるのです。
武道は、単に競技の実力だけで段位が上がるわけではありません。ですからオリンピックなどの第一線で活躍する人たちの多くが四段とか五段くらいでしょう。年齢的にはそのあたりがピークなのですが、武道はそれだけを重んじるのではないということです。
実力だけでなくとも実力が必要な事には違いない世界なんですよね。だからろくでもない高段位者なんてのもざらにいるわけですよ。以前問題になってたけれど特に七段から先は盆暮れのおつきあいと贈り物という政治的要素が重要な世界だったりしますから。
年を経てもかくしゃくとして剣を振れるのは、技が削げるからですよ。基本をこれでもかというほどみっちりやってきて、そのあたりの歳になってようやく自分なりの正しい動き「筋(すじ)」というものが見えて来る。余計な動きが無くなればそれだけ速く強く動ける。基本こそが本質・核であって、若き日にそこを軽んじていれば年をとっても強くはなれないだろうと思いますね。
その道で食うてゆける私が撃剣いわゆる剣道で七段を得たのは36の時だから車の運転免許で言えば一時間も無駄にせず一発で通ってしまったような感じだったけど、そのころにはまだ力が余っていて見えていなかったすじが今になって見えるというのは感じます。だと思えばやっぱり歳をとる(=衰える)ってことも大事なんだろうなとは思いますね。
なお、その後47で心身ばさばさになって死のドアノブに手をかけたのはご承知のとおりです。(運転免許一発で通るやつは事故起こす、とか言われそうですが…)
体を鍛えることは鬱を回避する可能性を高めることにはなるかも知れないけれど、体を鍛えておきさえすれば鬱のような時期を迎えずに済むかと言えばそうでもないと思いますよ。
実際アスリートなどには早い時期に更年期を迎えて苦しむ人が想像以上に多いです。メンタルなんて体を鍛えさえすれば何とかなるのさというのは…マゾヒスティックに自分を追い込んだことのないゆるい鍛え方をしている人だけなんじゃないかと思わんでもないですね。
けっきょく医者行ってお薬もらうのが一番いいんじゃないかと思っています。私もあの時点で正しく自己分析して医者に頼っていれば一年近く悶々と過ごさずに済んだ気がします。思想や心の在り方なんざ役に立ちませんね。頭を使って考えれば考えるほど苦しくなるのは私自身経験済みですから。