あなたのお父さんはどんな人?

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 私の父は中学を卒業して地元のバス会社に整備士見習いとして働きはじめ、そのまま定年まで勤め上げた。今では考えられないが、ほとんど働きながら技術を習得して正式な整備士免許を取得したらしい。実家にはその免許状が額に入れられて掲げられていた。

 

 バス会社という公共交通機関で働いていたので、父は土日も勤務することが多かった。そのせいもあってか、私が小学校低学年の頃は、学校が休みの時にはよく父の仕事場に行って父が仕事をしている様子を見学していた。大型バスのエンジンやブレーキなどの整備であるので、真っ黒に汚れたオイルやグリースなどの潤滑剤で手が汚れる。手の皺の中までオイルが染みてゴツゴツとした父の手のことは今でも鮮明に覚えている。

 

 普通の手洗い石けんでは、そのようなオイル汚れは到底落とすことができない。今ならもっと高性能な洗剤もあるかもしれないが、当時は、研磨剤が練り込まれた茶色がかった洗剤が使われていた。そしてその匂いは、なんとも有機的なもので、お世辞にも良い匂いとは言えなかった。しかし「子ども」とは不思議なもので、そういう「変な匂い」が大好きであり、ご多分にもれず「子ども」であった私は、その匂いが気に入り、父の目を盗んではその洗剤で手を洗っていた。ただ、子どもの手には洗浄力が強すぎるので、見つかるたびに父から叱られていた。

 

 父が享年70歳でこの世を去ってもう20年になる。既に実家は引き払い、今は母と妻と猫との生活を送っている。今の私の手は、父のそれと比べるべくもなく綺麗で柔らかい。それは今の職業を選んだからとも言えるだろうから、何も恥ずべき事ではない。ただ時々、あの頃の父の手と、父の職場にあった洗剤の匂いを懐かしく思い出し、あの洗剤で手を洗っていた父のように、私は日々をしっかり生きているだろうかと、自問してしまうのである。