今日は妻が夜勤なので、夕飯と明日の朝食を調達しようと、仕事帰りに地元の物産館に立ち寄った。ここは、夕方6時を過ぎると良い食材が割引されるのだ。

 

僕が鮮魚コーナーの『三割引』のサバ寿司を買おうか迷っていたら、出入り口付近で店員さんが「お車ナンバー〇〇〇〇のお客様はいらっしゃいませんかー」と叫んでいるのが聞こえた。一瞬、反応が鈍ったが、自分の車のナンバーだと気づき、買い物かごを持ったまま出入り口に向かった。

 

「はい、私の車ですが。」

 

「ああ、すいません。外のお客様が、お車をぶつけしまわれたらしくて…。」

 

見ると、僕の車の前で若い夫婦と見られる男女が少し恐縮したように立っていた。

 

(ああ、面倒なことになったな。たいしたことないといいけど。)

 

こういう時、どんな顔をすればいいのかよく分からない。一応、自分は「被害者」ということだろうから、怒っても良いのだろうが、僕自身も車をぶつけた事はあるし、妙に「お互い様」のような気持ちになってしまう。

 

僕は、あまり威圧しない程度に加害者の詫びの言葉を受け入れ、自分の車を確認した。

車のナンバープレートが折り曲がっていた。

 

何とか手で元に戻らないかと試みたが、完全にプレートのフレームから外れていて、元に戻すには修理に出さざるを得ないようだ。

 

「ちょっとこれは…、修理に出すしかなさそうですね。」

 

それで、僕は自動車保険でもお世話になっている修理工場の知り合いに電話をかけ、相手方とも話してもらい、その後の段取りを取り付けた。

 

加害者側の保険会社にも連絡され、警察の事故証明は取ってくれとの事だったらしく、そこから警察を呼び、なんだかんだで1時間近くかかった。

 

警察を待っている間、僕は失礼して車の中で待たせてもらったが、相手の御夫婦は寒空の下でずっと待っておられた。何か声をかけた方がいいのかなとも思ったが、相手の誠意のつもりかなとも思い、僕は何も言わなかった。結局御夫婦は事故検分が終わるまで外に出たままだった。

 

ようやく家に戻って、購入した鯖寿司を食べた。

 

本当に、こういう「誰でもあり得る事故」の被害者になると、何とも妙な心持ちになる。特に加害者側が誠意を持って対応されたら(誠意がなければそれはそれで困ってしまうが)、こちらに全く非がないのに、何だか相手に悪いことをしたかのような、不思議な感覚だ。

 

ともかく、僕も相手も怪我がなくてよかった。とりあえずそういうことにしておこうと、鯖寿司を食べた後のお茶をすすりながら思った。