「ねえ、私たちの結婚式の時にいた猫のこと覚えてる?」

 

ある日、妻が僕にこう尋ねてきた。

 

僕たちは結婚式を地元の神社でおこなったのだが、神社の境内で二人で写真撮影をしていた時、どこからともなく猫がやってきて、僕たちの足元に居座ってしまった。

 

追い払うのも気が引けたので、そのまま写真撮影を行った。

 

カメラマンは「きっと、幸せのオーラを感じて寄ってきたんですよ」などという。

 

翌年の初詣には神社の隅にその猫を見つけ、「その節はお世話になりました」なんて挨拶をしたが、それ以来その猫は見かけなくなった。

 

「ああ、覚えてるよ。どうかしたの?」

 

「ミキ(我が家の猫)にそっくりだって、気づいてた?」

 

えっ、と絶句した。確かに、あの猫の柄まではよく覚えていなかった。

 

それで、結婚式の写真を引っ張り出してきて、改めて驚いた。本当にミキに似ている。

 

ミキは、僕たちが結婚して数年後、母が知り合いの家で生まれたばかりの猫を、半ば強引に押し付けられた格好で我が家にやってきた。小さい頃はあまり模様ははっきりしなかったが、成長するにつけ、腕などに特徴的な茶色の縞模様が現れてきた。もちろん、神社にいた猫と同一の猫ではあり得ない。

 

妻がなぜ気がついたのかというと、iPhoneの写真カテゴリー「ミキ」に、その神社の猫が分類されていたことから、気がついたそうだ。iPhoneはミキと神社の猫を「同一」と判断したらしい。

 

『そんなに我が家に来たかったのか、ミキよ』

 

いや、もちろん偶然だろう。それに、仮にミキが神社の猫の「生まれ変わり」だとしても、そんなことは関係ない。ミキはミキなのだ。

 

それでも、この偶然は「楽しいエピソード」として、僕たちとミキの縁を彩ってくれている。