もう十年近く前になるだろうか。

 

大学時代の後輩と久しぶりに飲んで、そいつがオーディオ好きでもあったので、後日我が家に招待してESOTERICのシステムを自慢した。

 

ひとしきりJazzなど鳴らした後、そういえば、と思い出してStingの“…nothing like the sun”のCDをかけた。“Englishman in New York ”や“fragile ”は特にオーディオの良さを引き出してくれる。

 

「このCD、お前持ってるよな。大学時代、お前がこれを『良い音がするCD』だと俺に教えてくれたんだから。」

 

僕がそう思い出話をすると、彼は少し怪訝な顔をして「いや、持ってないよ」と言った。

 

僕は「えっ?」と驚いた。僕の記憶が間違っていたのか、まあ、もう随分昔の事だからと、あまり気にも留めずに次のCDをかけた。

 

彼とオーディオ談義をした日から暫くして、またオーディオを聞こうと、あの“…nothing like the sun”を手に取り、少しひび割れたケースを何気なく眺めていた時、ハッキリ思い出した。

 

このCDは、大学時代に彼から借りていてそのままにしていたものだ。

 

まったく、あの時彼が「持っていない」と言った時に思い出すべきだったのだが、返し損ねてしまった。いや、随分聞き込んでケースがひび割れていてはとても返せない。新品を取り寄せて、詫びも入れなければ、と思った。

 

 まあ、しかし、次に飲む機会があるだろうから、その時に渡せばいいだろう、と、その機会をうかがっている間に、コロナ禍になってしまった。

 

 

 昨年末、大学の別の後輩からLINEが来た。「正月に久しぶりに◯◯と一緒に飲みませんか」その◯◯というのが僕がCDを借りたままにしていた奴だ。

 

「いいね。飲もうか」そう返事して、LINEをした後輩が焼き鳥屋を予約してくれた。三人の日程の都合で1月8日の夜に飲むことになった。

 

僕はすぐにAmazonで“…nothing like the sun”を注文した。