鈴を拾いました。今、目の前に銀色の、形もとてもシンプルな鈴が転がっています。

 実はとても奇妙な所で拾ったのです。

 仕事をだらだらと行っていたせいで、今日は職場を出るのが、いつもよりも遅くなってしまいました。

 いつも立ち寄る町営温泉に終了間際に入り、あまりゆっくり浸かってもいられないので、てきぱきと入浴を済ませました。

 いつもなら、その後、売店で瓶牛乳を買って、腰に手を当ててゆっくり飲み干すのですが、残念ながら売店は終了しており、牛乳が飲めませんでした。

 しかし、どうにも「習慣」を破るのが気持ち悪く、しかたなしにフロアの隅にある自動販売機コーナーのパック牛乳を購入することにしました。

 お金を入れ、ボタンを押し、“ゴトン”と、パック牛乳が取り出し口に落ちる音がして、僕は取り出し口に手を入れました。

 取り出し口の中で四角いパック牛乳をつかんだとき、一瞬、手の甲に、何か別の「硬い物」が触れました。

 (あれ?鈴だ。)

 そう思ったときには、もう僕はパック牛乳を取り出していました。

 その間、コンマ何秒だったかと思いますが、確かに、取り出し口の中に鈴があることが分かりました。

 牛乳パックにストローを指し、腰に手を当て牛乳を飲みながら、取り出し口をにらんで、先ほど僕の手に触れた鈴の事を考えていました。

 なぜこんな所に、という疑問もありましたが、なんとなく、「取り出し口の中」などという、鈴には至極不似合いな場所に捨て置くのが、何となく可哀想に思えてきました。

 少し気が引けましたが、意を決して、もう一度取り出し口に手を入れ、中を探りました。

 果たして、確かにカラカラとした音を発し、少し大ぶりの銀色の鈴が現れました。

 思うに、小さな子供の袖に付いていた物が外れたのではないでしょうか。

 元居た場所に戻れなかったのは、この鈴にとっては残念だったかもしれませんが、そのかわり、時々、僕が揺らして、カラカラという懐かしい音を聞かせてもらうようにしましょう。