愛知県美術館等の独立行政法人化について質問
こんにちは。
ますだ裕二です。
9月委員会で、美術館等の独立行政法人化並びに埋蔵文化財の保存活用について、質問と要望をさせていただきました。
詳細については、以下の通りです。
【ますだ裕二委員】
私からは、愛知県美術館と愛知県陶磁美術館の地方独立行政法人化と、埋蔵文化財の保管とデジタル化について質問する。 先月、私たち委員会の県外調査で、全国に二つしかないと言われている薬の博物館である中冨記念くすり博物館を視察した。
建物の規模からすると入館料が非常に安く、とてもこの入館料だけでは賄えておらず、地域の人々の支えと教育機関との連携があって、初めてこの博物館が成り立っていることがよく分かった。いなもと和仁委員は薬剤師であり、その場でもすばらしい知見を披露してくれ、私たちも大変勉強になったので感謝したい。
こうした中、奈良県内の約4万5,000点の民俗資料を収蔵している奈良県立民俗博物館が休館するというニュースを目にした。そこで、当時、その館長に話を聞きに行ったが、建物が老朽化し、その空調設備の改修費用の予算が議会を通らなかったことが原因で、県立の民俗博物館を休館するということであった。
先ほど述べたとおり、4万5,000点という多くの収蔵品があり、この温度や湿度管理が大変重要であるので、そうした観点から、今後は保管ができないため、処分も含めて検討していくという衝撃的なニュースであった。 そこの学芸員にも話を聞き、私は大きく二つの要因があると感じた。
まず一つ目は、奈良県は、非常に文化財の多い地域であるが、その文化財に対して学芸員等の専門家の人数が少な過ぎることであり、その知見を活用して博物館の必要性を訴えることができなかったことが一つ目の問題である。
そして、二つ目は、この民俗資料の数の割に保管できる場所が非常に少なく、どうしてもこの県立民俗博物館に収蔵品が集まってしまう関係上、収蔵するスペースが足りなくなってしまい、処分せざるを得なくなってしまったこと。この大きな二つの問題点があった。
この学芸員が言うには、これは未然に防げる可能性があったとのことなので、私もこの県議会で取り上げたいと思って、今回質問する。 まず、一つ目の問題、これは、人の問題である。学芸員等の専門家の人材育成には、今回の県美術館と県陶磁美術館のいわゆる地方独立行政法人化が大きく影響してくると思う。
美術館の専門人材について聞くが、組織として人員を確保して体制を充実させることも必要であるが、学芸員は、現場で経験を積み、そして、次の人材を育成していくことが重要である。現在、愛知県美術館、愛知県陶磁美術館においては、4月に公表した愛知県文化施設活性化基本計画を基に、運営面を改善するため、2026年4月を目途に、2館一体としての地方独立行政法人化を目指している。
まずはこの計画の進捗状況について伺う。
【文化芸術課担当課長(文化施設改革)】
本県では、県美術館と芸術劇場を設置する複合文化施設である愛知芸術文化センター及び愛知県陶磁美術館について、両施設が持つポテンシャルを生かし、ブランドイメージの向上、利用者層の拡大、にぎわいの創出を図るための方策を2022年度から検討してきた。
本年4月には、両施設の今後の望ましい運営手法や経営形態、民間活力の活用の方向性などを愛知県文化施設活性化基本計画として取りまとめ、公表した。 現在は、この計画に基づき、愛知県文化芸術センターの建物管理及び芸術劇場へのコンセッション方式や公募型の指定管理の導入、県美術館及び陶磁美術館の地方独立行政法人化について、その可能性や効果などの具体的な検討を進めている。
このうち美術館の地方独立行政法人化に向けては、民間の調査会社に委託し、地方独立行政法人化による効果に関する整理などを行うとともに、各美術館の学芸員と定期的に打合せを行い、地方独立行政法人化による課題などの検証を進めている。
【ますだ裕二委員】
現在、美術館では、独立行政法人化による効果の具体的な検討を行っているとのことであるが、地方独立行政法人化によりどのような効果が得られるのか。
【文化芸術課担当課長(文化施設改革)】
一般論として、地方独立行政法人化した場合は、地方自治法や地方公務員法の適用がなくなり、予算や人事面において、県直営と比較して、柔軟かつ効率的な運営が可能とされている。
具体的には、県直営の場合、予算の執行に単年度の制約があり、年度をまたいだ運営企画が難しいが、地方独立行政法人では、5年間の中期計画に基づき、中長期を見据えた戦略的な予算執行が可能となる。
また、現在、美術館の事務職員は、県の人事異動の制度により数年で異動することが多く、美術館特有の広報や経理などに強い専門人材の育成に課題を抱えているが、地方独立行政法人化により、広報などの専門人材を美術館の判断により採用し、配置することができる。
こうしたことから、地方独立行政法人化により、魅力の向上や来館者の増加につながる経営や運営が期待できる。
【ますだ裕二委員】
美術館には、戦略的な予算執行や広報、経理等の専門人材も必要であるが、やはり学芸員が中心的な存在であると考える。地方独立行政法人化により学芸員の人材育成や人材確保についてはどのような効果があるのか。
【文化芸術課長】
現在、美術館の学芸員は、本来業務の傍ら美術展の広報など専門外の業務にも携わり、時間を取られているが、先ほど答弁したとおり、地方独立行政法人化により、広報等の専門人材を採用し、配置できるようになることで、作品の収集や研究といった学芸員本来の業務に専念できるようになる。
さらに、地方独立行政法人の職員は、県職員と異なり職務専念義務の制約を受けないことから、特に学芸員においては、講演、講義、執筆活動などをはじめとした積極的な学芸活動が可能となり、学芸活動における柔軟性の確保が期待できることから、学芸員の能力向上や人材育成に効果がある。 また、より学芸活動が行いやすい環境となることで、有望な人材を集めやすくなるので、結果として、学芸員の人材確保においても効果がある。
こうしたことから、県美術館、陶磁美術館については、引き続き見込まれる効果の検証を行い、美術館がさらに魅力的な施設となるよう、地方独立行政法人化の検討を進めたい。
【ますだ裕二委員】
この人材育成について一つ要望したい。
先ほど答弁にあったように、県直営のときは単年度予算であったものが5年間の中期計画に基づき予算を組めるために中長期計画も可能になること、加えて、学芸員の職務に対しての専念義務が外されること、これは、人材育成やノウハウを次の時代の人間に継承していくことができると思う。
私も全国の様々な事例を研究し、地方独立行政法人化は、本当に理にかなった制度であり、非常によいのではないかと思うが、まず比較されるのが、大阪市の博物館だと思う。 これは、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)上のコンセッション方式で行っているが、コンセッション方式とした以上、どうしても美術館として利益を上げようとして、例えば、外車のディーラーの商談会をその美術館で行っていたりすることがある。
そうすると、本来の美術館の果たす役割からそれてしまうので、できれば地方独立行政法人化で進めてほしい。 なぜかというと、所蔵品のうち、県美術館は77パーセント、県陶磁美術館は87パーセントが、県民からの寄贈によるもので、そういった寄贈者の気持ちに寄り添った形の美術館運営を今後もしてもらいたい。
次に、二つ目の問題として、その文化財等の保管場所の問題である。 これは、民俗資料に限らず、美術館、博物館の資料を保管する収蔵スペースの確保は、冒頭に言ったとおり、全国的な問題となっている。
中でも出土品と言われる埋蔵文化財は、文化財であると認められたもので所有者が判明しないものは、原則として愛知県に帰属することとなっている。
これはどういうことかというと、文化財保護法上、地中から見つかったものは、まず警察に届けられた後に都道府県の教育委員会に行き、教育委員会がこれは文化財だと認めたものに対しては、6か月間の猶予期間の間に所有者が出てこなければ、県の教育委員会に所有が移ってしまうので、どうしても物が集まってくる傾向にある。
展示等の活用のために譲渡を希望する市町村には、引き渡しているということだが、各都道府県においては、開発行為に伴う発掘調査も増加する中、年々、確実に増え続けていく。愛知県埋蔵文化財調査センター等でも、文化財の保管場所が課題になることが推察される。
そこで、愛知県において、埋蔵文化財である出土品はどれくらいあるのか、また、どのように保管しているのか伺う。
【文化財室長】
県が実施した発掘調査で出土した埋蔵文化財については、愛知県帰属埋蔵文化財管理要綱においてその取扱いを定めている。愛知県では、文化財室が文化財業務を担当しているところ、出土品については、将来的に研究対象として活用される可能性があることから全て保管しており、展示中のものを除き、通常はコンテナに入れて管理している。
保管場所は、愛知県埋蔵文化財調査センターのほか、あいち朝日遺跡ミュージアム、旧県立常滑高校の廃校舎の3か所である。このうち愛知県埋蔵文化財調査センター内の収蔵庫では、展示・公開に活用するものなど約1万2,600箱を保管している。
あいち朝日遺跡ミュージアムでは、朝日遺跡からの出土品のうち、重要文化財2,028点及び主要な出土品約5,100箱を保管している。旧県立常滑高校の廃校舎では、それ以外の約3万8,700箱を保管しており、3か所の合計で約5万6,400箱である。
【ますだ裕二委員】
埋蔵文化財は、埋蔵文化財調査センター、あいち朝日遺跡ミュージアム、そして、旧常滑高校の廃校の3か所で全て出土品を保管していることが分かった。 私は、その一方で、埋蔵文化財のデジタル化を進めていく必要があると考えている。
参考までに、私が話を聞いた奈良県立民俗博物館では、約4万5,000点の民俗資料の収蔵品がある。奈良県は、今後、その収蔵品全ての3Dデジタルアーカイブ化を盛り込んだ、民俗資料の収集・保存の奈良モデルを策定し、取り組んでいくとのことであった。
そこで、愛知県の埋蔵文化財のデジタル化の状況を伺う。
【文化財室長】
県が保管している埋蔵文化財は、先ほど答弁した愛知県帰属埋蔵文化財管理要綱で定める出土品管理簿を用いて記録している。この出土品管理簿は、デジタル化されており、遺跡や出土品の種別ごとに検索・抽出することが可能である。
また、あいち朝日遺跡ミュージアムにおいては、2020年11月の開館以降、収蔵品のデジタル撮影等の取組を進めている。 また、埋蔵文化財の記録保存のための発掘調査については、公益財団法人愛知県教育・スポーツ振興財団愛知県埋蔵文化財センターに委託して実施しており、その発掘調査の際に発見した遺物や遺構について、同財団の職員が最新のソフトを活用して3Dデータ化を行っている。
【ますだ裕二委員】
埋蔵文化財について、デジタル化を進められているとのことであった。せっかくそうしてデジタル化を進めているのであれば、内部での管理に利用するだけではもったいないのではないか。埋蔵文化財の活用という点では、著作権の問題もあるが、データを用いた調査研究、インターネット公開など、幾つかの活用方法があると考えられる。
さきに挙げた奈良県の民俗資料の収集・保存の奈良モデルでも、3Dデジタルアーカイブを整備した後は、インターネット公開も行っていくと言っていた。 愛知県としても、このような取組を研究し、埋蔵文化財をデジタル化して管理するだけではなく、県民に広く公開して活用していくべきであると思うが、どのような考えなのか。
【文化財室長】
公益財団法人愛知県教育・スポーツ振興財団愛知県埋蔵文化財センターにおいては、6遺跡から出土した埋蔵文化財20点の3Dデータをウェブサイトに掲載している。閲覧する人は、出土品データの回転や拡大等を自由に行うことができる。 また、同財団が実施する体験イベントでは、近年、鋳型にべっこうあめを流し込んで銅鐸をつくる鋳込みの体験なども行っており、この鋳型には銅鐸の3Dデータを活用しており、大変好評とのことである。
一方で、ますだ裕二委員の言うとおり、ここ数年、発掘調査が増加している。これに伴い、県の埋蔵文化財業務に占める発掘調査の比重が大きくなっており、3Dデータ化等の取組は、全体の資料のごく一部にとどまっている。県としては、今後、奈良県の取組も参考にしながら、埋蔵文化財のデジタル化について研究していきたい。
【ますだ裕二委員】
最後に要望する。 昨年、博物館法が2022年4月に改正され、博物館DX化を進めやすい環境が整った。それを受けて、東京国立博物館では、メタバースの博物館として、3D化したデータ等をメタバース空間で見られる環境を整え、また、そのメタバース空間で展示している国宝29点の3Dデータを非代替性トークン(NFT)証明書として販売し、大変好評であったと言われている。
NFTは、とても価値が上がる場合もあり、今、ブロックチェーンの問題もあって、非常に効果が上がっている。文化財は、保存よりもどちらかというと活用するほうが難しいので、ぜひともこういう先進事例等を見習い、愛知県内でも活用できる環境を整備するよう要望する。