【奇跡ではない】
奇跡ではない。これは選手の覚悟と準備の結果だろう。しかしながら、こんな結果になるとは思わなかった。ただ、前半の展開を見たとき、この試合はいけるかもしれないと思った。と同時に「やるじゃないか」と感動で熱いものがこみ上げてきた。
前半から基本的なプレーが正確、かつ慎重だったとように思う。ミスがない。しかも積極的だった。トライはなかったがが、前半は互角。むしろ、相手の焦りによるミスが目立った。着実にペナルティゴールを決め、得点は僅差、トライ数ではアイルランドにリードされていたが、この感じを継続できれば、「ひょっとしたら…」と私は直感した。
前半、まず私の印象に残ったのは、的確なキックでエリアの優位性をキープしようとしていたレメキ選手。また相手フォワードに対し、早く、かつ良いプレッシャーをかけていたマフィ選手だ(名前が間違っているかもしれない)。とてもいい選手だと思った。そのマフィ選手が怪我をした。そのマフィ選手と交代したリーチ選手の顔がテレビの画面に写った。とても冷静で、「この試合いけるぞ」という顔をしていたように見えた。私はリーチ選手と田中選手のファンである。
まるで脚本があったかのように負傷したマフィ選手とリーチ選手の選手交代だった。リーチ選手のが加わり、日本のプレーに勢いと圧力が増したように、私には思えた。それを証明するかのようにアイルランドチームに反則が生まれた。そして日本チームは相手の反則によるペナルティーゴールを確実に決め、前半を3点の僅差で終えた。
私は松尾雄治が率いた新日鉄釜石の全盛時からラグビーを見ている。にも関わらず、今回のW杯によって、ラグビーのルールが7割、理解できた程度のファンでもある。要するに、にわかラグビーファンと言って良いだろう。しかしながら、ラグビーの面白さを実感していることだけは確かである(ひとつ残念なことは、テレビではプレーの際の攻守の陣形が全て見えないことだ)。日本チームには後半、負傷していた福岡選手が加わった。監督はなるべく福岡選手に無理をさせたくなかのだと思うが、勝負に出たように思った。その福岡選手が見事な逆転トライを決めた。私のみならず、全ての観客がこのまま点差を守り切ってくれと願っていたはずだ。
その後も日本チームの集中力は途切れなかった。わずかなミスもあったが、それ以上にアイルランドチームの焦り、ミスが目立った。また、日本の基本的なプレーが徹底していたように思う。さらに後半の残り時間わずかになった時、田中選手が加わり、スクラムからのプレーに慎重さと巧さが加わった。またアイルランド戦では、体格で世界に見劣りのしない姫野選手のプレーが良かったように思う。さらに今回、私はフォワードの堀江選手がとても好きになった。なぜなら、ラグビーで重要なスクラム、フォワードの最前線だということ。その柔軟で縦横無尽なプレーが今回の結果に繋がったと思ったからだ。また私には彼は命がけに思えた。少なくとも、私にはそう感じた。彼の気持ちが世界ランキング1位(現在2位)のフォワードに対抗できた力になったように思う(もちろん彼だけではないことはわかっている)。
また、これまで緊張感のあった田村選手の顔が落ち着いているように見えた。おそらく眠れなかったに違いないが、その顔は悟りを得たような顔だった。変な言い方だと思われるかもしれないが、命懸けの境地にたつと、ふっと優しくなる時がある。一般的には格闘技には闘争心が最重要であり、優しさは邪魔になるように思われるだろう。だが、その優しさが強さにつながることがある。それは、極度の緊張が自分を信じ、仲間を信じる。そしてチームのために、只全力を尽くそうという気持ちになる時だ。田村選手はいい顔だったと思う(もともとハンサムだが)。
結果、世界ランキング2位のアイルランドに勝つことができた。勝因は専門家がこれから検証するだろう。だが、私のような素人でも理解できるぐらい、今日の日本チームは素晴らしかった。ターンオーバーからの戦術スキルが2〜3回ぐらい見えた。また、キックパスからのトライも試みていた。もう一歩だったが、イメージ、フィーリングは良かったのではないだろうか。
修正すべきは、パスのキャッチミスがゼロではなかったこと。ポイントからの球出し、展開の判断、スピードが遅かったプレーが数回あったこと、またターンオーバー時のフォローアップの数が少なかったことなど、ではないだろうか。素人なのに生意気だが、その辺のプレーが修正され隙がなくなったらすごいことになるかもしれないと思う。
【理念を有するスポーツだからこそ】
最後に、物事を行う前の心構えとして、誰かのため、日本のためなどという前に自分のためだという心構えを持たなければならない、と私は考えてきた。それが基本だと思っていた。しかし少し迷いがあった。だが、今回の試合で、その答えが見えてきた。これから考えをまとめたいと思うが、メモとして書いておきたい。やはり本質的には、みんな自分の矜持のために戦っているのだと思う。しかしながら、仲間のため、日本のためという意味と価値をそこにプラスした時、自分の矜持が倍加し、自分の力が120パーセント発揮される時があるのだろう。
今日の日本チームは仲間のため日本のために命懸けで戦っていたように見えた。正確には、彼らが愛するラグビーのため、そして観客の暖かい応援の気持ちを自分の力に変えていたのだろう。だからこそ、私は、政治や国家権力などが、そのような崇高な気持ちを利用してはいけないと私は考えている。また、「ノーサイド」「ワンフォーオール、オールフォアワン」という理念を有するスポーツだからこそ、その価値が崇高になるのだと思っている。
試合開始前、アイルランドチームの選手の数人がチームアンセム(国歌ではない)を歌っていなかったように見えた。一方の日本チームは全員がナショナルアンセム(国歌)を歌っていた。ある者は高らかに、ある者は噛みしめるように。思い過ごしかもしれないが、私にはその差が出たように思う。膝がと腰が痛いのでブログを書くことをしばらくやめようと思っていたが、あまりにも感動したので、これを書いている。そして学びがあった。繰り返すが、これは奇跡ではない。選手の覚悟と準備の成果である。サモア戦、スコットランド戦もこれまで培ってきた、ゲームイメージとスキル(ゲームプランとスキル)を信じ実力を出し切って欲しい。
【追伸】
チームアンセムとナショナルアンセム、チームのためか日本のためか?この場合、日本というホーム(場所)の利があったか。つまり、観客の声援、思いが力になることはあるのだろう。想像だが…。
【追伸2】
ラグビーの試合を録画し時間がある時に何度も見ている。初めは全員の選手名がわからなかった。今はわかってきた。ジャパンチームは素晴らしいな。強くて、上手くて、熱いラグビーができる。僕が今、中学生でこのW杯を見ていたら、99パーセントラグビーをやるだろう(単純な奴だと思われると思うが…)。