サッカーと孫子の兵法 | 増田 章の「身体で考える」〜身体を拓き 心を高める
サッカーと孫子の兵法
~「凡そ戦いは正をもって合い(合し)、奇をもって勝つ」(孫子)


【ワールドカップサッカーのドイツ対ブラジル戦】

攻守の要、2人の力がよほど卓越していたのだろう。しかし、これほどの結果を招くとは・・・。

ワールドカップサッカーのドイツ対ブラジル戦の私の感想だ。結果は、7対1でドイツの大勝である。

今回、ブラジルは開催国かつ優勝候補ということもあり、この結果がもたらす、落胆は想像を絶する。

私は決勝をオランダ対ブラジルと予想した。
しかしながら、勝負には予測不可能な部分が多々ある。

我が愚息の高校サッカー部員の予想は、「ドイツ対オランダ」だと聞いた。
確かにドイツも優勝候補である。また、ドイツは私の好きなチームである。前回のワールドカップでは、ドイツの優勝ではないかと、予測もした(外れたが・・・)。

しかし、今回はブラジルに頑張って欲しかった。ブラジルには知人もいるし、社会に様々な問題を抱えている。少しでも明るい話題があった方が良いと思っていたからだ。

私がここで書き記したいことは、「戦いの原則(理法)」のことである。
勿論、主力選手を欠くというアクシデントによる影響が大きいことは解っている。その上で、戦いの原則論に立脚して、勝負論を展開したい。

ブラジルの監督は「孫子」を愛読するという。また選手にも読ませているらしい。しかし、選手は孫子の真髄を理解していなかったように思う。また、日本の敗因もブラジルと共通点がある。


【凡そ戦いは正をもって合い、奇をもって勝つ(孫子)】

さて、私が考えるブラジルの敗因の一番は、「防御を疎かにしたこと」である(サッカー関係者の中にはブラジルは守りのチームだという者もいるようだが、私には守りを徹底的に重視したようには見えない)。

孫子に「凡そ戦いは正をもって合い(合し)、奇をもって勝つ」というくだりがある。
訳としては、「凡そ戦闘は、正攻法で敵を食い止める直接的な力(正)をもって構成し、勝敗は敵の意表を衝く間接的な力(奇)をもって決せねばならない」(戦略論体系/杉之尾宣生)を紹介したい。

しかしながら、この訳は戦争を前提として書かれているので、一般の人には解りにくいと思う。

ゆえに不遜だが、空手家やスポーツ選手用に超訳をしたい。
私の超訳は、「およそ戦いは、基本的な戦闘力を以て相手に対峙し、相手の予想外の戦術を創出して勝つ」というものである(予想外の戦術の創出という考えには、もう少し説明がいるが、今回は御免・・・)。

これは格闘技的な要素を持つ、スポーツ全般に応用できると思う。
補足すれば、基本的な戦闘力とは、相手を攻撃する力のみならず相手の攻撃を防御する力、その2つである。また予想外の戦術とは、自己の基本的な戦闘力を把持(防御)しながら、相手を予想外の態勢に陥らせ、相手を弱くするということが前提である。その上で勝利を得るような戦い方をする。それが、「防御を基本にしながら勝利を創出する」ということの意味である。

孫子は「先ず不敗の態勢をつくれ」と教える。孫子は、その上で、勝利のための決定的要因となるような戦術を創出(創造)するのだと示唆しているように私は思う。又は、勝利は予測不可能であるから、勝利が手中になるよう、態勢を整えよと教えているのかもしれない。

ブラジルは、そのような勝負の原則を忘れたのかもしれない。
今回のブラジルチームが心掛けるべき点は、点を取ることではなく、守りを固め、相手の失策を待つことではなかったか。少なくとも、主力2人を欠く状況ではそのような戦術が最善だと思う。

私が、もうひとつブラジルの敗因に挙げたいことは、ブラジルの「打たれ弱さ」である。

下手な例えだが、ブラジルは、いつもちやほやされ口説かれる、美人のようなものである。ゆえに、振られることに慣れていなかった。「誰にちやほやされ、誰に振られるの??」と思うであろう。それは誰か?「勝利の神様」である。勝負事には、勝負の神様が存在するのではないかと、感じるような時が多くある。

しかし、私の考えでは、そんなものは存在しない。存在するのは、ゲーム性(偶然性と創発性)と現在の状況(情況を含む)だけだ。ゆえに勝負師は、現在のそれ(状況)に最善を尽くすしかないのだ。

具体的には、ブラジルは1点を先取され、その後、審判がファールを見逃したことに焦った。そして、2点目を入れられたとき、勝負の神様に嫌われていると感じたのではないだろうか。その「こころ」の隙(油断と失望)をドイツに衝かれた。3点目以降は、もう語る必要がないであろう。


最後に、戦いは防御と防御から反撃(デイフェンス&カウンター)が基本だとおもう。勿論、防御だけでは駄目なのは言うまでもない。

またまた稚拙な例えで恐縮だが、空手でいえば、ハイキックなどの蹴り技ができても、攻撃技だけでは駄目である。つまり、「ハイキックができるが、ハイキックの防御ができない選手」は、「ハイキックができ、かつハイキックの防御ができる選手」に敗れるに決まっている。将棋やチェスで例えれば、もっと簡単である。こんな誰でも解ることが、実は解っていないのではないかと私は思っている。

また、カラテ(極真空手)は、ミドルキックやローキックなど、蹴り技が多様である。それらの攻撃技の防御ができていなければ、戦闘力を奪われるのは自明である。長丁場のトーナメント戦では、戦闘力が低下する(ダメージにより)。また、下段(ローキック)という地味ではあるが、確実に戦闘力を奪うような攻撃技の防御を想定していなければ、最強のチャンピオン(負けないチャンピオン)にはなれないのだ。また、トーナメント戦のような複数の敵を相手にする時は、戦いにおいてダメージを負わないようにすること。また、ダメージを負っても、それをカバーするような臨機応変(柔軟)な戦い方ができることが必要である。


今回、私はオランダの優勝を予測した。しかし言うまでもなく、100%の勝負予測などできない。もし、ドイツがオランダの強くて速い、デイフェンス&カウンター戦法をしのぎ、体力を消耗させれは、ドイツの勝利もあるだろう。一方、オランダも、自軍のフイジカルの強さを過信せず、守りを固め、その上で、ドイツの戦闘力をじわりじわりと奪えば、勝機は訪れるであろう。

さらに補足すれば、ドイツが今回の戦いで自軍の力を過信し、決勝戦において、「その時々において最善を尽くす」という戦いの原則を忘れるならば、勝利は相手の手中となるに違いない。


【蛇足ながら】
蛇足ながら、私が大好きなのはアルゼンチンのメッシだ(身体は小さいが、冷静沈着でサッカーが上手い)。勿論、アルゼンチンにも優勝の可能性がある。また現在の私には、サッカーを見たり、ブログを書く余裕はない。本日、2時間だけ、兵法の研究に時間を費やした。私は日頃、道場主の責任として、すべての時間を道場が良くなるように使わなければと思っている。しかし、私の道楽としての兵法研究だけは、大目に見て欲しい。