俺はまた粒子になったと思っていた。


しかし、俺が目を開けると前にパソコンが置いてあった。


最初は転送に失敗したと思っていたが、辺りを見回すと研究所ではない事に気付いた。


薄暗い部屋で、埃が溜まっている。


あまり使用されていない部屋のようだ。


ディスプレイの光が唯一辺りを照らしている。

「転送完了 電源を遮断します」とパソコンから音声が流れ、部屋を照らしていた光が失われた。


隣を見ると、綾瀬と恋が立っている。


「取り敢えず外に出よう」と綾瀬。


俺は恋と顔を見合わせ、綾瀬の言う通りこの部屋から出る事にした。


俺は扉の前に立った。


しかし、扉は開かない。


この世界の断片に自動扉は無いらしいな。


俺は扉に手を掛け、勢いよく扉を開けた。


「おぉ…」


よくわからない感嘆の声を上げた俺。


目前には広大な砂漠が広がっている。


遠くを見ると切り出された崖の上に燃え盛る火柱が見える。


すると恋は俺の手を取り、


「行きましょう、漸君、綾瀬ちゃん」


と可愛い笑顔で言った。


俺は自然と足を進める。


綾瀬も何かを呟きながらも足を進める。


さっきから俺の手を引く恋だが、俺と恋はそういう関係ではないぞ。


ただのクラスメートだ。


恋は俺に好意を抱いているらしい。


俺もそれには気づいている。


しかーし!


俺にそんな気は無い。


俺と付き合っても何もしてやれないし、きっと楽しくない。


第一釣り合わないだろうさ。


寺に住む奴とお嬢様だぜ?


お嬢様かつしっかりしている恋だ。


クラスと言わず、学校中のアイドル…いや、マドンナか。


そんな恋と俺がカレカノになってみろ。


学校中の野郎共に命を狙われる事になる。


想像するだけで寒気がする…。


恋は何もしていなくても何かしていても普通に可愛い。


それは男子は勿論、女子も思っている事だ。


それに、もう一つ恋には万人を惹きつける特長がある。


あんまり言いたくねぇんだけどよ…。


…知りたいか?


…仕方ねぇ…か。


それは…胸だ。


あぁ…言ってしまった…。


恋は年齢、そして華奢な身体には似合わない豊満なそれをお持ちである。


そのサイズは、半端ない。


詳しい情報はクラスの女子も知らない。


恋曰く、「トップシークレット」だそうだ。


くそ、誰か目測が得意な奴はいないのか?


……何だって? いやらしい?


ち、違うぞ!


俺は疚しい気持ちで言ったんじゃないぞ!


あんたも一回見てみるがいいさ!


あれは絶対サイズ知りたくなるって!


そんな豊満なそれをお持ちの恋様に手を引かれて歩いている俺。


良くない妄想が頭を過ぎる。


…駄目だ駄目だ!


俺は頭を激しく振り、雑念を忘却させる。


頭を垂れる俺。


そんな俺を恋が下から見上げる。


「…どうしたんですか?」


「い、いや…別に…」


くそ…恋の顔を見るとあの妄想が蘇る。


心配そうな顔もまたよい…。


「やっぱり…暑いですか?」


…ん?


そういえば…。


気付かない内に身体中から汗が吹き出している。


そりゃそうだよな。


俺らが今居る場所は砂漠のど真ん中。


日陰なんて無い。


太陽の光が痛いほど照りつける。


なんで今まで気付かなかったんだ…?


…何?


いやらしい妄想してたから?


……。


もうそれでいいよ…。


「やっぱり暑いですか…?」


「まぁな…どうにかなるのかこの暑さは…?」


「なりますよ」


恋は間髪入れずに、そして簡潔に言った。


まさかぁ…そんな事出来る訳…


「太陽の力宿りし光の魄 清らかなる水の力よ 我らを纏え」


恋が言霊を唱えた。手にはプレート。


すると俺らの周りを水が纏い、暑さを和らげ、涼しさを齎してくれた。


「涼しいですか?」


ああ…。忘れてた。


ここは地球じゃないんだった。


イメージと魄があれば何でも出来る世界なんだった。


「ありがとう恋。涼しいよ」


俺がそう言うと、恋の顔が綻んだ。


「はい…ありがとうございます!」


何に対して礼を言っているんだか…。


俺は何だか綾瀬の事が気になった。


「綾瀬?」


「…何だ?」


うわ、機嫌悪そう…。


俺はなるべく刺激しないように話しかけた。


「今はどこに向かっているんだ?」


「……」


綾瀬は無言で燃え盛る炎の方を指差した。


「あそこに確か創造士がいたはず。前に来た時はそうだった」


…何と無く棒読みに聞こえる。


しかし言いたい事は分かる。綾瀬の目で。


「私の前でベタベタするな」


ってオーラが嫌でも伝わって来る。


これからはなるべく触れないようにしよう…。


そんな事を思っていた。


その時、綾瀬の表情が強張った。


変化に気付いた俺は、綾瀬が見据える方向を見た。


砂漠の地表に何かが蠢いている。


何だありゃ…?


……影?


その影のようなものは地面から生えるように飛び出してきた。


狼のような形状をしている。


姿形はあるが、実体は無さそうなそんな生き物だった。


「綾瀬、あれは何だ?」


「魄獣。魄を失った生命の成れの果てさ」


魄獣…。


「気を付けろ、漸。魄獣は魄を持った者に襲い掛かってくる」


…おう。


俺は身構えた。


何処かに手頃な得物はないか?


俺は忘れていた。


プレートがある事に。


恋と綾瀬はパワーリジェクターからプレートを取り出し、言い放った。


「創造」


するとプレートが分解され、フォルムへと姿を変えた。


恋は似つかない大振りの剣、綾瀬は手の甲に紋章が浮かんでいる。


よし、俺も!


俺はパワーリジェクターに手を添え、プレートを出そうとした。


しかし、反応なし。


……。


電源入ってねェェェ!


くそ、俺としたことが大失態だ!


俺は起動の言葉を言った。


「真崎漸」


その時、俺は気付いていなかったが、魄獣の動きが鈍ったらしい。


恋はその隙を突いて、遠心力を加えた斬撃、綾瀬は手の甲に浮かび上がった紋章から鎖を射出し、思い切り魄獣に叩き付けた。


どっちとも痛そうだな…。


そんなこんなで、俺がパワーリジェクターの電源を入れた矢先に戦闘が終了した。


俺、出番無し。


…こっちに来てからまだ何もしてねぇぞ…。


「大丈夫だ」


綾瀬が言う。


何が大丈夫なんだよ?


「次は戦わせてあげるから」


……。


……ありがとう。


こうして俺は危機(?)を救われた。


女に救われるとは…。


カッコ悪ィな、俺…。