首相はそれから、核実験の禁止に始まる核兵器全面廃止のプロセスについて考えを語った。
伸一は全く同感であった。それは、彼が、かねてから強く主張してきたことでもあった。
首相の話に、喜びが込み上げてきた。
伸一は思った。
"中国も、核兵器の全面廃止が基本的な立場であると言明していた。したがって、ソ連も、中国も、同じ見解に立っていると言ってよい。それならば、核廃絶への世界の潮流をつくり出すことは、決して不可能ではないはずである"
伸一は、首相の話を受け、ソ連が核兵器の廃絶へ、積極的にイニシアチブ(主導権)を取るよう強く望み、こう訴えた。
「核廃絶を実現していくためには、各国、特に核保有国同士が、深い信頼関係で結ばれることが不可欠といえます。国と国とが相互に接触を図り、信頼関係を不断に積み重ねていくことが重要です。
根底に相互不信がある限り、核兵器の全廃などできようはずがないからです。その意味でも永続的な交流が必要です。それには、政治、経済の次元を超えた、文化、教育の交流が大事であるというのが、私の一貫した主張です」
不信を信頼へ------そこに、人間が共に栄えゆくための、最も重要なカギがある。
伸一は質問した。
「人類の未来には、今、テーマになりました核問題をはじめ、環境問題、食糧問題など、さまざまな難問が横たわっております。それらをふまえ、二十一世紀は明るいと見てよいでしょうか」
首相は答えた。
「私たちは、そう望んでいます。いえ、そうしなくてはなりません。もちろん、そのためには、人類は、これまでの営為それ自体を、再検討すべき時に来ていると思います」
「首相のおっしゃる通りです。大量生産、大量消費という文明の在り方も限界にきております。天然資源も決して無限ではありません。これまでと同じ考え方では、人類は完全に行き詰まってしまいます。したがって、自然と人間との調和を説く仏法の生命の哲理に、着目する必要があるというのが、私の主張なんです」
続いて伸一は、食糧問題に言及し、首相に提案した。
「戦争による難民、旱魃や洪水による飢餓に苦しむ人びとなどを救うために、たとえば『世界食糧銀行』ともいうべきものを設置してはどうでしょうか」
「大事な意見であると思います。しかし、食糧問題をどうするかという前に、人類はまず、戦争という考えを捨てなければいけません」
伸一は、首相の言葉に、平和への熱願と強い決意を感じた。
首相は、自らの信念を吐露するように、確信にあふれた声で語った。
「人間が戦争のための準備ではなく、平和のための準備をしていれば、武装に莫大な資金や労力を費やしたりせずに、多くの食糧を作ることができます。
食糧問題を解決する道は平和にあります」
指導者の言葉は重い。伸一は、コスイギン首相の「心」に触れた思いがした。