さかなクンでも知らない新鮮な魚のネタが入ったよ〜! | 研修医ノート

さかなクンでも知らない新鮮な魚のネタが入ったよ〜!

今日入った新鮮なネタは、超絶面白いネタだよ〜。

 

医師・薬剤師・栄養士あたりの「ちゃんと勉強している人」にとっては天地がひっくり返るほどの常識の非常識化・非常識の常識化が起こるブログ記事だよ〜。期待して読んでね。

 

じゃ、行くよ!

 

まずこれ↓。

これは1ヶ月くらい前に開催された米国生化学・分子生物学会議という学会で発表されたネタ。この学会のニュース扱いになってるから、価値ある学会発表と考えられているようです。

 

↑この学会発表の要旨は、「使い古した油をマウスに摂取させると、肝臓・大腸・脳に悪影響が出現し、その悪影響は摂取したマウスだけでなくそのマウスから生まれた仔マウスにも出現した。また、使い古した油の摂取により、コレステロール値、中性脂肪値、GOT値、GPT値、CRP値、LDH値が上昇し、RT-PCR検査では、抗酸化物質遺伝子SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)とGPX(グルタチオンペルオキシダーゼ)の発現が有意に増加していた(SODとGPXの発現が増加したということは、そのマウス個体が強度の酸化ストレスに晒された証拠。)」というエビデンスです。

 

↑この学会発表の要旨を一言で言うと、「使い古した油を摂取するとあらゆる臓器に超絶酸化ストレスかかって超絶体に悪い」ということです。

 

あなたは↑この学会ニュース見て、どう思いました?

 

「そりゃ、使い古した油は酸化した有害な油だから、体に悪いに決まってんじゃん!」って思いませんか?

 

僕もそう思いました。「なんでこんな使い古された常識みたいなエビデンスがわざわざ新規学会ニュース扱いになるのか?」と。

 

妙だと思いました。

 

↑この内容が学会ニュースになるということは、実は酸化脂肪酸の体への悪影響はまだ全然エビデンスが無えんじゃねえの?

 

↑この学会ニュースの通り、植物油が参加した場合は超絶体に悪いことには同意します。そんなの〜常識〜、タッタタラリラ!

 

では、よくお勉強された医者・薬剤師・栄養士あたりのあなたは↓この質問に答えられるでしょうか?

 

「魚の油は多価不飽和脂肪酸なので一価不飽和脂肪酸である植物の油よりもかなり酸化されやすいことが知られていますが、では古い魚、すなわち魚の干物は使い古された植物油と同等以上に超絶体に悪いのでしょうか?」

 

どうです? 答えられますか?

 

↑この質問に対する現在の医学の常識はこれ↓です。

ネット上の意見は、「干物は酸化脂肪酸を含むので体に悪い」「いや、体にええんじゃ!」という意見に二分されてますが、体にいいと言っている意見は科学的根拠が示されてなくて素人っぽく、体に悪いと言っている人たちは科学的に話してるので、今の常識は「干物は酸化脂肪酸を含むので体に悪い」であるようです。

 

天日干しが悪くて乾燥機で作った干物はええんじゃ!とい意見もありますが、それについては↓この通り、乾燥機で作った干物もちゃんと酸化します。

 

では、そのいかにも科学的に語られている「魚の干物は酸化脂肪酸を含むから体に悪い」という医学常識は本当に正しいのか?

 

そのことについて、実は5、6年くらい前に疑問に思ってpubmedで論文検索しまくったことがあります。

 

pubmed検索しまくって気づいたことは、「魚の干物が体に悪いというエビデンスは皆無である」こと。

 

魚の干物が本当に酸化脂肪酸によって発がん、血管梗塞、臓器障害、老化などのリスクを促進するのであれば、エビデンス皆無というのはありえないので、「こりゃ、実は魚の干物は体に悪くはないのかもしれん。このことはあとでまた調べよう。」と思ってました。

 

その後月日が流れ、つい先日、「使い古した油は超絶体に悪い」というエビデンスが学会ニュースとしてヤンヤヤンヤと持ち上げられているのを見て、「この現象はやっぱり妙だ」と思い直し、魚の干物が本当に体に悪いかどうかについてさっき再度調べてみました。

 

その調べた結果のミソがこれ↓。

吉野文彦,李昌一他: 電子スピン共鳴 (ESR) 法を用いた魚肉蒲鉾および魚肉ペプチドの抗酸化能評価. 第6回AOB研究会. 2006. 6, 札幌, 北海道.

この学会発表のミソとなるグラフがこちら↓。

「タンパク質の加水分解物であるペプチドには活性酸素除去能があり、魚肉ペプチドは特にその能力が大きい」という意味のグラフ。

 

ここであなたは思うだろう:「魚肉ペプチドの活性酸素除去能はわかった。しかし、さっきの↓このグラフの通り、長期間経過した干物はやっぱり酸化脂肪酸がかなり多く含まれてしまうのではないか?」と。

大学医学部教授も「干物には酸化脂肪酸が多く含まれるから細胞を傷つけて体に悪い」と言ってます。あなたの言う通り、現在はその意見が医学常識です。

 

そんな懐疑派のあなたには、↓このエビデンスを差し上げましょう。

「くさやという魚の干物は、生の干物の状態では大量に酸化脂肪酸を含むが、それを焼くと酸化脂肪酸が著しく減少する」というエビデンス。

この現象について、大学医学部教授は「くさや菌の発酵のせいだ」と言ってます↓が、、、

その理屈でいくと、生の干物の状態ですでに酸化脂肪酸が著明減少しているはずなので、↑この主張はおかしいですね。

 

ワタクシE.coliの見解では、↑この「干物を焼くと中に含まれている酸化脂肪酸が著しく減少する現象」はくさやだけに特徴的な現象ではなく、魚の干物一般に適用できる現象だと思います。

 

その理由はさっきの↓このグラフ。

魚の干物は塊です。塊の中に固定されて物理的に離れた状態であった酸化脂肪酸に対して、焼くことにより流動性を増したペプチドが物理的に近づいて抗酸化作用を及ぼすことができるようになることによって酸化脂肪酸が著明減少する現象が起きていると思います。

 

なので、焼く以外にも煮るでも同様の効果が得られるでしょうし、なんなら生の煮干しをよく噛むという作業でも酸化脂肪酸とペプチドを物理的に近づける作業になるので同様の現象が得られると思います。

 

ここまでをまとめると、魚の干物には確かに酸化脂肪酸が多く含まれるのも事実で、酸化脂肪酸が超絶体に悪いのも事実だが、干物を焼く・煮る・噛むなどの作業によりペプチドによる酸化ストレス除去作用が働いて酸化脂肪酸は無害な水酸化脂肪酸などの代謝物になるので、「魚の干物は超絶体に悪い」という医学常識は誤りで「実は魚の干物は体に悪くない」が正しいことになります。

 

はい、まずここで一つ常識の非常識化・非常識の常識化を解説しました。

 

でも目の肥えたこのブログの読者さんはこれだけでは満足しないでしょう?

 

一つのパンを与えられたら、それを右の頬にほおばって、さらに左の頬にほおばるパンも欲しがるでしょう?

 

そんな学習意欲満々のあなたに、さらにもう一つ、常識の非常識化・非常識の常識化を差し上げましょう。

 

これ↓です。

Journal of Japanese Biochemical Society 91(4): 492-499 (2019)

この論文は京都大学教授による総説(ある分野についての最新エビデンスをまとめた論文)です。

 

(昔から思ってるけど、東大とか京大の論文って本当に面白い論文多いよね。)

 

↑この論文の要旨は、「有害な酸化脂肪酸を無毒化した水酸化脂肪酸などの代謝産物は、脂肪合成抑制や血糖値改善やエネルギー消費亢進などのメタボ改善効果、ピロリ菌への抵抗力増加作用、歯肉・腸管保護作用、炎症抑制作用、腸管での免疫賦活作用など、ヒトの体にとって良い効果が目白押しである」というエビデンスです。

 

これ、すごくね?

 

「超絶体に悪い」扱いされるのが現在の医学常識である魚の干物が実は体に悪くないということで一度常識がひっくり返り、さらに実は魚の干物が体に良い効果が目白押しであるということでさらにもう一度常識がひっくり返りました。

 

いやー、長年の疑問がさっき調べてようやく晴れてスッキリしたわい。

 

そのお祝いに今夜はあなたも魚の干物で一杯やりませんか?