塩分に弱い臓器と高血圧に弱い臓器はビミョーに違うエビデンス | 研修医ノート

塩分に弱い臓器と高血圧に弱い臓器はビミョーに違うエビデンス

今日も張り切って行ってみよー、出来立てホヤホヤ医学論文シリーズ!

 

Genes & nutrition. 2024 Mar 15;19(1);6. pii: 6.

この先月出来立てホヤホヤの論文の趣旨は、「塩分をたくさん摂取すると、アルツハイマー型認知症になるリスクが54%増加する」というエビデンスです。

 

↑塩分が認知症リスクになるエビデンスはかなり前からいくつか論文↓出てます。

Faraco G, et al. Nat Neurosci2018;21:240-249

この論文のミソは、「塩分過剰摂取は腸管でのIL-17を増やす。IL-17は炎症を担当するサイトカインであり、その炎症により臓器への傷害効果が生まれ、認知症の原因になる。」というエビデンスです。

 

炎症による傷害なので、塩分の過剰摂取によるヒトの体への悪影響は、一時的効果ではなく、効果蓄積型の傷害であると考えられます。

 

そう考えると一見おかしな↓この論文の意味もわかります。

小原克彦.食塩摂取の認知に及ぼす影響に関する研究.第19巻・2013年度研究助成(2015年7月発行)

この論文は、「塩分摂取を制限している人の方が、高血圧リスクも認知症リスクも高かった」という一見不可思議なエビデンスです。

 

↑小原教授は「このパラドックスは、塩分制限している人はすでに高血圧を発病している傾向が強く、因果関係が逆になるためということで説明できる」としています。

 

↑この小原教授の研究からわかることは、やはり「塩分過剰摂取の悪影響は、一時的効果ではなく、効果蓄積型の傷害である」ということです。

 

で、そのことを踏まえた上で冒頭の↓このホヤホヤ論文読んでみたらさ、、、

Genes & nutrition. 2024 Mar 15;19(1);6. pii: 6.

この論文の本文には、アブストラクト(要約)部分に全然書いてない重要なことが書いてあんのよ。

 

それは、「塩分過剰摂取によって認知症リスクが54%増大する原因は認知症の原因となる遺伝子変異が蓄積していたから」というエビデンスなのよ。

 

え? 塩分過剰で遺伝子変異? つまり、塩が発ガン性あるっつーこと?

 

Br J Cancer . 2004 Jan 12;90(1):128-34.

確かに、塩分過剰摂取が胃癌のリスクを上げることは古くから知られている。

 

しかし、塩分過剰が脳に遺伝子変異攻撃するということは、他の臓器の発ガン性も上がるように思えるのだが、↓この通り、

Am J Clin Nutr . 2010 Feb;91(2):456-64.  

塩分過剰摂取は胃癌以外のガンの発ガン性はほとんど上げない(たった4%の増加)ようなのです。

 

しかし、↑このグラフをよく見ると、当たり前ですが、塩分過剰では循環器疾患のリスクは統計学的に有意に増加します。

 

で、ここで、↓この論文を見てくれ。

Hypertens Res . 2024 Jan;47(1):206-214.

この論文は、「日本人の30代40代の人の高い方の血圧が10mmHg上がると大腸ガン死亡リスクが43%上昇し、低い方の血圧が10mmHg上がると大腸ガン死亡リスクが86%上昇する。50代以上では発ガン増えず、胃癌、肺がん、肝細胞癌、膵癌では発ガン増えなかった。」というエビデンスです。

 

↑塩分による胃癌リスク激増、高血圧による大腸ガンリスク激増、というエビデンスを見ると塩分による発がん性と高血圧による発ガン性は別物っぽい。それぞれの攻撃が有効な臓器が違うから。

 

Hypertension . 2011 Jul;58(1):22-8.

「45歳から65歳の中年期に高血圧になってしまうと、老年期になってから血管性認知症になるリスクが5倍になる」というエビデンス。

 

ここまでのエビデンスをまとめると、「塩分摂取でアルツハイマー型認知症リスクが54%増加する。しかもその原因が遺伝子変異という発ガン性につながるもの。塩分では炎症サイトカインが増えて細胞障害する。塩分で発ガンリスク増えるのは胃癌。塩分では当然循環器リスク増える。塩分の循環器リスクの一つである高血圧は大腸ガンリスクを増やす。そして、高血圧はアルツハイマー型認知症は増やさないが、血管性認知症に後からなる。」ということ。

 

以上まとまると、塩分過剰の有害性はサイトカインによる直接傷害タイプの攻撃と、循環器リスクを介した間接傷害タイプの攻撃があり、そのどちらの攻撃ダメージも蓄積するタイプの被害となり、ダメージ蓄積がある一定値を超えたらそのダメージに弱い臓器がガンや認知症などを発病するということです。

 

ということで、このブログの読者は僕と同年代の中年の人が多いと思うので、残り数十年をダメージ蓄積背負った体で過ごさなくていいように、食塩を控えて(1日6グラム推奨)、高血圧を中年期に発症しないことが大事ということです。

 

くそ、なんか散逸なブログ記事になってしまったが、昼休みの情報収集ではこれが限界だ! ちょっとわかりにくい話だったかもしれんが、みんな、食塩過剰摂取と高血圧をうまく回避してくれ。