学力低すぎる節穴目の医者が多いことを見抜いた製薬企業がどんどんイカサマエビデンスを出し始めたぜ | 研修医ノート

学力低すぎる節穴目の医者が多いことを見抜いた製薬企業がどんどんイカサマエビデンスを出し始めたぜ

これまでこのブログや匿名医師PuuWiiDikiFaatの『ここがヘンだよ、医学の常識』のブログで、子宮頸がんワクチンやコロナ関連や薬剤耐性菌問題など様々な医学トピックについて、常識とされるエビデンスがいかにヘンな論拠に基づいているかを示してきました。

 

しかし、ヘンな論拠のエビデンス出してもそれをヘンだと見抜けない学力低い節穴目の医者がほとんどであることを見抜いた製薬企業たちが、もはやなんの恥じらいもなくどんどんイカサマエビデンス出し始めたぜ。

 

君ら坊ちゃん医者・嬢ちゃん医者の皆様方は製薬企業にどんだけバカにされれば気づけるんだ?

 

今日ご紹介するニュース記事は、あなたも年をとったらほぼ必発の変形性膝関節症についての記事。

 

↓このニュース記事は長いけど、すごく頭のいい医者が書いてるから、どっかの医者のおっさんのアンタは読む価値あるよ。しかし、長文読むのが苦手な人のために、下段に要約も書いておきましょう。

 

###ニュース記事引用ここから

 

↑このニュース記事のリンク先は医師会員専用です。

 

「ヒアルロン酸の後釜薬」の毒々しい話

政治や企業の都合で患者の膝関節にヤバ系は困る

 

2023年03月14日 17:53

543名の医師が参考になったと回答 

 

研究の背景:筋肉痙攣・痙直に保険適用されているA型ボツリヌス毒素

「酢豚の中のパイナップルが悩んでる。ここは自分の居場所なのか?」

 いきなり賛否両論のつかみから始めたが、今回紹介するのは「変形性膝関節症(OA)患者の関節はボツリヌス毒素の居場所なのか?」という論文である(JBJS Open Access 2023; 8: e22.00121)。

 ボツリヌス菌は1895年にソーセージで食中毒を起こす細菌として発見され、ラテン語でソーセージはボツルスと呼ばれることから命名された。この菌は神経毒であるボツリヌス毒素を分泌し、筋肉の麻痺を起こす。日本ではA型ボツリヌス毒素(商品名ボトックス)注射薬が、眼瞼痙攣、顔面痙攣、痙性斜頸、四肢痙縮、小児麻痺尖足、腋窩多汗症、斜視、痙攣性発声障害、過活動膀胱などの筋肉痙攣・痙直の治療法として保険適用されている。むしろ最近は、美容整形における自由診療である「しわ取り注射」の方が保険治療よりも有名となっているかも知れない。

 

研究のポイント:A型ボツリヌス毒素は膝OAの疼痛・機能スコアを改善

 取り上げたのは、膝OA患者に対するA型ボツリヌス毒素の関節内注射の有効性を検討した臨床試験6件(計446例)のシステマチックレビューおよびメタ解析で、インドネシアからの論文である。

 評価項目は、早期(注射後4週間以内)および晩期(注射後4週間超)におけるvisual analogue scale(VAS)疼痛スコアおよびWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)スコアである。

 解析の結果、A型ボツリヌス毒素の関節内注射はプラセボと比較して、早期(VASスコア:標準化平均差-0.63、P=0.007、I2=79%、WOMACスコア:同-0.84、P=0.03、I2=90%)および晩期(同-0.57、P=0.02、I2=81%、同-1.12、P=0.006、I2=93%)ともに有意に改善し、疼痛および機能の改善効果が示されたことになる。有害事象については、実薬群とプラセボ群に有意差はなかった。

 

私の考察1:臨床試験の選択法・標準化に明らかな欠陥

 この論文の「膝OA患者の関節はボツリヌス毒素の居場所である」という結論は、ほとんどの先生方にとっては予想外だと思う。

 しかしながら、この論文で解析された6件の臨床試験の選択法および標準化には明らかな欠陥がある。有意差が出た原因は、1つの不適切な中国の臨床試験(J Rehabil Med 2018; 50: 534-541)を入れたためである。この試験は注射の効果ではなく注射後の運動療法の効果を見たものである。かつ、単盲検試験で、全症例数も60例と統計学的解析が可能なサンプルサイズには達していない。

 今回解析対象となった6件中3件が二重盲検試験であるが、この3件では、早期・晩期ともにどの評価項目もプラセボとの間に有意差が付いていない。中でも最もエビデンスレベルの高いのは、米国のMcAlindon氏らによる176例の膝OA患者を対象としたプラセボ対照二重盲検試験であるが、この試験ではA型ボツリヌクス毒素の有効性は明確に否定されている(Osteoarthritis Cartilage 2018; 26: 1291-1299)。

 

私の考察2:敗色濃厚のヒアルロン酸に代わる関節内注射薬は焦眉の課題

 どうしてこのようなシステマチックレビュー・メタ解析論文が、一応は整形外科領域のトップジャーナルということになっているJBJSの査読を通ったのかは甚だ疑問であるが、「膝OA患者の関節はボツリヌス毒素の居場所ではない」というのが科学的に公正かつ当然の結論であろう。

 それでも、この論文を根拠として膝OAへのA型ボツリヌクス毒素注射を日本に導入しようという動きがある。その背景には、日本では膝OA治療の定番となっているヒアルロン酸(HA)関節内注射への逆風がある。近年、これまで盲信されてきたHA注射の効果を否定する報告が蓄積されてきた(関連記事「敗色濃厚、膝OAへのヒアルロン酸注射」)。

 決定打となったのは、昨年(2022年)のBMJに掲載された国際共同研究によるシステマチックレビューである(BMJ 2022; 378: e069722)。この論文では、①HA関節内注射の有効性(疼痛および機能)にプラセボとの差はなく、有害事象だけ増加している、②最近の厳密な試験になるほど臨床効果はなくなる―ことが高いエビデンスレベルで示されている。いまやHAに代わる関節内注射の開発は、日本のみならず世界のOA治療における焦眉の課題となっている。

 

私の考察3:よりヤバい関節内注射薬の国内導入

 A型ボツリヌス毒素がHAの後釜にはなりえないことは前述したが、実はよりヤバい関節内注射薬が日本に導入されようとしている。塩野義製薬は昨年8月に、グルネンタール社(サリドマイドやトラマドールで有名なドイツのメガファーマ)とresiniferatoxin関節内注射に関して法外な金額でのライセンス契約を結んだことをプレスリリースした。

 Resiniferatoxinはカプサイシン(トウガラシの主成分)の超強力なアナログである。カプサイシンの受容体TRP(Transient receptor potential:通称「トリップ」)V1は、さまざまな生理活性がある温度受容体として、2021年のノーベル生理学・医学賞受賞で世界中に知られるようになったTRPチャネルの1つであり、薬剤としてのresiniferatoxinは超強力なTRPV1アゴニストである。

 しかし、温度受容体どころの話ではない。resiniferatoxinはモロッコに生息するサボテンの活性成分で、トウガラシの1万倍、ハラペーニョの450万倍のからさを持つ。このプレスリリースには、「膝に投射する感覚神経の強い脱感作を起こし、感覚神経が膝から退縮することが作用機序となります」と明記されている。このメカニズムは、痛覚神経が麻痺または壊死することによって急速進行型変形性関節症(radidly progressive OA:RPOA)を起こすシャルコー関節(神経病性関節症)と同じである。

 最近では、tanezumab(抗NGF抗体)の皮下注射がRPOAおよび人工関節患者を増加させたことで開発が中止された(関連記事「『中身』を犠牲にしたOA治療薬はアリか?」)ことは記憶に新しいが、こんな「神経毒」をよりによって関節内に局所注射することによって起こるRPOAは、tanezumabの比ではないだろう。プレスリリースには「これまでの臨床試験において、プラセボ群と比べ有意な鎮痛効果が1回の投与で約半年間持続することが確認された」とあるが、痛みが取れたころには関節軟骨は破壊されて人工関節の適応になっているのではないか。

 その日本法人はさておき、tanezumabの開発を中止したグローバル企業(ファイザー、リリー)本体は、世界の健康を預かっているという姿勢を堅持している。しかしながら、塩野義製薬については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル(商品名ゾコーバ)の不可解で不透明な承認(関連記事「『高価なかぜ薬』緊急承認の不可解」)、および法外な薬価での上市(関連記事「ゾコーバ一般流通へ、1治療で5万円超に」)が記憶に新しく、製薬企業としての矜持を持って膝OA患者のためにフェアな開発ができるか疑問である。事実、エンシトレルビルの保険適用に関する中央社会保険医療協議会(中医協)総会では、委員からこの企業に対して「製薬企業としてのモラル」を疑問視する意見が出ている。

 現状での最大の懸念は、このプレスリリースに「現在、中等度から重度の膝OA患者を対象とした日本を含むグローバルPhase 3試験をグルネンタール社が実施中」と記載されていることである。参加した日本人患者の膝関節は大丈夫なのか。試験の前にアカデミーからの提言はなかったのか。

 

私の考察4:政治案件の割を食っている膝OA

 この塩野義製薬のプレスリリースがなされた昨年8月は、奇しくもエンシトレルビルの緊急承認の申請中、かつ政府の100万人分の追加買い上げ検討中の時期と一致する。また、グルネンタール社は前述のようにサリドマイドの会社であり、昔から日本の薬事行政とは関係が深い。私のお得意の「陰謀論」を駆使すると、政治案件に膝OAが利用されて患者が犠牲になる、という邪推が拭い切れない。

 私の陰謀論は時を駆ける。2010年8月にジェンザイム・ジャパン(当時)と帝人ファーマが、HAを架橋処理して高分子化したHA製剤サイビスク注射についてのプレスリリースをした。既に同年7月にジェンザイム・ジャパンが製造承認を取得して、帝人ファーマが販売ライセンス契約を結んだ、という内容である。問題はこのサイビスクは「国内治験ゼロ」で承認された、ということである。

 私はこのころ、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の専門委員で、他の省庁から厚生労働省への圧力があったことを聞いたが、当時はまだ東大の教授になるつもりでいたので大人しくしていた。また、民主党政権時代だったので、厚労省内部は面倒くさいキャラの長妻昭大臣の顔色をうかがうのに精いっぱいで、大きな異論も出なかった気がする。シレっと承認されて上市した結果、架橋体物質の異物反応による関節炎が多発したという結末である。このときも、政治案件に膝OAが利用されてしわ寄せは患者が被った、ということである。

 どうも日本のOA領域は政治案件の割を食っているという印象が拭い切れない。医療の3本柱である「産・官・学」のうち、「学」が軽視されて「産・官」で決められるチョロい領域であると侮蔑されている気がする。

 昨年、日本感染症学会と日本化学療法学会がエンシトレルビルの緊急承認を求める要望書を厚労大臣宛てに出して大顰蹙を買ったが、あれは利益相反を開示せずに提出というチョンボのためである。最低限のルールさえ守っていれば、学会はもっと積極的に学術的な見解を医療行政にアピールすべきであろう。

 個人の嗜好で酢豚にパイナップルを入れるのは一向に構わないが、政治や企業の都合で患者の膝関節にヤバ系を入れられるのは困る。

 

###ニュース引用ここまで

 

長い文章を読むのが苦手な人のために、↑このニュース記事を要約すると、「ヒアルロン酸の膝注射が今流行ってるけどさ、全然効かないエビデンスのはずのボツリヌス毒素がインチキ加工されて『ボツリヌス毒素が膝注射に効く』というエビデンスにすり替わり、新薬になろうとしている。もっとひどいのは、塩野義製薬がresiniferatoxinの販売開始を進めようとしていること。この薬はぶっちゃけると『膝に注射してしばらく痛覚麻痺させる薬』で、痛覚麻痺させるだけで変形性膝関節症の進行防止効果はゼロなので、痛覚麻痺した患者が膝保護を怠って膝関節破壊されて、こりゃ人工膝関節手術が爆増するわい。」ということです。

 

↑このようにインチキエビデンスをインチキと見抜けない医者がほとんどだと見抜いた製薬企業は、あなたとあなたの大切な人たちの命と健康を破壊して大量のゼニを儲ける算段に抜かりないですぜ、親分。

 

↑このニュース記事書いた川口浩という整形外科医は、東大医学部の先輩で、やっぱ東大には優秀な医者がいるなあと思っていたら、彼は↓こんなダメ記事も書いてて噴飯した。長文読むのが苦手な人のために、下段に要約書きます。

 

###ニュース記事引用ここから

 

↑リンク先は医師専用記事。

 

敗色濃厚、膝OAへのヒアルロン酸注射

余話として私と医師会の「言行不一致」

 

2022年08月09日 17:22

1820名の医師が参考になったと回答 

 

研究の背景:有効性が危うい上に安全性でも問題浮上

 私は「言行不一致」の人間である。主張通りの行動をするような単純な人生など真っ平ゴメンである。主張と行動のギャップで苦悶することは、人間として成熟するための研鑽だと思っていたが、最近は快感に変わってきた。というわけで、今でもヒアルロン酸を患者の膝に打ちまくっている。

 変形性膝関節症(膝OA)の50歳以上の国内有病率は男性44.6%、女性66.0%に上る(東京大学ROADスタディ)。国内外を問わず整形外科のメジャー疾患であり、その治療法の開発は国際的な課題である。しかしながら、現在世界中で上市されているOA治療薬は、鎮痛を主とした対症療法(symptom modification)のみであり、関節軟骨を保護・修復する原因療法(structure modification)は存在しない。この点が、骨粗鬆症や関節リウマチ(RA)との違いである。

 さて、ステロイドやヒアルロン酸の関節内注射は代表的なOA治療法である。ステロイド関節内注射薬の適応症は「関節炎」のみで「OA」には認められていないため、炎症や水腫のある急性期OAに限定して用いられている。

 一方、ヒアルロン酸関節内注射薬は人工関節になるまでの慢性期に長期に汎用されており、日本では膝OA治療の主役である。事実、ヒアルロン酸関節内注射薬は「OA」の適応症名で承認を受けており、現在、アルツ(科研製薬)、スベニール(中外製薬)、サイビスク(サノフィ)、ジョイクル(小野薬品)の4種類が上市されている(いずれも商品名、)。当然、これらが関節軟骨に対する原因療法を示すエビデンスはゼロである。では、対症療法としてはどうか。残念ながらこのエビデンスも怪しいと言わざるをえない。

 

 まず、アルツスベニールはともに国内開発製品であるが、承認時期はそれぞれ1987年と2000年、すなわち厚生労働省に医薬品医療機器総合機構(PMDA)が設立された2004年より前である。治験指導、適合性調査、承認審査のどれもルールが存在しない状況で上市されている。治験ではいずれも、100~200例程度の患者を実薬群と0.01%希釈群の2群に分けて比較を行っているが、群間ブラインド化も怪しい。一応、患者による定性的な包括的評価(Patient's Global Assessment:PGA)に有意差があったという理由で承認されている。

 一方、サイビスクは輸入品の高分子ヒアルロン酸架橋体製剤であるが、なんと「国内治験なし」で2010年に製造承認されている。この経緯について書くとエンドレスになるのでここでは控えるが、貿易不均衡による通商摩擦がヒートアップしている最中の承認である。厚労省は外部の一流省庁からの圧力には弱いんですよ。適応症名を「膝OA」ではなく、「保存的非薬物治療及び経口薬物治療が十分奏効しない疼痛を有する膝OA患者の疼痛緩和」という意味不明なものにしたことがPMDAの精一杯の抵抗か。バチが当たって(?)、発売後は架橋蛋白に対する異物反応による関節炎が頻発していまや市場から消滅寸前である。

 ジョイクルはヒアルロン酸にジクロフェナク(ボルタレン)を化学結合した国内開発製品であり、昨年(2021年)3月に「膝OA」の適応症で承認・発売された。同薬については、既にこの連載でディスって友だちをたくさん失った(関連記事「ウェブ講演会の"感染性"と"毒性"」)。

 どうせ友だちが少ないのであえて繰り返すと、前臨床試験は関節疼痛・関節炎動物モデル(RAモデル)だけで、OAモデルの検討はゼロである。用量反応試験も医療統計学的な国際標準レベルに達していない。有効性についても、既存のヒアルロン酸製剤を上回る臨床効果は示されておらず、長期の持続効果は期待できない。唯一の利点は、投与間隔が既存のヒアルロン酸製剤よりも延びた(1週間→1カ月)ことにより、患者負担の軽減が期待できる点であった。

 しかし周知のように、市販後のアナフィラキシーショック症例の頻発によって、PMDAは発売後3カ月でブルーレターを発出した(関連記事「DF-HA関節注、アナフィラキシーの詳細」)。アレルゲンとしては、添加剤として加えてあるPEG(ポリエチレングリコール:マクロゴール)の可能性が指摘されているが、これは新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンのアレルゲンと同じである。しかし、全国の接種現場で最大限の警戒体制を取っているmRNAワクチンのアナフィラキシーショックの頻度は約0.0002~0.0005%(ファイザー製:4.7例/100万例、モデルナ製:2.8例/100万例)とされているのに対し、ジョイクルは0.2~0.5%(P3治験:1例/220例、市販後:10例/5,500例)と約1,000倍である。エピペンもボスミンも常備していない整形外科個人クリニックでの対応は難しいだろう。

 現在、メーカーは積極的な販売は中止し、名古屋大学臨床研究審査委員会が原因解明の研究に着手している。

 さて、ヒアルロン酸関節内注射薬のOA臨床症状に対する効果については、国外でも多くの報告がある。結果はマチマチであるが、どれも十分なエビデンスレベルには達していない。今回紹介する論文は、これらの中から大規模プラセボ対照試験(各群被験者100例以上)のみを対象としたシステマチックレビューとメタ解析である(BMJ 2022; 378: e069722)。研究者らの所属は、カナダ、英国、スイス、中国などで、国際共同研究といえる。

 

研究のポイント:臨床効果はプラセボと差なく、重篤な有害事象のリスクが増加

 研究グループは、膝OA患者に対するヒアルロン酸関節内注射薬の有効性と安全性を評価するため、Medline、EMBASE、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)のデータベースで、各文献創刊~2021年9月11日に発表されたものついて検索した。また、灰色文献(grey literature)と試験レジストリで未発表試験を特定した。要約結果は、ランダム効果メタ解析モデルにより入手し、ランダム効果モデル下で累積メタ解析と逐次解析を行った。

 主要アウトカムは疼痛強度パラメータ、副次アウトカムは機能パラメータおよび重篤な有害事象とした。疼痛強度と機能は標準化平均差(SMD:効果サイズの指標)で解析し、臨床的に意味のある群間最小差はSMD-0.37とした。重篤な有害事象は相対リスクで解析した。

 全169試験(2万1,163例)が特定されたが、疼痛および機能について、いずれも小規模試験効果と出版バイアスが見られた(Egger検定によりP<0.001、Funnel Plot非対称)。24件の大規模プラセボ対照試験(8,997例)を解析したところ、ヒアルロン酸関節内注射薬群はプラセボ群と比較して疼痛強度パラメータの臨床的意味のある群間最小差に達しなかった(SMD -0.08、95%CI-0.15~-0.02mm)。visual analogue scal(VAS)でも群間スコア差は-2.0 mm(95%CI-3.8~-0.5mm)にすぎなかった。また、2009年以降の疼痛試験を逐次解析したところ、両群間の差はほとんど見られなくなった。

 同様の結果は、機能パラメータについても確認された。重篤な有害事象リスクは、15の大規模プラセボ対照試験(6,462例)において、ヒアルロン酸関節内注射薬群がプラセボ群よりも統計学的に有意に高いことが認められた(相対リスク1.49、95%CI 1.12~1.98)。

 研究者らは「膝OAに対するヒアルロン酸関節内注射薬の臨床効果はプラセボと大差がない、という強力で決定的なエビデンスが示された。また、重篤な有害事象のリスク増加と関連することも示された。今回の検討結果は、膝OAに対するヒアルロン酸関節内注射薬の多用を支持しないものであった」と結論している。

 

私の考察:最近の試験になるほど臨床効果は否定的に

 この国際共同研究以前におけるヒアルロン酸関節内注射薬の臨床的効果(疼痛と機能)に関するシステマチックレビューとメタ解析としては、2012年に発表された欧州連合(EU)諸国の共同研究が有名である(Ann Intern Med 2012; 157: 180-191)。

 この論文でヒアルロン酸関節内注射薬は、2012年1月までに特定した全71試験(9,617例)で効果サイズがSMD -0.37(95%CI -0.46~-0.28)という中程度の有効性を示した。しかしながら、対象の研究を大規模プラセボ対照試験(18試験・5,094例)に絞ると、SMD -0.11(95%CI -0.18~-0.04)に減少し、臨床的意味のある群間最小差に達しなかった。一方、重篤な有害事象リスクは、14の大規模プラセボ対照試験(3,667例)において、ヒアルロン酸関節内注射薬群がプラセボ群よりも有意に高いことが示された(相対リスク1.41、95%CI 1.02~1.97)。すなわち、今回の最新の国際共同研究は、有効性、安全性ともにこの10年前のネガティブな結果を再現したことになる。

 この2件のシステマチックレビューとメタ解析の論文から、厳密性が増した最近の試験になるほど、ヒアルロン酸関節内注射薬の臨床効果は否定的になる国際コンセンサスが得られたといえるだろう。すなわち、その有効性については年々旗色が悪くなる一方である。ただ、有害事象については、海外ではヒアルロン酸として高分子ヒアルロン酸架橋体製剤(サイビスク)が多く使われているため、非架橋ヒアルロン酸(アルツ、スベニール)が主流の日本の実情にはそのまま当てはまらないかもしれない。

 

余話:「言行不一致」にならざるをえない事情がある

 国民医療費の無駄遣いの元凶である「効かない薬、不要な手術」は可及的早急に駆逐すべきである。また、選挙の大票田である高齢者医療の偏重も大きな問題である(関連記事「ウィズ借金の時代に消えてほしい薬」「"無駄な手術"が看過される時代の終焉」「巨大市場"痛み医療"の変革を」)。しかし、われわれ整形外科医はこれらの恩恵にあずかっていることは否定できない。

 というわけで、私がプラセボ効果ではないかという強い疑念を抱きながらも「言行不一致」でヒアルロン酸を患者の膝に打ちまくっている間に、コロナの7回目の大波がやってきた。今回に関しては、さすがの政府も定番の金太郎飴的「行動制限」をして経済活動を止めるつもりはない。今さらやっと重い腰を上げて、感染症法上の類型見直しの議論を始めたようだ。そもそも、二類相当指定の下で、感染対策の軸である医療体制の維持と経済活動を両立させるなど100%不可能なことは当初から分かり切っていたはずである。後藤茂之厚生労働大臣がこの期に及んでも引き下げの否定根拠としている「伝家の宝刀の特措法上措置」だが、功を奏したというエビデンスはどこにあるのか。

 コロナ前から日本の医療者は、どんな感染症に対しても標準予防策の基本知識と経験があり、それにのっとって対応をしてきた。整形外科だって、季節性インフルエンザ患者に対して感染防御策を徹底してきた。しかしながら、医療の素養も現場経験も乏しい厚労官僚は医療現場を侮って、コロナを二類相当から頑なに外さなかった。その結果、医学的根拠とは別の法制上の制限によって、医療現場の受け入れ態勢や患者対応が過剰に束縛されてきた。これまでに起こってきた医療逼迫・医療崩壊は、この「人災」によるところが大きいことはいうまでもない(関連記事「新型コロナを二類感染症から解除すべき」)。

 感染症法の類型引き下げについて、私はずっと「ボールは医療側に投げられている」と主張してきた。少なくとも医師会は「五類に引き下げた場合の医療供給体制の拡大」についての会員調査を行って、その結果を行政に提示すべきであった。非科学的な法制上の束縛が緩めば、意識も見識も高い多くの医師会員の先生方が患者の受け入れに手を挙げてくれたと思う。最近になって、痺れを切らした全国知事会が日本医師会の松本吉郎会長に五類への引き下げを政府に提言することを要望している。

 「国民の健康を守る」と公言している医師会は、指定医療機関にこだわらず、物理的に可能な一般医療機関によるオールジャパンでのコロナ対応を指揮するのが本スジである。しかしながら、医師会には五類への引き下げに躊躇する「オトナの事情」がある。五類に引き下げると、医療機関への多種多様の「コロナ補助金」「コロナ加算」「ワクチン補助金」はなくなる。患者への全額公費負担もなくなる。結果、自己負担を避ける軽症患者の受診控えが増えると、一部の病院でいまも続いている軽症者を寝かしておくだけのドル箱ベッドが埋まらなくなる。医師会は、「国民の健康」とともに「開業医の既得権益」も守らなければならないのだ。

 コロナの前から行政は「効率化」の名の下に、医療をギリギリのところでやっと回るレベルまで締め付けてきた。そこに図らずも「二類のコロナ」が降臨した。日本の医療機関の8割は民間である。医療が儲からなければ国民は健康にならない。「言行不一致」にならざるを得ないのは、私だけではないのだ。

 

###ニュース記事引用ここまで

 

長い文章を読むのが苦手な人のために↑このニュースを要約すると、「信頼できるシステマティックレビューやメタ解析というエビデンスレベルの高いエビデンスで『ヒアルロン酸の関節注射が変形性膝関節症に効かない』と言ってるから、オレも効かないと思う。でも毎日ヒアルロン酸注射しまくっている。」ということ。

 

うわー! ダメだこの川口浩という医者。

 

東大医学部卒でこれほど頭脳明晰な分析ができる人でも、エビデンスをちゃんと読めないのか! うわー!

 

この「ヒアルロン酸は変形性膝関節症に効かねえんじゃね?」問題の発端は、2013年6月4日に米国整形外科学会が「ヒアルロン酸が変形性膝関節症に効かないエビデンス出たから、やっぱ効かないってことだろ。もう学会としてはヒアルロン酸注射を推奨しません」と意見変更したことに始まります。

 

2013年当時、この米国整形外科学会の意見変更の論拠となった論文読んで、「あー、こりゃインチキ論文だな。これを見抜けないとは、アメリカの医者はバカばっかだな。」と思ったが、まさかその後このインチキ具合をこの2023年まで誰も見抜けないとは思ってなかったので、放置していました。

 

何がインチキなんだ?と怪訝に思うあなたは、ヒアルロン酸注射の変形性膝関節症への有効性を検証した↓これらの疫学研究の例をいくつか見てくれ。そのインチキぶりは一目瞭然だぞ。

 

 

 

な? わかっただろ? ヒアルロン酸の膝注射の有効性を検証したエビデンスのインチキぶりが。

 

なぬ? わからんだと?

 

おいおい、そんなどっかの医者のアンタはまず急いで↓この過去ブログ記事を読んで、エビデンスやデータのウソを見抜く眼力を身につけてくれ。

 

医者のアンタが節穴目のあほんだらだと、アンタだけじゃなくて、市民全員が困るんだよ。節穴目の医者が全体のほとんどを占めると、製薬企業はインチキエビデンスをどんどん調子に乗ってでっち上げるからな。

 

↑ここに示したように、現在まで世界で積み上げられたヒアルロン酸注射の有効性検証の疫学研究には、致命的な欠陥があります。

 

それは研究デザインの欠陥です。

 

これまで出された「信用に足りうる」と評価されているヒアルロン酸注射の研究さ、だいたい全部「ヒアルロン酸を膝関節に1回から数回、毎週投与して、その後半年くらいなーんも注射せずに、半年間症状がよくなってるか悪くなってるか検証する」という研究デザインなのよ。

 

ヒアルロン酸は膝関節にとって、健常性を保つための消耗品の物質です。消耗品を最初の数週間だけ投与して、その消耗品はどんなに長くても数週間しかもたないのにさ、なーんも消耗品の補給しないまま長期間観察したら、そりゃ「あんまり有効じゃありませんでした」っつーエビデンス出るに決まってんだろ?

 

この研究デザインさ、「ハラヘッタ子供達を集めて最初の数週間は水と食べ物を与えたが、残りの数ヶ月は何も与えなかった。半年くらい観察したら、最初に水や食べ物をあげようがあげまいが餓死する割合に差がなかったから、水と食べ物は餓死予防に有効ではなかった」っつーこと言ってるエビデンスですよ。

 

アホですか、アメリカのお医者様の皆様方は? こんなインチキエビデンスのインチキぶりに気づけないなんて、キチガイだろ、オマエら?

 

このように、有用な薬剤はどんどん世の中から消えて行き、クソみたいな薬剤がどんどん世の中に出てくる流れに最近なっています。

 

アニメ『サイコパス』シリーズは、近未来のやたらと現実味ある予測を描くのが得意な虚淵玄が原作ですが、その2シリーズ目の『サイコパス2』の中で、「古い薬を使えば適切に治療できるはずが、新しい不適切な薬を使うことを社会から強いられているためにみんな治療がうまくいかなくなっている近未来世界」の描写があります。

 

サイコパス2が放送された2014年には、僕はその兆候に気づいていませんでしたが、最近の製薬業界の流れは残念ながら虚淵玄の予測通りの近未来世界に向かっていて、彼の予知能力の高さには驚かされますね。