盛んに医療態勢の逼迫・医療崩壊の危機を訴えておられる東京都医師会尾崎会長が、テレビに出演され、「メルケルさんのようにリーダーがしっかり国民、都民に訴える時期がもう来ている。ぜひお願いしたい」と訴えられたと報じられている(東京都医師会会長・尾崎氏 菅首相にお願い「今、本当に切羽詰まっているということを訴えかけて」)。

 

私もそう思う。ただし、その内容は、尾崎氏やマスコミがイメージするものとはおそらくだいぶ違っている。

 

そこで、仮に私がスピーチ・ライターであったとしたら、菅総理に語ってもらいたいことを書いてみた。

国民に伝えなければならないことの数々。今起きていること、なぜそれが起きているのか、そして今後について。正直に、魂を込めて。

 

 

「今、多くの国民の方々に、とても多くの不便をお掛けしています。

 特に、お子さんやお孫さん、ご家族と会えずに孤独な療養生活を送っていらっしゃる病院入院中の方々・施設入所中の高齢者の方々。

政府や自治体の呼びかけ、またGoToキャンペーンの突然の全国一斉停止により営業上のご不便やご迷惑をおかけし、そのことによって苦境に立たれておられる飲食業、宿泊業などのサービス業の方々、そしてそこで働かれている多くの従業員の方々。

 

 また、心からのお礼を申し上げなければなりません。

過重な負担に耐えながら、重症者の方の治療・看護に当たられている医療従事者の方々には衷心より感謝を申し上げます。

 

 さて、今このとき、私は正直に申し上げなければなりません。今、日本の本当の状況はどのようなものであり、なぜ今、このような混乱がおきてしまっているのか。そして、どのようなことを国民の皆様方にお願いしなければならないのか。

 

 まず、日本の現状です。日本には3ヶ月ほどの周期をおいて感染の波が訪れています。これは実は隣国、韓国と同じです。また、ヨーロッパ諸国においても、日本に先んじて訪れる寒い季節の到来と共に、第2波が訪れ、未だに収束はしていません。

したがって、マスコミや野党の皆さんが訴えるGoToキャンペーンと感染の拡大は、おそらくはあまり関係がないものと考えています。ただし、感染拡大時期において人の移動を積極的に広げることについて、抵抗感のある方もおられるでしょう。

このため、今回はいったん停止をさせていただくことにしたのです。

 

 私たちの政権が、そもそもGoToキャンペーンをさせていただいたことには2つの理由がありました。

その1つは、日本の感染状況は、実のところ欧米など諸外国に比較すれば大変少ない状況で推移してきたからです。今現在においても、100万人あたりの新規陽性者数はドイツ286人、イギリス398人、アメリカ571人に対し、日本は23人。10分の1程度にとどまっています。

100万人あたりの重症者数も16〜4分の1程度。

実は日本は、感染症の蔓延という点に関しては、欧米に比べて格段に少ないダメージしか受けてこなかったのです。

したがって、経済を通常の状態に戻すチャンスに恵まれていたのです。

 

(Worldometer12月19日データより青山まさゆき事務所作成)

 

もう一つの理由は、日本においてサービス業に従事している労働者の割合が22%と欧米諸国に比べても多く、このままの状態を放置しておけば、中小事業者を中心として倒産、廃業が相次ぎ、それが多くの労働者の方の失業や収入減に直結し、新型コロナウイルスのリスクそのものは低い多くの方たちに多大な影響が及ぶこと、そしてその影響で命が失われる方も増えるとの強い懸念があったからです。

 

 さて、GoToキャンペーンとの相関関係の問題はさておいても、現在のいわゆる第3波が起きていることへの対処はしなければなりません。そこで大きな問題となっているのが、医療の逼迫、医療崩壊への懸念です。ではなぜ春先にも、そして今現在においても欧米に比べれば圧倒的に少ない陽性者数、重症者数しか存在しない我が国において、医療崩壊への警告がなされてきているのでしょうか?

 

この点につきましては、国民の皆様に心よりの謝罪を申し上げなければなりません。その原因は、実は新型コロナウイルスなのではありません。10年以上、病院勤務医不足・看護師不足は叫ばれ続けてきたのです。しかし、医療者の受給の将来見通しや、私たちの支持団体である医師会などの意向を配慮して、病院勤務医不足の解決策である医学部定員増はわずかしか行ってきませんでしたし、看護師不足にも有効な手立てを打つことができていませんでした。

 

私たちの落ち度はそれだけではありません。

ドイツでは、2012年にパンデミックについてのリスク・シナリオが立てられ、それに対応するために着々と準備を行い、ICU病床などの整備を行ってきたため、日本をはるかに上回る数の自国患者に余裕で対応しただけではなく、他国の患者まで受け入れを行ってきたのです。

ところが、日本では、都道府県の間に見えない壁があるかのごとく、同じ日本国内でさえ都道府県の境を越えて患者を相互に受け入れることさえできていないのです。

そして、スウェーデンで行われているような、同一地域の病院で、垣根を取り払ってある病院は専門病院とし、他の病院はその病院の患者を引き受ける、といった柔軟な対応を取ることも出来ていません。

 

こういった、課題の放置、パンデミックへの備えの欠如、縦割り行政に類似した自治体間の壁、医療機関相互の調整を図るシステムの欠落などにより、ガラスの城のように脆い医療システムになっていたことが、医療崩壊への懸念を招いている真の原因であったのです。

 

 そのような真の原因は放置したままで、医療崩壊を防ぐために、国民の皆様に対し、外出や営業の自由という憲法上保障された権利を制限するようなお願いをしてきたことを深くお詫びすると共に、真の問題点について全力を挙げて改善に向けた努力をすることをお誓い申し上げます。

またその改善は、今後あり得るウイルス変異などで、日本の陽性者・重症者数が欧米並みになることに備えるためにも必要なことであり、今のうちに全力を挙げて準備いたして参ります。

 

その上で、国民の皆様方に置かれましては、人の密集し、換気が不十分な場所におけるマスク着用、また、頻繁な手洗いとうがい、免疫力の基礎となる体力を維持するための規則正しい生活を今しばらく続けていただきたいと存じます。

そして、英米などで先行して接種が始まっているワクチンにつき、特に重大な副反応がみられず、かつその有効性が期待どおりのものであるとご判断された場合には、リスクの高い高齢者や持病をお持ちの方におかれては、あくまで自己判断の上接種を検討していただきたいと存じます。

 

また、報道機関などを含め国民の皆様全体へのお願いとして、単に新型コロナウイルスの恐怖ばかりを思い描くのではなく、例えば2月から6月の時期は致死率が5%であったものが、直近では0.5%にまで低下している事実など、この疾患の現実の姿を改めて検証していただきたいと思います。

もちろん、その検証をするに必要な出来るだけのデータ開示を、各自治体にもお願いして政府が一丸となって進めて参ります。

 

 最後にもう一つだけ、どうしても申し上げておかねばならないことがあります。

新型コロナウイルスに対する医療その他諸方面の対策及経済的困窮についての対策として、2020年は政府として膨大な資金を使うことが出来ましたし、これから予算が審議される2021年も同様となるでしょう。国民の皆様の苦境に対し、出来るだけの財政支出をしてこれを和らげていくことが、今喫緊の課題であり、政治として最優先としなければならないところだからです。

しかしながら、これは私たちが近年、財政的に最悪な状況であったので財政ファイナンスを始めたからできたことであり、赤字国債の発行を気にしなくなったことによるものです。ですから、現在、日本の借金比率はG7だけでなく世界中で最も多いのです。

しかし、この赤字国債の累積は、少なくとも将来の財政の手足をきつく縛るものになります。

 

 将来への重い、極めて重い負担を残しつつ、今の苦難を救っていく、その相矛盾した政策を取ることについて、政治家として深い苦悩をもって決断していくものであるということを国民の皆様にお伝えし、そのすべてを私の責任として背負っていく覚悟であることもまた申し上げ、結びとさせていただきます。」