政府の様々な対策の評判がもう一つだ。

今までの政策については、それなりに良いものも多かったが、にもかかわらず評判が悪かった最大の理由は、政策の中身にあったのではない。細部において、何がなんでも「政策目的を完遂する」との魂がこもっていなかったからだ。

 

例えば、布マスク配布にしても、「飛沫による感染拡大防止のために100%の皆さんに着用していただきたい。今できることは生産能力からしてこれが全てなのです」と首相あるいは厚労大臣が心を込めて訴えて公表していれば違った受け取り方がされたはず。


入国者・帰国者に対する自宅待機・施設待機ならびに公共交通機関不使用の要請も同じ。法的強制力もなく、対象者にただ「お願い」をするだけで、空港から遠隔地にお住まいの方に対して、ホテルの斡旋や交通手段の提供すらしなかった。

対象となった方たちは、受け入れ先など容易に見つかるはずもない中、自分でホテルを探さなければならなかった。しかも自費。そこまでの交通手段は徒歩だ。本気で待機してもらいたければ、費用の負担について相談(国が負担できないのであれせめて立替、後日分割払いなど)するだけでなく、交通手段やホテルの斡旋を行うのは当然。私だったらそこまでやる。

 

細部に神は宿る。

様々な経済的支援制度も同じだ。

困っている人に、利用してもらおう、助かってもらおうという熱意に欠けるような広報しか行われず、見かねた政治的にニュートラルな普通の人々が、自作のわかりやすいツールで広報を買って出る始末であった(「108兆円経済対策時にやっていただきたいこと」)

 

さて、ここからが本題。

4月7日に閣議決定され、今後審議される補正予算がその裏付けとなる緊急経済対策の目玉とも言える1世帯30万円の現金給付。

政府は、これに厳しい要件を付しているが、これは間違いだと言わざるを得ない。既に国民に不満が渦巻き、巨額の予算を投ずる施策に感謝の声も聞かれない。

なぜその間違いが起きているかといえば、その目的を「経済対策」と捉えているからだ。

そうではない。これは究極の「感染拡大防止策」なのである。外出自粛を要請するのはいいが、自粛は、国民のかなりの方々にとっては、イコール生活の糧を奪われることを意味する。

休業要請だけがあり、休業補償がないことも同じだ。

庶民にとって、外出自粛や休業要請は「危険を避けるために水の中に潜って息をするな」と言われているに等しい。

であるならば、安心して水に潜っていられるよう「酸素ボンベ」を一人一人に届ける、そこに本当の政策目的を置くべきなのだ。

 

このことを正しく見抜いたジョンソン首相は、全国民に宛てた手紙(「ボリス・ジョンソンからの飾りのない、しかし心に響く手紙」)

で、国民に対し、「「家にいなければならない」というシンプルな指示」について述べ「これらのルールは守られるべきものです。」とした上で、

「あなたやあなたのご家族に対する経済的な影響を深く心配されているだろう方が多くいらっしゃることは承知しています。政府はあなたが家計のやりくりをし、食卓に食べ物を並べるのを助けるために必要なことはなんでもするでしょう。」と述べている。そして、イギリスはその言葉どおり雇用を維持する企業にその給与の8割(最大33万円まで)を補助している。

 

外出自粛(イギリスの場合は強制力を持った外出禁止)を国民にお願いする代わりに、国民に対し、「必要なことはなんでもする」と約束し、だから国民は政府を信頼してこれに従っているのである。

 

翻って我が国の今度の対策はどうか。

支給する金額をみれば、我が国の「30万円給付策」もイギリスと遜色はない。しかし、そこに課された制限の複雑さとハードルの高さが、国民の怒りを呼んでいる。

そして怒りは分断を呼ぶ。

 

今は国民が一体となって「コロナウイルス」という真の敵と戦うべき時。国民の間に不満が渦巻き、分断が広がれば勝てる戦さも勝てなくなる。


ここは、まずは一律30万円を全世帯に配布した上で、来年、再来年に特別徴収というかたちで結局減収がなかった世帯からはその程度に応じて後日精算を求めるようにしたらどうか。

また、休業要請をする=水に潜れというならば、休業要請対象の業種に対する休業補償を行うのも当然だ。


この点について先週の財務金融委員会の私の質問時、現金給付のやり方について麻生大臣に再考を促したが、政府も検討はしたことがある様子であったが、「確実に使ってもらうため」現在のやり方にしたというような答えであった。

それは違う。今は全国民に息を潜めて静かにしていただく時期。そうであれば、そのための酸素を速かに供給するのが政府の役割。


これは経済対策ではない。新型コロナウイルスの感染拡大防止対策なのだ。政府はそのことを念頭におき、迅速、簡便に「酸素としての30万円」を全国民にまずは届けるべきだ。

そして休業要請には休業補償を。