参議院での問責決議案審議において,三原じゅん子議員が激しい口調(「常識はずれ、愚か者の所業,恥を知りなさい。」)で野党攻撃をした反対演説が話題となった。しかし,問題は野党云々ではなく安倍首相に問責,あるいは不信任に足る理由があるかどうかである。

その答えは明快だ。安倍内閣には不信任に足る理由が明確に存在する。

 衆議院本会議での内閣不信任決議案審議で,野田前総理が,(不信任)賛成討論をされたが,そこで安倍内閣が信任に足るものでない理由を5つにまとめられ,簡潔だが説得力のある論陣を展開された。この内容こそきちんとマスコミが国民に伝えるべきものであったが,残念ながら今のマスコミは質ではなく話題性のみを追いかけ,必要なことを伝えようとしていない。そこで,ここにその内容を紹介させていただく。以下は基本的に議事録によったが,語尾などを簡略化させていただいた。

 

第一は、アベノミクスの失敗。
デフレからの脱却を目標としたアベノミクスが実施されてから六年半。物価の上昇も経済の成長も鈍いまま。実質賃金は上がっていないので、家計に恩恵は届いていない。トリクルダウンは起きていない。まだ道半ばと言い張っているが、随分と長くて曲がりくねった道,マッカートニーのザ・ロング・アンド・ワインディング・ロードが聞こえてきそう。アベノミクスの実行期間の長さを考えると、明らかに失敗だったと総括すべき。
2013年2月の衆院委員会で、総理は、デフレは貨幣現象、金融政策で変えられると明言したが,その思い込みこそ、アベノミクスの失敗の最大の原因。本年3月の衆院財務金融委員会においても、この考えに変わりはないと、(野田氏の)質問に対して頑固に自説を曲げず全く反省がない。異次元の金融緩和は異次元の副作用をもたらし,その副作用は、日本経済を停滞から衰退へ、そして転落へとたどらせかねない。

 

第二の理由は、財政再建を遠のかせたこと
日銀による財政ファイナンスは、金融一辺倒の限界を感じ、財政出動にシフトせざるを得なくなった安倍政権に打ち出の小づちを与えたも同然。
財政規律が緩んだ結果、基礎的財政収支の黒字化目標は、2025年度まで5年も先延ばしされた。フローの指標であるプライマリーバランスが黒字化されて初めて、ストックの指標である公的債務残高が安定する。まず止血しなければ、血をとめなければ、日本財政の容体は悪化するのみ。財政赤字という船底の穴を塞がなければ、日本丸は航海を進めることはできない。
昨年11月、財政制度等審議会は、平成という時代における過ちを二度と繰り返してはならないと指摘した上で、平成三十一年度予算は新時代の幕あけにふさわしいものになることを期待したいと建議した。にもかかわらず、今年度予算は昨年度よりも3兆7千億円も増加し、史上初めて百兆円の大台を超えてしまった。安倍政権は、何ら反省することもなく、未来を搾取し続けている。金融緩和の出口は見つからず、財政再建の入り口にも立てないという先には、かつて我が国が経験したことのない大きなリスクが口をあけて待ち受けているでしょう。


第三の理由は、社会保障と税の一体改革における三党合意の精神を踏みにじったこと。
まず、急務である社会保障改革が遅れに遅れていることを厳しく指摘しなければならない。
社会保障の国家百年の計がなければ、人生百年時代の人生設計をつくれない。その不安は、総理が金融庁は大ばか者と激怒した老後資産二千万円問題の背景にあると認識すべき。
また、10月1日に消費税を引き上げる予定ですが、軽減税率という天下の愚策を導入するため、今年度の税収増は約2兆円にとどまる。一方、ポイント還元など消費増税対策と称するばらまきは約2・3兆円にも上り,そろばん勘定が合わない。
加えて、7年前の党首討論で約束したように、本来ならば身を切る覚悟を示すべきなのに、党利党略によって参院定数の六増が強引に決められたことは、国民感情を逆なでする暴挙。
歳費の自主返納など、へ理屈で国民を欺くことはできない。そろばん勘定からも国民感情からも到底理解できないやり方の消費税引上げは、社会保障と税の一体改革の精神を台なしにするもので,怒りを通り越して悲しくなる。

 

第四の理由は、場当たり外交の行き詰まり。一昨年秋の国難突破解散の際に、総理は、対話のための対話では意味がないと語り、北朝鮮に対する圧力路線を加速するために国民の信を問うたはず。ところが、本年5月初め、北朝鮮がミサイルを発射したにもかかわらず、総理は日朝首脳会談を無条件で開催する意向を明らかにした。大きな路線変更ですが、明確な説明は全くない。しかも、北のその後の反応は冷淡きわまりない。
日ロ平和条約交渉においても、北方四島の帰属を明確にした上で平和条約を締結するという従来の方針から、二島返還へと大きく軸足を後退させたが,二島どころか石ころ一つ返ってくる兆しもない。我が国の固有の領土とか、ロシアによる不法占拠といった言葉を使えなくすることが、ミサイルをミサイルと呼ばず飛翔体と呼ぶことが、戦後日本外交の総決算だったのか。
領土問題で進展がないのみならず、領海は狭くなろうとしている。北海道の猿払村沖のエサンベ鼻北小島が海上から姿を消しました。領海や排他的経済水域の基点となる島の保全を怠り、水没するまで放置してきた責任は重大で怠慢のそしりを免れることはできない。

 

第五の理由は、不都合な真実の隠蔽が目に余ること。
公文書の改ざんや隠蔽、統計不正などを常套手段として、安倍政権は情報公開と説明責任に背を向け続けてきた。
年金の財政検証も、今国会中に公表されていれば、百年安心かどうか、冷静かつ客観的な議論ができたはずだが公表を参院選挙後に先送りをするということは、年金を争点化させないため。

トランプ大統領の日米貿易交渉について、8月にいい内容を発表できるとの発言は、密約の存在を疑わざるを得ない。日本の参議院選挙の後で、アメリカの大統領選挙の前に妥結ということは、これは、日本にとってはマイナスで、アメリカにとってはプラスになるだろうということを想像するにかたくない。これまた露骨な選挙の争点隠しではないか。
世界で一番ビジネスをしやすい環境をつくるための国家戦略特区は、権力の私物化や利権あさりの温床になっている。加計学園の獣医学部設置や真珠養殖の規制緩和に至る不透明かつ不公正なプロセスは、特定の人を念頭に置いて岩盤に穴をあけたとしか思えない。
渋沢栄一の「論語と算盤」の中に次のような一文がある。
「個人の利益になる仕事よりも、多くの人や社会全体の利益になる仕事をすべきだ。」
国家戦略特区諮問会議の議長である総理と国家戦略特区諮問会議ワーキンググループの皆さんに真摯に受けとめてほしい言葉である。

 安倍内閣は、憲政史上最長記録を狙う長期政権だが、見るべき成果は何もない。慌ててレガシー探しをされても、負の遺産がふえるだけで、迷惑千万。
長きをもってとうとしとせず、安倍内閣の即刻退陣を求める。

 

 以上のとおり,まさに簡にして要を得た演説であった。パフォーマンス主体ではなく,議論の中身に注目が集まる政治に変わるべきだと真摯に思う。